奴隷という形態の解体
俺たちは、屋敷に戻った。
まず奴隷たちを風呂に入れた。
風呂に慣れてないものも多く、
暖かいお湯に驚いた。
10人の奴隷たちを風呂に入れ、歯を磨かせるのに、
使用人総出で3時間かかった。
俺はまず、
奴隷たちに少量の果物を与えた。
奴隷たちはロクに栄養のあるものを食べていない。
急に栄養価の高いものを与えると、腹を壊してしまう。
だから少量ずつ。
徐々に増やしていくことにした。
俺はその旨をエリーザに伝え、
世話をさせた。
古着だが、汚れもニオイもない服に着替えさせた。
皆、
服が暖かいと喜んでいた。
奴隷の服は洗われていない。
長期間洗われない服は、
人の汗と脂が染みこみ、
繊維に膨らみがなくなり、
保温効果を失ってしまう。
動物繊維であれば、
洗濯せずとも、
長期間保温性を保つが、
奴隷たちが着ていたのは、
植物繊維。
洗わないと保温性は低下する。
前に着ていた服は、
何か、
誰かに、
嫌がらせする時の為に使おうと、
置いておくことにした。
1週間ほどして、
奴隷たちはずいぶん顔や手足がふっくらしだしてきた。
問題はこいつらをどう扱うかだ。
奴隷は、男が金貨2枚、女が金貨3枚というのが、
この世界の相場だ。
これに年齢や見た目の良さで値段が変わってくる。
俺は一つの可能性を考えた。
レンタル業だ。
レンタルは、保有とは違う。
長い目で見ると保有よりは、高くつくが。
短期間しか使わない相手にとっては、安くつく。
これで上手くいっている現実的な商売が、
貸し道具屋
建設機器のレンタル業
貸し衣装
そして、
人という面でいうと、人材派遣ビジネスだ。
まぁ……、
ただ人材派遣ビジネスは、
たぶん割とうまくはいくと思うが、
派遣しない間は、
利益が出せない。
通常の貸し道具屋であれば、
置いておくだけでいいので、
かかるのは保管するスペースだけのコストだが。
人の場合は、飯を食うので、
その分、コストがかさむことになる。
俺は考えた。
今屋敷では、
花屋やレストランの経営も回している。
従業員の仕事を減らし、花屋やレストランに回したように、
奴隷たちも、何か一つの仕事しかできない単能工ではなく、
複数のジョブをできる多能工に育て上げるのはどうだろうか?
これだと、自社ビジネスでも使えるし、派遣ビジネスでも使える。
俺は執務室に屋敷の執事を呼び出した。
(こんこんこん)
執務室にノックの音がする。
「セバスです」
とセバスの声がする。
「入ってくれ」
と俺は言った。
「失礼します」
とセバスは言った。
「相談なんだが、奴隷たちを君たちのように、色んな仕事をできるようにしたい。
コストをかけずにする方法はあるか?」
と俺は尋ねた。
「コストがゼロという意味でしょうか」
とセバスは言った。
「いや……、そうではない。極力コストをかけずにということだ」
と俺は言った。
「……旦那様。
少し説明が長くなりますが、よろしいでしょうか」
とセバスは言った。
「構わない。やってくれ」
と俺は言った。
「では。
まず仕事というのは、本質的に必要な部分とそうでない部分がございます」
とセバスは言った。
「……というと?」
と俺は言った。
「例えば洗濯であるなら、洗濯するのと、すすぐのと、干すのが本質的に必要な部分です。
しかし、アイロンを当てるというのは、必要かどうかは人によります」
とセバスは言った。
「なるほどな。下着の類はアイロンは不要だからな」
と俺は言った。
「左様にございます」
とセバスは言った。
「……という事は、まずどこまで仕事をさせるか?そこの見極めが重要だと。
そう思うのか?」
と俺は言った。
「御意に」
とセバスは言った。
「そういうのは、あらゆる仕事にあるのだろうか?」
と俺は言った。
「どうでしょうね。
料理でも、単純にしようと思えばいくらでも単純にできます。
ただ鶏肉などは茹でたり、火を通さないといけないので、肉料理なら本質は、火を通すことでしょうね」
とセバスは言った。
「なるほどな。では花屋であれば?」
と俺は言った。
「花屋であれば、
①剪定する花を選ぶ。
②花を剪定する。
③店まで運ぶ。
④店で保管する。
⑤販売し料金を貰う。
の5つでしょうね」
とセバスは言った。
「花屋で難しいのは何だ」
と俺は言った。
「うちの使用人はお金の計算はできますが、奴隷たちにはお金の計算は難しいでしょうね」
とセバスは言った。
「なるほど、他に難しいものはあるか?」
と俺は言った。
「そうですね。
文字の読み書きができなければ、店の花の名前を覚えるのも難しいでしょうね。
そうなると販売が少し困難かもしれません」
とセバスは言った。
「お金の計算は、
例えば、全ての花を同じ価格にして、
1本なら銅貨1枚。
10本セットなら銅貨9枚。
という風に単純にしたらどうだろうか?」
と俺は言った。
「それであれば、計算のできない奴隷でも、まだ可能でしょうね。
ただタチの悪い客に会うと騙されるでしょうね」
とセバスは言った。
「まぁそうだろうな。そういう客は多いのか?」
と俺は言った。
「100人中2~3人といったところでしょうか」
とセバスは言った。
「じゃあ。無視しても問題ないぐらいかもな」
と俺は言った。
「そうですね。あらかじめ損を織り込んでおかれるのは賢明なご判断かと思います」
とセバスは言った。
「花の名はどうすれば良いと思う」
と俺は言った。
「そうですね。
時期によって咲く花が固定されますから、
常時置かれるのは5種類くらいで、
これはバラ、これはガーベラという風に教えればいいのだと思います。
そして、全部の文字を教えるのではなく、バラ、ガーベラという文字を記号として、つまり記号=音として、認識させればいいでしょう。
一から言語教育として学習させるより、コストは低いかと思います」
とセバスは言った。
「……セバス、読み書き計算を覚えさせるのは、どうだろうか?」
と俺は言った。
「コストはかかりますが、長い目で見ると賢明なご判断かと思います」
とセバスは言った。
「コストをかけずにしようと思えば、どうする?」
と俺は言った。
「……そうですね。
仕事時間以外の休憩時間などで、
奴隷の中で、計算のできる者、読み書きのできる者に教えさせるのは、いかがでしょうか」
とセバスは言った。
「それは働かせ過ぎではないか?」
と俺は言った。
「奴隷たちの労働は、ほとんどが肉体労働ゆえ、休憩時間に勉強なら、体を休めることにもなり、問題ないかと」
とセバスは言った。
俺は奴隷という制度については、
何も思わない。
実生活の中ではあらゆる所に
奴隷制度がいまも根付く。
全てがやりがいという名の皮をかぶった奴隷制度だ。
いや……、
まだ食事がつくだけ、
奴隷のほうがマシかもしれない。
だから……、
俺は少なくとも、
自分の管理する奴隷たちには、
生きててよかったと多少なりとも思える地獄に変えてやりたいと思う。
修羅の世界で生きてきた俺だからわかる。
この世は天国じゃない。
どちらかというと、地獄よりの世界なんだから。




