取引優先の大国 3
「大統領、ヒカルゴ連邦国家安全情報部のミスティ・パガーノ長官です。そしてこちらの三人が例の人物たちです」
側近の紹介にアストル大統領ジョン・ジェンキンズはパガーノ長官や彼女の部下とは握手したが、ハットたち三人とは目が合うとうなずきはしたがすぐに視線を逸らせ、
「国境警備局のヴェガから報告は受けたが、私は君たち三人を信用していない。オルダヤ人が国籍を偽り、偽のパスポートを使って入国しようとしたという事実は動かせないからだ」
ジェンキンズ大統領はあくまでもハットたち三人は不正入国を働いた者であり、アストルへの入国は認めない考えのようです。
アストルの国境警備局ヴェガ上級局長やヒカルゴの国家安全情報部パガーノ長官が、大統領やその側近に説明し説得していくのですが大統領は頑としてハットたちの入国を認める気はない、オルダヤへの強制送還が難しければヒカルゴへ送り返せば良いと一考にも付さないようです。
アストルよりもチカリヤを選択したオルダヤ人と洗浄党を信用することはできないというのが理由です。そこでヒカルゴは洗浄党の影響が強くなり、さらにオルダヤが完全に併合を狙っており、それを阻止するためにハットたちが動いているのだと長官たちが根気よく説明していくと、
「どうしてもこの三人を我が国に入国させたいのならばヒカルゴの危機を救い、さらに昔のようにオルダヤと我が国との強固な同盟関係を築き直してみろ、それができるというのならば我が国の永住権を与えてもかまわない。これは取引だ、取引が成立すればお互いに得るものがある、不成立ならばお互いが現状の立場に戻るだけだ」
自国第一主義を掲げるジェンキンズ大統領、その側近たちも大統領に負けず劣らず強力な個性を発揮する。
「取引に失敗すれば君たちだけでは事は済ませない、そもそもチカリヤの属国となったオルダヤに対しては、場合によっては先制攻撃を加えることもあり得る。君たちのようなスパイを送り込んできたという明確な理由もあるからな」
「ヒカルゴが洗浄党による支配が強くなれば、関税の大幅引き上げや貿易自体を停止させることもある」
防衛長官や貿易長官は取引不成立後のアストルの出方を端的に説明した。
「君たち三人がこの取引に応じるのならば、取引終了まで我が国に滞在することを認めよう。ただし自由に出歩くことは禁止する、君たちの行動範囲については制限エリアを設ける、同意するならばサインしろ」
国家安全保障長官も続いた。
ハットたち三人はサインするしかなかった。サインしなければ即時強制送還だし、サインしても失敗すれば強制送還。とにかくヒカルゴやオルダヤの実態を世界中に向けて発信するとともに、ヒカルゴやオルダヤへ向けての情報発信も担うことになった。
「君たち三人が自由に行動できるのは今から移動する施設の敷地内のみだ。敷地外へ許可なく出た場合は銃殺される可能性が高いと頭に入れておいてほしい」
国家安全保障長官に注意された後、乗ってきたマイクロバスに一〇分ほど再び乗車して居住兼執務施設へ移動した。まだ官邸が建つ敷地内なのかと思っていたけど、柵で区切られた別の敷地のようでした。
施設の門に近付くとスタンガンを持った警官が扉を開け、バスを敷地内へ入れて建物のすぐ前で降ろされたハットたち。大統領官邸と比べると本当に小さな建物ですが、世間一般の感覚からすると十分すぎるほどの豪邸です。そんな豪華な建物内へと入って行きました。
「君たちが執務をしながら生活する家はここです。しばらくの間使っていなかったので埃っぽいかもしれませんが、そこは我慢してください」
ヴェガ上級局長はここまでを説明すると窓のカーテンをばっと開き、
「この建物周辺は高さ七メートルのフェンスで囲まれています。そして見えますね、警察官が二四時間体制で警備していますので、迂闊な行動を起こすとすぐにバーン! わかりますね」
「ペト、ブル、ハット、必要な物があれば私に連絡して、すぐに持ってこさせるようにするから」
パガーノ長官が捕捉で説明してくれたがヴェガ上級局長が、
「パガーノ長官、それはこちらで引き受けます。テーブルに置いてあるスマホで連絡してください。食事の用意もこちらで行います。執務上で何か問題が起きた時もそのスマホで連絡してください」
一時はどうなるのだろうと思った三人ですが、ヒカルゴほどの特別待遇ではないにしろ、かなり良い待遇でアストルに留まることができます。ヒカルゴにいた時もほとんど外出はままならない状態だったから、この施設から出られないとは言えそれほど苦痛に感じることもないでしょう。
パガーノ長官たちはホテルに宿泊し、しばらくの間は大統領のほか入出国管理や安全保障分野の役人との会談が続くようで、ヒカルゴのこれからについて深く話し合われるようです。
ハットたち三人はアストルが用意した施設から、早速SNSへ謝罪文の投稿から〝業務〟を始めた。
「ハット、ヒカルゴへは届いているのかい?」
「ペト、きちんとリプが返ってきているから届いているようだよ」
「さすがにオルダヤへは届かないか……」
「通信が制限されているようで、オルダヤでは僕たちがSNSに書き込んだメッセージを目にすることができないみたい」
「その制限を突破してオルダヤへ私たちのメッセージを届ける方法はないのかな」
「ペト、ハット、取りあえず何か良い方法がないか、国家安全保障とかの人に聞いてみないか?」
何も知らないハットたち三人が話し合ったって、オルダヤの通信制限を突破できる良い方法なんて見つかるはずもなく、ブルの提案に乗っかったペトが渡されたスマホで早速問い合わせると、通信安全局の係員がすぐにやってきた。




