取引優先の大国 6
「我が国に入ってきて二カ月以上になるが、オルダヤ、ヒカルゴ、チカリヤ、そして洗浄党の危険性が少し知れ渡っただけか。この程度の話題になるだけだったら、私のアカウントで一度呟くだけで世界中に広まり、世界各国のニュースで速報されるだろう」
ジョン・ジェンキンズ大統領は事も無げにハットたちに言い放ち、
「とにかく時間が掛かりすぎている、時は金なりだ、時間が掛かればそれだけ後の取引にも影響し、本来は入っていたはずの収入を逃していることになる。言っても君たちは素人だから、私のようなエリートビジネスマンのようには行かないから仕方がないから、あと少しだけ猶予を与える。これが最後のチャンスだ」
大統領はオルダヤを元通りの開かれた取引相手に戻す、ヒカルゴをオルダヤのような酷い国にさせないように食い止める、洗浄党を完全に解体する、この三つのうち一つで良いからそのきっかけを作れと注文を出してきた。
チカリヤに関しては、
「あの国は私のような優秀なビジネスマンでも作戦を練り、数年、十数年単位で状況を見ながら進めなければまともな国には絶対にできないから、君たちのような若造には無理だから何も言わないよ」
チカリヤの脅威を大統領になる前から痛感しているようで、慎重姿勢を崩していない。
とにかくガルドラ刑務所の刑務所長代理アダム・シンズや、ヒカルゴのアリス・ホフマン前大統領と約束した、オルダヤやヒカルゴを元の住みやすい国にすべく動かないといけない。大統領もその点をハットたちに求めているのだから。
国家安全保障庁の職員に施設まで送ってもらい、三人で今後の取り組み方を話し合った。
しかし今の三人にできるのはSNSなどを使って情報を発信するだけ。しかしオルダヤで刑務所に入れられて以降は祖国の現状を自身の目で見ることはなく、ヒカルゴも一年数カ月しか滞在していないし、そもそも人々と直接接触する機会もなかったから本当のヒカルゴの様子を実は知らない。
「そうだよなあ、俺たちは発信を続けているけど、逮捕される前のオルダヤや洗浄党の実態しか発信できていない、四年以上のタイムラグや温度差があるんだよな」
「私は刑務所でシンからそれなりに情報はもらっていたけど、それだって生の声じゃない。そう思うと、よく世界各国を振り向かせることができているなと、自分で感心してしまうよ」
ブルとペトは率直な気持ちを語ったが、
「シンか……、無事だったらいいけど。僕は生きていると信じ続けるけど……」
「ハット、あの場で処刑されたと思うよ。あの刑務所では不満そうな顔をすれば刑務官だって処刑されているから……」
「ハット、俺もそう思うぞ。あの時海岸ではまるで花火を連射するように光っていただろ」
「だったら僕たちはシンの敵討ちを取らなきゃ。それがオルダヤを救うただ一つの道だよ」
「どうやって? 俺たちに今できるのはSNSでの発信だけ、しかもオルダヤの人たちに届いているかもわからないんだぞ」
「でも……」
ハットは自分の力不足を嘆くしかなかったが、現状ではこれ以上の手を打つことができない。地道に発信を続けるしかないことにジレンマを感じた。
アストルの大統領に言われたからではない、自分たちに祖国の命運を託した人が処刑され、理不尽な政党によって大統領の座を引きずり降ろされた人にも託されている。なのに自分たちは安全な場所からただSNSを使って発信しているだけ。
祖国オルダヤでもヒカルゴでも、洗浄党によって国をおもちゃのように弄ばれていても何が本当で何が嘘なのかもわからず、比較することもできず、大風呂敷を広げられても国から出られずに住み続けるには信用するしかなく、ただじっと見ていることしかできない国民たち。
もちろん洗浄党を信じている国民もいるけれど、騙されたと気付き落胆した時には、信用していなかった国民以上に打ちひしがれるかもしれない。洗浄党を信用している人もしていない人もただ健康的にそして安全に暮らしていければ、言いたいことが言えて自由に行動できれば、ただそんな国に戻ってほしいだけだ。
そんな当たり前の日常が送れる国にしてほしいと託されたのに、今の自分たちは……。
一〇日ほど経過したある日のこと、SNSに送られてきた多くのメッセージをブルがチェックしていると、
「ハット、これ、お父さんからじゃないか?」
「えっ?」
ブルがチェックしていたメッセージの本文には、ハットへの個人的な内容が書かれていた。
〝ハット、生きていたんだな! SNSのメッセージじゃなくメールで話したい。私のアドレスを書いておくから連絡を。アレン・ホール〟
「ホール先生からなのかい? 私も無事でハットとともに行動していますとメールを送ろうかな」
ハットより先に反応を示したのはペトだったが、ハットは何やら怪訝そうな顔をする。
「それ、多分なりすましだよ……」
「どうして? お父さんの名前まで書いてあるじゃないか」
ハットの反応にブルが反論したが、
「父は僕へのメッセージでフルネームを書くことはないんだ。それにね、このオルダヤ向けのSNSアカウントはまだ閉鎖されていないよね。ほかのアカウントはすべて一五分程度で閉じられているから……」
「ハット、ということは洗浄党が私たちの居場所を突き止めようと偽装したと?」
「ペト、僕はそう思ってるよ。邪魔なんだろうね、僕たちのことが……」
実際のところSNSへの書き込みで反応があるのはオルダヤ以外の国だけで、オルダヤ国内からの反応は今のところ全くなし。洗浄党などオルダヤを牛耳る人たちが、国民の目に触れないように徹底的に潰しているのが実情です。そんな状態なのに唐突に父からのメッセージは違和感がありまくるのです。
「ペト、ブル、ひょっとすると洗浄党は焦っているのかな、それとも僕たちを捕まえて処刑しないとマズいと思っているのかな。これまでもヒカルゴ内で発信し続けてきたけど、父を装って近づこうとしたことは一度もないから」
「ハット、国家安全保障庁に今のオルダヤの様子を聞いてみようか。何かわかるかもしれない」
ペトはそう言うと国家安全保障庁に電話を掛けた。




