23:羞恥を覚える~マリー~
羽ペンと羊皮紙と封筒をもらうことができた。
羽はボサボサ、羊皮紙もなんだかボロボロ、封筒は黄ばんでいたが、文句は言えない。
検閲されることを踏まえ、手紙を書いていると。
鉄の扉がノックされる。
振り返って扉の方を見ていると。苦しい音を立てながら開いた扉から中へ入ってきたのは……。
フード付きのマントを羽織った男性で、顔を隠すようにしているが。フードの下から見えているプレスされた白のズボンに乗馬用の黒革のブーツ。どう見ても一級品に見える。それにこのスラっとした長身は……。
「……マリー、突然すまない」
扉が完全に閉まってから、フードを外したその男性は。
スコット皇太子だ。
何をしに来たのだろう。そう思うが。
椅子から立ち上がり、挨拶をする。
「スコット皇太子さま。おはようございます。……このような場所までわざわざ来ていただき、ありがとうございます」
私の言葉を聞きながら、スコット皇太子は部屋の様子を確認し、ため息をついた。
この部屋は……皇族がいるような部屋ではない。
ため息をつきたくなるのもよく分かる。
「見苦しい場所で申し訳ございません。もし何かお話があるようでしたら……その、この椅子は脚が折れそうですので、スコット皇太子さまさえよろしければ、そちらのベッドにお座りください」
部屋の様子を確認し終えたからだろう。今の言葉に私へ視線を向け、息を飲んでいる。この国の皇太子であるスコットに、このグレーのワンピース姿を見せることになるなんて。羞恥を覚えるが、どうにもできない。きっと心の中で呆れられているだろうが、ここにはドレスもないし、着替えることはできないのだ。
「……こんな部屋で、そんな衣装で君が幽閉されているとは思わなかった。わたしは……ノートル塔で一番清潔感があり、上等な部屋に案内するよう指示していた。ドレスもきちんとしたものを着せるように頼んでいた。食事も普段口にするようなものを用意するように言っておいたのだが……。まさかこんな状況になっているとは思わなかった。本当に……すまない」
そう言ったスコット皇太子は私に頭を下げた。
まさかそんな風に頭を下げられると思わず、驚いてしまう。驚きながら、頭を上げてもらうよう頼んだ。それでもスコット皇太子はしばし頭をさげていたが。
ようやく、上体を起こし、私を見た。
「どうやらわたしは……判断を誤ったようだ」
「と申しますと?」
「リリアンから昨晩、言われたのだ。自分はマリーから嫌がらせなど一切受けていないと。それに庭園で何が起きていたのかも、リリアンは話してくれた。リリアンの話を聞く限り、マリー、君は無実だ」
これはさすがの私も驚いた。
リリアンは……既にスコット皇太子に話をしていたのかと。話をした上で、わざわざここに来ていたのだと知ることになった。
彼女のことを伯爵令嬢らしからぬ話し方をするとか、子供っぽいなどと思ったことを猛省する。
なんて、なんて心優しい子なのだろう。
「……30分程前に、リリアン様がここを尋ねてくれました」
「聞いている。昨日、リリアンからマリーは無実だと聞いた時。わたしはリリアンに『無実だと言うなら、なぜマリーはあの場で無言を貫きとおしたのか』と言い返してしまった。無言でいる、それすなわち、罪を認めるのではないかと問うたのだ。リリアンは……なぜあの卒業舞踏会の場で、マリー、君が一言も物申さなかったのか、その理由を尋ねたのでは?」
その通りだったので頷くと、「やはり」とスコット皇太子は深いため息をついた。
「君の前でこんなことを言うわたしは最低だと思う。だがリリアンは……とてもいい子だ。君を無罪にするため、君に話を聞き、その結果をわたしに報告するつもりだったのだろう。まさか伯爵令嬢が、こんなところまで従者一人だけを連れ、やってくるとは思わなかった」
「僭越ながら、スコット皇太子様。私もリリアン様は行動力があり、心優しく、皇太子妃にふさわしい方と思います。リリアン様は、私が無実であると、その理由を説明してくださいました。そして必ずここから救い出すと約束してくださったのです。……私はあの場で断罪され、婚約破棄されました。この塔から出ることができたとしても、スコット皇太子様の婚約者に返り咲くつもりはありません。どうかリリアン様とお幸せになってください」
スコット皇太子は、私の言葉に目を大きく見開き、驚いて聞いていたが……。
「……ありがとう、マリー。君にはなんて御礼を言えばいいのか……。わたしは……マリー、君のことも好きだった。でも……なぜだろう。君はわたしに尽くしてくれるが、心が完全に通い合っていると思えなかった」
その言葉には肝が冷える思いだった。バレてはいないと思っていたが。ジェフは気づていた。彼が気づいていたのなら……そうか。スコット皇太子も気が付いていたのか……。
途端に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「どこかでこのままではいけないと思っていたら、報告を受け、リリアンのことを知り……。最初は、君が嫌がらせなんてするわけがないと思い、報告を受けた時も信じなかった。ただわたしの気持ちがリリアンに向いていると匂わすことで、君が嫉妬を感じ、必死にわたしの心を掴もうと、行動してくれるのでは?と期待してしまった。でもそうはならず……。次第に可愛さ余って憎さが百倍になってしまい……。耳に入る報告を鵜呑みに信じるようになってしまった」
そう、だったのか……。
私とリリアンは、悪役令嬢とヒロイン。だから偶然であろうと、接触の機会はあった。でも私とリリアンはなぜか悪役令嬢とヒロインとしてお互い振舞うことがなかったのだ。嫌がらせをすることも、嫌がらせ受けたとスコット皇太子に密告することも。ただ接触する機会が多かった私とリリアンを見て、誰かがスコット皇太子に報告をした……。
「一体、誰なのですか? スコット皇太子様に報告をされていたのは」


















