把握
俺は、人材派遣を成功させるために、顧客になりそうな商人たちに会いに行った。
多くの者から、こう言われた。
「奴隷を雇う? 買うじゃなくって……」
奴隷は買うもの、借りるものという感覚を、すんなりと受け入れられる者は、少なかった。
「人を雇うと、家だったり、食事、あとは定期的な仕事を与えないといけない。
それが負担だったりしませんか?」
と俺は尋ねた。
「そうだ。それが負担で、あとは育ったと思ったら、辞めていく」
と商人は言った。
「俺が思うに、あなたは商売は上手い。あとは人さえ上手くコントロールできれば、街一番になれる。そうじゃないですか?」
と俺は笑みを浮かべた。
「お世辞が上手いね。ただ確かに、私もそう思うよ。人の手配は、一番厄介だ」
と商人は苦笑いをした。
「しかも、一番厄介な上に、ほとんど運任せだ。そうじゃないですか?」
と俺は問いかける。
「それはある。たしかに」
と商人は腕を組み、考える。
「うちが今回言ってるのは、まさにあなたのような一流の商人のためにある、特別なやり方なんですよ」
と俺は声のトーンを落とした。
「というと……」
と商人は前のめりになる。
あっ、落ちるな。
俺は直感した。
「まず、あなたは高いお金を払って、消耗品の奴隷を買わなくて済む。うちが貸すから」
と俺は商人の肩を叩く。
「ほう。それで」
と商人は笑みをもらす。
「しかも、朝晩の飯も出さなくて良い。これはうちが食わせる。もちろん栄養のあるものを食わせるよ」
と俺は小声で言った。
「じゃあ、朝晩の飯の用意をする使用人もいらないわけだね」
と商人も小声で言った。
「さすが、一流の商人は目の付け所がわかってらっしゃる。これに加えて、通いで仕事をさせるから、寝るところも必要ない」
と俺はソファーにのけぞった。
「それだと、その分店の拡張に使えるね」
と商人は前のめりになる。
「そうそう。そして、極めつけが、教育はある程度こっちで教えてから出す」
と俺は顔を近づけて言った。
「それはすごいね。即使えるわけだ」
と商人はニヤニヤしている。
「とは言っても、基本的なことだけだよ。どこにモノがあるとかは、教えないといけないけど、奴隷ってさ、読み書きも計算もできないじゃない」
と俺は言った。
「そうなんだよね。あれ教えるの、微妙だからね。教えてものになったころに、倒れる。
そんな事も多いんだよ」
と商人は溜息まじりに言った。
「だいじょうぶ。学校出のように完璧じゃないけど、まぁ使えるレベルには仕込んである。
あとは、徐々にその能力も上がっていくから」
と俺は商人の肩を叩いた。
まぁこんな感じで、割と交渉は上手く行き、実際に派遣も始まった。
ただ若頭をやっていた時も、今も、すんなりと上手くはいかないもので。
1か月後、奴隷の少年が殴られる事件が発生した。
俺は現場に向かう。
奴隷の少年は、部屋の隅っこでガタガタ震えている。
「何がありました?」
と俺は尋ねた。
「何がもクソもない。こいつが店の売上をくすねたんだ」
と商人はテーブルを叩いた。
「こいつが? 何か証拠でもあるんですか」
と俺は首をかしげる。
「証拠はない。でもこいつしかありえない」
と商人は溜息をついた。
「……なるほど、で……額は?」
と俺は尋ねた。
「銀貨20枚だ」
と商人は肩を落とした。
「じゃあこいつが、銀貨20枚をくすねたって言うんですね」
と俺は確認をした。
「そうだ」
と商人はテーブルを叩いた。
「わかりました。じゃあ私が身体検査いたします」
と俺は奴隷の少年の服を脱がせる。
あちこち探すが、金は出てこない。
「おかしいですね。
こいつの服を探しましたが、一切出てこない。
これはどういうことですか」
と俺は商人の目を見た。
「そんなものは知らん。どこかに隠したのだろう」
と商人は吐き捨てた。
「どこかに隠した?
こいつは行きと帰りは、うちの者が送迎をしています。
となると、隠し場所は、この店の中しかありませんね」
と俺は確認した。
「まぁそうだな」
と商人はふてくされる。
「それで……、店の中を探して見つからなかったら?
これは冤罪ですよね」
と俺は尋ねる。
「まぁそうだな」
と商人は言った。
少し目が泳いでいるのが、
わかった。
なるほど、
確証が持てなくなってきたな。
「わかりました。じゃあうちの者を何人か連れてきます。そこにお座りください」
と俺は商人の肩に触れる。
「あぁ、わかった」
と商人は言った。
30分後、
執事と男の使用人3人が店にやってきた。
俺は事情を説明し、
執事には帳簿の確認。
男の使用人3人は下着一枚にさせ、
銀貨を隠すスペースを完全になくした。
「では、始めろ」
と俺は指示をした。
使用人は店のあちこちを探し出す。
執事は帳簿を確認しはじめる。
30分後。
「旦那様、ここの数字が合っておりません」
と執事が言った。
「おい、止めろ」
と俺は使用人に指示をする。
俺は商人の目の前に、
帳簿を出し、
計算をさせる。
そして銀貨20枚は、
商人の計算ミスだったことが判明した。
「正しいと思っていたんだ」
と商人は苦笑いをした。
「そうでしょうね……。
セバス。
今回の使用人とお前の派遣、
そして少年の手当てと慰謝料込みで、
いくらが妥当だ?」
と俺は尋ねた。
「銀貨15枚が妥当かと」
とセバスは言った。
「じゃあ、銀貨15枚だ」
と俺は商人の目を見た。
「わかりました……」
と商人は苦笑いをした。
……
この日から、
派遣の奴隷たちの服をすべて、
ポケットのないものに替えた。
作業は使用人全員で行った。
そして
・今回の事件とその顛末
・ポケットのない服にした理由
を使用人と奴隷たちに共有した。
そして、
次の日、俺自ら、
すべてのクライアントに、
・今回の事件とその顛末
・ポケットのない服にした理由
を説明しに行った。
クライアントの反応は、
様々だったが、
ポケットがない服というのは、
疑う必要がなくなって逆に楽だという、
評価が多かった。
まぁ彼らも、
奴隷とは言え、
疑いたくはないのだろう。




