エドモントの仕事
俺は執務室にロックを呼び出した。
(こんこんこん)
執務室にノックの音がする。
「ロックです」
とロックの声がする。
「入ってくれ」
と俺は言った。
「失礼します」
とロックは言った。
「頭を打ったせいか、記憶が一部曖昧でな。帳簿や執務室にあった資料などで、頭の整理はしているんだが、わからないことが、まだ多くてな。手伝って欲しい」
と俺は言った。
「もちろんです。では何から」
とロックは言った。
「そうだな。俺は奴隷をどこから手に入れていた。買い取った相手の名前が少し曖昧になっている。あれは仕入れ先をごまかすためだよな」
と俺は言った。
「旦那の言う通りです。買い取る相手は地主、冒険者、山賊や盗賊などもいました。あと……、隣国とこの国の騎士団です」
とロックは言った。
「そこらへんの記憶も少し曖昧でな。
地主はあれか……小作からの借金とかかたに、その息子や娘を取り立てるみたいなやつか」
と俺は尋ねる。
「そうです。そうです」
とロックは言った。
「冒険者はなんだ」
と俺は尋ねた。
「冒険者は、基本的に街の外で確保した少年や少女を売りに来ます」
とロックは言った。
「確保っていうのは、どういう事だ?」
と俺は言った。
「一応、ゴブリンとか魔物に囚われている少年少女を救出し、それを売りに来たという感じですね」
とロックは言った。
「親元には返さないのか?」
と俺は言った。
「それは返さないですね。もともとゴブリンに捕まっている時点で、村が襲われて両親も亡くなっているケースが多いですし、それに返すよりも、奴隷商人に売るほうが高値で売れますから」
とロックは言った。
「なるほどな。冒険者も人助けじゃねぇって事か……」
と俺は言った。
「他の国じゃ知りませんが、冒険者って職業は……、あれですぜ」
とロックは口を濁した。
「ロック。お前も冒険者上がりじゃなかったか?」
と俺は言った。
「旦那。覚えてくれてたんですね。その通りです。俺も冒険者でした」
とロックは言った。
「なんで冒険者になった?」
と俺は尋ねた。
「俺もですが、冒険者になるのに一番多いのが孤児、2番目が次男三男ですね。
跡をつげないですから」
とロックは言った。
その目には、少しの絶望感があった。
「そうか……、じゃあ元孤児の冒険者が、孤児を奴隷商に売ってるんだな」
と俺は言った。
「へぇ。笑えねぇ冗談みたいな話ですが……」
とロックは口ごもった。
まぁ経済合理性で考えると、そんなものだろう。
俺はそう思った。
まぁ好き嫌いで言えば、
そんな世界は好きじゃねぇな。
「山賊、盗賊は、襲った村や旅人とかを売りに来るんだよな」
と俺は尋ねた。
「それは、その通りです」
とロックは言った。
「じゃあ騎士団ってのは?」
と俺は言った。
「まぁ騎士団も、山賊、盗賊と同じ類ですね」
とロックは言った。
「そうなのか?」
と俺は言った。
「隣国とか、領土内で従わない村や、一揆を起こした村や、反乱を起こした貴族などの、討伐と、そこで確保した者を奴隷として売りにきます」
とロックは言った。
「なるほどな。買い手は?」
と俺は言った。
「買い手は貴族が多いですね。たまに商人などの金持ち連中……」
とロックは言った。
「購入目的は?」
と俺は言った。
「仕事用とあれですね」
とロックは口ごもった。
エドモントの記憶が頭に流れ込んでくる。
あぁ……、
そうか、そういう事か。
やっぱりクソみたいな世界だな。
「奴隷の寿命はどのくらいだ?」
と俺は言った。
「仕事用だと5年、あれだと2年がいいところです」
とロックは言った。
俺は人を消耗品として扱い、
それで誰も声を上げない世界に、
胸糞悪さを感じた。
「今いる奴隷たちを見ておきたい」
と俺は言った。
「じゃあ。キレイにして連れてきます」
とロックは言った。
「いや。見に行く」
と俺は言った。
「いや。旦那……、奴隷のいる場所は臭いですぜ」
とロックは渋った。
「構わん。連れていけ」
と俺は言った。
「わかりました」
とロックは渋々承諾した。
「エリーザ、エリーザはいるか」
と俺は叫ぶ。
「旦那様、お呼びで」
とエリーザは言った。
「あぁ、これから奴隷たちの元に行く。使用人全員連れてこい」
と俺は言った。
エリーザはうなずき、足早に去っていった。
「旦那。ですから、臭いですって」
とロックは言った。
「奴隷は俺の持ち物だ。臭いところには置いておけない。
臭いなら掃除させる」
と俺は言った。
「旦那がそうおっしゃるなら」
とロックは肩を落とした。
5分ほどして、
使用人が集った。
「一部外出しておりますが……、これでよろしいでしょうか」
とエリーザは言った。
「あぁ大丈夫だ。じゃあロック行くぞ」
と俺は言った。
「本当に臭いですんで、皆さん覚悟なさってください」
とロックは言った。
奴隷が収容されている場所は、屋敷から1kmほど離れた場所にあった。
石造りの建物のなかに、牢があり、奴隷たちは鎖でつながれていた。
ひんやりと冷たく寒かった。
一様にぼろを着ており、
皆、生気のないぼんやりとした顔をしていた。
糞尿と、
死臭のような臭いが混じりあう、
とても不愉快な場所だった。
使用人たちは、顔をしかめる。
「ここにいるのは何人だ」
と俺は尋ねた。
「男が4人、女が6人の計10人です」
とロックは言った。
「屋敷に連れて行くぞ」
と俺は言った。
「旦那。なに言ってるんすか。臭いですよ」
とロックは狼狽する。
「エリーザ。
こいつらを風呂に入れて、歯を磨き、服を着替えさせても臭うと思うか?」
と俺は尋ねた。
「いいえ。私ども使用人にお任せくださいませ」
とエリーザは言った。
他の使用人たちも、
承りましたと、
頭を下げた。
「ロック。今日からこの施設は奴隷用には使わない。別の用途で使うからな」
と俺は言った。
「あぁわかりました。では私は……」
とロックは心配そうにしている。
「俺の側で手伝ってくれ」
と俺はロックの耳元にささやいた。
「もちろんですぜ。なんでも言ってください」
とロックは喜んだ。
「じゃあ。行くぞ」
と俺は言った。
「へぃ」
とロックは言った。




