24:伯爵令嬢らしからぬ~リリアン~
お試し期間。
これ、欲しいよね。いきなり婚約じゃなく。でも婚約者になっているなら……。婚約期間。そこで考えさせてほしいな。それをもしスコット皇太子が受け入れてくれるなら。
あれ。
でもあたし、スコット皇太子と卒業舞踏会のあの休憩室で、いい感じになっていた設定じゃない? うん。なっていた。そういう設定に、自分でしたんだ。あの場を誤魔化すため。
そうなるともう、誤魔化しようがないというか、うーーーん。
どうすればいいのだろうか。
なんでそんな設定になったのかというと。
そう、そうだよ。あの不審者!
結局、あの侵入者は、何者だったのだろう? 今日はあたしに接触してくると思ったけど……。そうか、ここに来ちゃったから。接触するもなにもなかったのか。でももしあの男に再会したとしても。ちゃんとマリーと会って話したと、胸を張って言えるからね。大丈夫。
しかし。
あの男が動いたことをマリーは知っているのだろうか? というかマリーが知っている人なのかな? もしかしたらマリーの両親であるコネリー男爵夫妻が雇った……刺客なんて可能性もあるけど。
いずれにせよ、マリーはこの塔に幽閉されているわけで。あの謎の男とコンタクトをとるのは無理だろう。知り合いかどうかは分からないけど、もし次にあの男と会うことがあれば……直接聞いてもいいかもしれない。
あとはマリーはあれよね。まさかスコット皇太子ではなく、別に想う人がいたなんて。これは本当に驚きだった。乙女ゲーム的にも、これ、驚きだよネ。スコット皇太子の婚約者である悪役令嬢に、実は本命の想い人がいたなんて。
誰なのだろう?
でも、そうか。マリーはスコット皇太子の婚約者に選ばれてしまったから。この国で皇太子以上の男性はいない。彼を差し置いて結ばれるなんて、それこそ隣国にでも逃れるしかない。
あ、そうか。隣国に逃げる手もあるのか。
いや、でも、そう簡単ではないよね。伯爵令嬢が一人、フラリと隣国へ行って生きて行けるわけはない。逃走資金もサポートしてくれる人間だって必要だ。
つい、自分の話へと脱線してしまうけど。
マリーにもし本命彼氏がいるなら。この機会に結ばれるといいな、って思う。今回覚醒後のリリアンとしてマリーと話したけど、やっぱり素敵な子にしか思えないから。同い年だけど、お姉さんって感じで。
お姉さん……。
というかあたしがちょっと子供っぽくてヤバめかもしれない。マリーとの会話の中でも、伯爵令嬢とは思えないしゃべりをしてしまった気がするし。絶対、伯爵令嬢らしからぬと思われている気がする。
随分、考え込んでいたが。
唐突に前を歩くジェフが立ち止まった。
「着きました」
「着いた?」
随分と考え込んでいて。ろくに周囲の景色を見ず、ジェフの背中を見るとはなく見て歩いてきたけれど。階段を何度か降りたけど、上ってはいない。塔なんだよね。普通、階段を上るよね?
私は疑問でいっぱいだったが、ジェフは立ち止まった目の前にある扉をギギギギというちょっと不快な音を響かせながら開けた。
「こちらです」
とびっきりみたいな笑顔で言われたが。
扉が開いた瞬間、もわっと不穏な空気が漂い、カビ臭さを感じた。でもってその扉の先は薄暗く、何があるのかよく分からない。目を凝らして見ると、通路のように思えるが……。
「え、ここが塔の上につながっているのですか?」
振り返り、ジェフに尋ねた瞬間。
背中を押されていた。
つんのめりそうになりながら、中へ倒れこんだ。
え、何!?
そう思った瞬間。
扉が閉じられる。
閉じられる直前、仏みたいな顔のジェフが見えた。
瞬時に暗闇の中に自分が置き去りにされたと気づき、恐怖で鳥肌が立った。こんな時、やることはみんな同じだと思う。扉と思わしき場所を手で叩き、「誰か、助けて!」だ。
扉はマリーが収監されていた部屋と同じような鉄の扉だが、厚みはそこまでない。だから簡単に開閉できて、閉じることもできたわけ。そしてたった今、鍵をかけたらしい音が聞こえた。
しまった!
そう思うが後の祭り。つまり。さっきまで鍵がかかっていなかったということ!? それだったら、扉を押したり、取っ手を使い、開けることができたのでは……?
手を動かしていると、取っ手を掴むことができた。押したり、ひいたりを試すがダメだ。
完全に閉じ込められたと悟る。
え、なんで?
それに、ここ、どこ?
というか。
普通にこんな場所に閉じ込められたら怖い。暗闇に目が慣れても、これと言ったものは見えないし、方向感覚だってよく分からなくなる。今はまるでこれが命綱のように感じ、扉の取っ手を握りしめていた。
無駄だと分かっても、しばらく助けを呼ぶため声をあげていたが。誰かが駆け付ける気配もない。
もし、叫んですぐに人がくるような場所だったら、口を塞いで手を後ろに縛るとかした上で、ここに閉じ込めるだろう。そうしていないということは。
ここは、人が来るような場所ではないんだ……。
しかも階段を下りている。何度か。
つまり、ここは地下だ。


















