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取引優先の大国 1


 パガーノ長官と部下、そしてハットたち三人はアストルでもっとも大きい国際空港に降り立った。


 パガーノ長官たちはすんなりと入国審査をパスできたのですが、三人はそれぞれ別室へ連れて行かれ持ち物検査や身体検査を行い、さらにさまざまな質問をぶつけられます。


「ミッドハット・ホール君、あなたは本当はヒカルゴの人ではありませんね。このヒカルゴのパスポートはどうやって入手したのですか? そしてどうやって公用ビザを取得できたのですか?」


「それは……、ヒカルゴの国家安全情報部で仕事をしていて、それで大統領に発行してもらって……」


「あなたはヒカルゴ国籍は持っていない、オルダヤ国籍の人ですね。しかも刑務所を脱獄したという情報も得ています」


「え?」


「わが国は以前はオルダヤとは同盟国、もっとも親密な関係を築いていた国の一つでした。今ではチカリヤの属国になり、最も警戒すべき国の一つです。そのような国の犯罪者で脱獄囚、そして偽造もしくは騙して入手したパスポートで入国しようとした人を認めるわけにはいきません」


 ――祖国オルダヤはチカリヤの属国だと認定されているのか……。


「あなたは国籍のない国のパスポートを所持し、公用ビザまで入手しているので不法入国の疑いが掛けられています。まずは自身の置かれている立場を考えてください」


 アストルが警戒するチカリヤの属国とみなされた祖国オルダヤ。その国の人間がヒカルゴのパスポートで入国しようとした。入国審査官が不法入国という言葉を出すのも当然のこと。しかし、どうして三人がオルダヤ国籍のオルダヤ人だとわかったのか。審査官によると脱獄したという情報まで得ているから、誰かが情報を流したということです。


 おそらくヒカルゴ洗浄党がアストルに対して、オルダヤで犯罪を犯したうえに脱獄した三人が、ヒカルゴのパスポートで不法入国を企んでいる、そんな感じで伝えたのだろう。


 どこをどう調べてもらっても入国を認められるわけもなく、オルダヤへ強制送還されて到着後すぐに処刑されて終わりだなと、腹を括るというよりは諦めにも似た感情しか湧いてこず恐怖心も何も感じなかったハット。それに加えてヒカルゴのホフマン大統領との約束は何一つ果たせないので申し訳ない、そんなことを思った。


 その後も尿検査を行って薬物の反応を調べたり、薬物や武器をアストルで売りさばく手配をしているのではといった疑いまで掛けられ、長時間の取り調べになっています。さらに身分を偽装しての入国だからテロリストの疑いも掛けられている。チカリヤを警戒しているアストルにとって、その属国に落ちぶれたオルダヤの人間がテロを企んでいる可能性を疑うのは当然ですから。




 夜明け前に空港に到着してからずっと取り調べが続き。もう夜七時を過ぎている。眠気はないが疲労困憊な状態で椅子に座っているハット。その部屋に数人の審査官が入ってきた。


「ハット、悪いが部屋を移動してもらうよ」


 ――いよいよ強制送還の手続きが始まったのか……、刑務所の中でおとなしくしていれば四五年は生きられたはずだけど、飼い殺しにされるより今日まで送ってきた短い人生のほうが波乱万丈で楽しかったし、いい経験をさせてもらっての処刑だから別に文句もないよ。


 ハットは強制送還後に待っている処刑に思いを巡らせた。


 取り調べを受けていた部屋から四人の審査官に囲まれるようにして出たハットは、少し離れた別の部屋へ連れて行かれた。


 ――一二時間も飛行機に乗ってやっとたどり着いたのに、また同じくらいの時間飛行機に乗って、今度は処刑されるとわかっている祖国へ連れ戻されるわけか。どうせならここで処刑してもらうほうがいいのにな。


 そんなことを考えながら別室へ入るとパガーノ長官たちがいた。


「ハット、ごめんね、まさかこんなことになるとは思ってもみなかったから……」


 長官に申し訳なさそうに話し掛けられた。


「仕方がないですよ、オルダヤで脱獄したことまでバレているのですから。他国のパスポート所持にビザの不正取得、強制送還されても仕方がないです」


 長官にあいさつがてら話したハット。


「ハット、私は国境警備局の上級局長のカルジュ・ヴェガです、よろしく」


 上級局長があいさつを終えると、手を差し伸ばしてきたので握手をしたハット。


「私とパガーノ長官とは古くからの友人であり、それぞれの国を守るといういわば同士のような存在だ。そのパガーノ長官が君の事を証明をしてくれた。なのでここでは送還手続きは行いません」


 ――ここでは強制送還の手続きは行わない? 別の場所で手続きを行うってこと?


「当然ですがオルダヤへ強制送還するのが決まりです。ただし高度な政治的判断も必要なため、われわれレベルでは決断ができない、それが今の状況です」


「ハット、私がすべて説明したから安心して。オルダヤ人なのは確かだけどヒカルゴのために働き、オルダヤではパスポートの発給を受けられないこともあるし、ホフマン前大統領の信頼も厚いからパスポートを発行してもらった。さらに前大統領の命(めい)を受けたからアストルに対して公用ビザの発給を申請したと」


「審査官どころか部局で判断できる事柄ではなくなり、わが国の国家安全保障局のトップの判断が必要になったのです」


 どうやら上級局長の判断で決められる範囲を超えて、国の重要な安全保障問題に該当するために、アストル上層部の判断を仰ぐ必要があるようです。


「長官、ペトやブルは?」


「大丈夫よ、もうすぐこの部屋へ来るはずよ」


 五分ほどしたころにペトとブルも連れて来られた。




「パガーノ長官を含めみなさんは大統領官邸へ行っていただきます。三時間後に出発予定の飛行機でニュー・アルカディアへ移動です」


「大統領官邸ですか?」


「ああ、大統領も直接話がしたいとおっしゃっているからな」


 ペトの質問に答えた上級局長。


 ハットたち三人と長官たちはアストルが用意した飛行機に乗り込みニュー・アルカディアを目指した。


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