取引優先の大国 5
オルダヤ国内から発信しているように見せ掛けて作ったアカウントは三人で数百に及ぶ。オルダヤや洗浄党にとって都合の悪い事を発信しているので、発信したアカウントは一五分もすれば閉鎖に追い込まれる。なので書き込むのは二、三〇だけにして残りのアカウントは温存しておき、並行して新しいアカウントをどんどん作っていった。
ヒカルゴに在住するハットたちの支援者に協力してもらって、ハットたちがオルダヤに向けて情報の拡散を試みていることをヒカルゴ国内で宣伝してもらい、何とかしてヒカルゴからの突破口も作り出そうとしていましたが、洗浄党の鉄壁な遮断に跳ね返されオルダヤ国民にはハットたちの発信が届いていないようです。
「〝国民に有害だと認めた行為に対し、大統領の裁量で量刑などを判断できる法律〟がモドル・タイダ大統領によって提案され、洗浄党の賛成で可決成立し即時施行されました」
モドル・タイダが大統領に就任して一〇日が過ぎた頃、ハットたちのヒカルゴ向けSNSのアカウントにこのようなリプライが殺到した。洗浄党にとって目障りな人間は排除しようと、オルダヤの洗浄党党首ヒロム・ヨウラがモドル・タイダ大統領に指示を出したのだろうか。
とにかくヒカルゴはチカリヤに乗っ取られないように注意しながら、オルダヤ化へ一歩前進したことになります。名前は違えどオルダヤの〝国民に対する影響を考えたうえで罪状と刑期を判断する法律〟と中身は同じなのですから。
「ハット、ここはヒカルゴへの発信を強化し、これまで私たちが発信し続けてきたことは嘘ではなく、現実にこういった法律となって現れたことを訴えるべきだよ」
「ペトの言うことと併せて、ヒカルゴの支援者たちにもっと俺たちの発信を拡散してもらうように協力を仰ごうぜ!」
ペトとブルは今こそ支援者の力を借りて、情報の拡散に協力してもらうのが良いとの考えを示したのですが、
「ペト、ブル、僕たちを支援してくれている人に洗浄党が危害を加えるのが怖いよ。僕たちみたいにSNSに一言呟くだけで禁固四〇年とか五〇年なんて判決が下されるのが怖い。僕たち三人だけで頑張って拡散するべきだよ」
ハットは自身と同じ目に遭ってほしくはない、しかも自分たちの投稿の拡散を手伝って捕まるだなんて事態は起きてほしくはない、その思いからの言葉だったのですが、
「ハット、気持ちはわかるよ。私だって本当の事や思っている事を生徒たちに伝えただけで逮捕なんて、そんな目には誰も遭わせたくはない。でも、オルダヤでは今この瞬間にも同じ目に遭っている人がいるし、ヒカルゴだってあのくだらない法律が制定されたおかげで、今後は逮捕される人が増えるはず。それを阻止するためには仕方がないとは思わない?」
「今ペトが言ったとおりだと思うし、俺は多少の犠牲者はやむなしと考えている。危険も犠牲も何もなくオルダヤやヒカルゴに元々の平和な暮らしが戻せるとは思っていないし、俺たちの作戦が成し遂げられるとも思えないんだ」
――ある程度の犠牲はやむなし。
確かにそうかもしれない、誰も逮捕される危険を冒さずに平和だった昔を取り戻すことは至難の業。でも今ハットたちの発信を支援してくれている人たちの中に、自らが犠牲になっても良いと考えている人なんているのかな。もしも考えている人がいるとしても、数多くの中から自分だけが犠牲になることを仕方がないと思える人がいるのかな。
普通は自分には当たりませんようにと祈るものだと思うし、もしも当たってしまったらずっとハットたちを恨み続けるのではないかな。恨まれるのは別にかまわないけど、危険だとわかったらハットたちの支援をやめて、洗浄党の支援に鞍替えする人が出てもおかしくはないと思うけど。
だから、
「処刑は免れても理不尽な理由で逮捕されて獄中生活を送っている人も多いよね。僕たちはたまたま支援してもらって刑務所を抜け出すことができたけど、所内で処刑された人も多いよね、これ以上そんな犠牲者を生みたくはないよ!」
ハットはペトとブルの意見を拒絶し、自分たち三人でオルダヤやヒカルゴに対して事実を発信していく道を選んだ。
「それで、今以上に世界中への発信機会を増やしていき、外圧を使うことも考えるべきだと思っている」
例えば世界各国の人権保護団体の力を借りたり、人権を非常に重んじる国の外相に協力してもらうなど、何段階か外圧を強めることも必要だと考えたハット。
「ヒカルゴへの発信は他国で見ている人も少しはいると思うけど、オルダヤへの発信はすぐに消されることもあって他国ではまず見られていないと思うんだ。だから両国向けの発信をいろいろな言語に訳して、世界中に発信していく必要があると思う。今はこの作戦に注力しよう」
三人の中ではもっとも年下のハットだが、リーダーに祭り上げられている以上ペトとブルは従わなければいけない。従うつもりがなければこのグループから抜けることになる。
「ハット、わかったよ。今以上に忙しくなって寝る間もなくなるかもしれないけど、従って頑張るよ」
「刑務所長代理のアダム・シンズやヒカルゴのアリス・ホフマン前大統領と約束したもんな、元の国に戻してほしいと。みんなが安全平和に暮らせる国に戻すための犠牲なんてあっちゃいけない、そういうことだろ、ハット」
「ペト、ブル、二人の意見を押し切ることになるけど、僕はできるだけ犠牲者を抑えたいんだ。本当に寝る間もなくなるかもしれないけど、協力してほしい」
ハットはペトとブルに頭を下げた。
ハットたち三人はオルダヤやヒカルゴへ発信を続ける一方で、全く同じ内容を翻訳機片手に各国の言語に訳してSNSで流し続けた。もちろんアストル内に向けても。この作戦が功を奏し、世界中でオルダヤやヒカルゴ、チカリヤ、そして洗浄党への関心が非常に高まっていった。
世界中への発信に切り替えて効果が出始め、わずかだけど手ごたえを感じ始めたのはアストルへ来て二カ月が経過した頃だった。
その矢先に、
「大統領がお呼びです、今から官邸へ来てください」
国家安全保障庁の職員が、ハットたちが寝泊まりと執務で使用している施設にやってきてそう告げた。
褒められるのかななんて思いながら迎えの車に乗り込んだハットたちだったが、大統領の言葉に愕然とすることになる。




