21:新世代?~マリー~
リリアンは本当に。話してみると、とても好ましい人物だと分かった。
デレクやコネリー夫妻以外で、こんなに私を助けようとしてくれる人がいるなんて。そしてそれがリリアンだった。
ただ、やはりなんというか……。
伯爵令嬢っぽくない。年齢としては、前世で言う高校3年生を卒業したぐらいなのだから、仕方ないのかもしれないが……。でもこの世界の伯爵令嬢は、18歳ともなると結婚する者も出てくる。何より話し方は落ち着いて、ゆったりしているはずなのに。
リリアンはなんというか……。
前世のティーンエージャーみたいだ。
この世界で言う、新世代なのだろうか? リリアンみたいな令嬢が、これからもこの世界に増えるのだろうか……?
その点は気になるが、話した内容については満足している。
ちなみにスコット皇太子に密告した人物を、リリアンは学院の生徒達と考えていた。でも私はそれは少し違うと思っている。
不特定多数の生徒から密告を受けた時、スコット皇太子は鵜呑みに信じることはないと思うのだ。むしろ絶対的な信頼を持てる人間からの情報ならすぐ信じる。そんなタイプに思える。だから密告者は例え生徒だったとしても、それはスコット皇太子が信頼をおく人物に違いないと思った。
ただ、密告者が誰だったのか。
それを探す必要性については……。どうなのだろうか。勘違いだった可能性もあるし、もしかするとスコット皇太子自身が見て判断していた可能性もあるのだ。この塔から出られるなら。密告者をなんとしても突き止めたい……とまでは思っていなかった。
兎にも角にも。
リリアンと話せたことはとても意味があることだった。本当はもっと早くに話していれば……。そんな思いを口にするとリリアンは……。
「それは仰る通りです。でも本当に間に合ってよかったと思います。刑が確定される前にあたしの記憶が戻って」
記憶が戻る……。リリアンもあの場で、倒れ、意識を失った時に記憶が飛んでいたのだろうか……? それにしても「あたし」。伯爵令嬢なのに「あたし」を使うのね……。
どうしても違和感を覚える。この世界観に合わない。
つい気になってしまうのは、前世で私が大人だったからかしら。
そんなことを気にしている私にリリアンは、この塔を出ればスコット皇太子と再び婚約できると言い出した。だが次の瞬間、リリアンは大いに焦り始める。私の無罪のことばかり考え、スコット皇太子が着々と自身との婚約を進めている点を、見落としていたと青ざめたのだ。
そこまでリリアンが考えていたことに驚き、その意志がない――つまり復縁の意志がないことを伝えると。
さらに動揺していたが、そこでタイムアップになった。鉄の重い扉を叩く音がして、終了の時刻を伝えていた。すぐにジェフが扉を開ける。
そういえばこの話を聞いている最中。
ジェフは一度リリアンに睨まれたせいか、見事なまでのポーカーフェイスだった。この話を聞いたジェフはどう思っているのだろう? 偽の証人を仕立てる必要もなく、私の解放の目途が立ったのだ。きっと喜んでくれている……と思う。
ただ、私はスコット皇太子ともう一度婚約するつもりはなく、「自分の心を偽らずに生きて行く」とリリアンに話している。それを聞いたジェフはこの言葉をどう解釈しているか……。
ジェフは既に私がスコット皇太子との婚約に乗り気ではないことに気づいていた。そしてこの発言。
「ではマリーさま。ご機嫌よう。なるべく早く、ここからあなたが出られるよう、尽力します」
さっきはかなり動揺していたが、今は落ち着いたようだ。
ちゃんと美しくスカートの裾をつまみ、お辞儀をしている。
それに合わせ、私もお辞儀をした。
ジェフとマリーが出て行くと、すぐにメイドが入って来て、紅茶を片付ける。さらに塔の職員が来て、椅子とテーブルを運び出す。
メイドはため息をつきながら、トレンチにソーサーに乗ったカップをのせ、職員は舌打ちしながら面倒そうにテーブルを持ち上げている。
あくまで面会に来たリリアンのために使ったもの。幽閉されている私の部屋に置いておくつもりはない。そんな空気が感じられた。
メイドと職員が出て行き、重い鉄の扉が閉じられると、私はベッドに隠していた金平糖を取り出した。
その刹那、デレクの顔が思い出される。
翡翠のような澄んだ瞳とサラサラのダークシルバーの髪。
彼はコネリー家ではいつも白シャツと黒の執事スーツ姿だった。それなのに今日は騎士の姿をしていた。騎士に支給されている紺色の隊服にパールグレーのマント。有事に備え、一通りの武術は習っていただけあって、隊服姿もとてもよく似合っていた。
きっとデレクなら騎士に転身してもやっていけるだろう。
そんなことを思いながら、手の平に乗せた金平糖を見つめる。
ピンクとイエローの金平糖。
寂しい気持ちを紛らわせ、元気をくれる二つの金平糖を、一粒ずつ口へと運ぶ。
ピンクはほんのりストロベリー味。
イエローはさっぱりレモン味。
金平糖は儚いお菓子だ。
口の中であっという間にとろけてなくなってしまう。
それでもその味が口に広がる一瞬は。
とても気持ちが和らぐ。
ノートル塔の職員やメイドからしたら、私は罪人。だから冷たい態度をとられても、気にする必要はない。
ベッドに腰かけ、ふと思い出す。
そう言えば、手紙は検閲されるが、出すことは許されているはず。
私は立ち上がり、重い鉄の扉を叩いた。























































