20:マジ、ヤバイ!~リリアン~
ジェフに睨みを利かせてからマリーに顔を戻すと。
マリーは椅子から立ち上がり、「無実を証明してくださるのですね!」と瞳を潤ませた。
ああ、尊い。
女子に対して眼福なんて思ったのは初めてだ。
でもマリーは。
たとえグレーのワンピース姿でも
女神みたいで清貧に思えた。
うっかり見惚れて、つい「無実であることは既にスコット皇太子さまに話しているので安心してください!」と言いかけてしまったが。スコット皇太子は、何やら思うところがありそうだった。彼が既にこの話を知っていると誰かに話すなら、本人に許可をとってからにしよう。
今日はマリーが断罪の場でなぜ無言だったのか。
その理由を聞くためにやってきたのだから。
ということでその後、お茶を飲みながらマリーと話した結果。
マリは―すべてに対し、正直に打ち明けてくれた。
嫌がらせの件もお互いに「嫌がらせをしたつもりはない」「嫌がらせを受けたと思っていない」で一致した。だからもうこの件は解決だ。
庭園での出来事については……。
これもホント、不幸な事故だと思う。
あの庭園であたしは前世の記憶がよみがえり、覚醒したのだが、同時に意識を失った。一方のマリーも具合が悪くなり、記憶が飛び、目覚めると私が倒れていたというわけで……。そして自分があたしを石で殴った犯人ではないと言い切れない。そう思い、無言を貫いたというのだから……。
それにしても。
断罪の場で過去の出来事についても指摘されていたのに、その件まで頭が回らなかったなんて。マリーは悪役令嬢なんだけど、可憐だ。それでいて落ち着いていて、品があって。でも咄嗟に思い至らないとか、少し抜けていて可愛い。
なんだかよっぽどマリーの方がモテそうな気がするケド。
しかし、一体誰なのだろう? スコット皇太子にあたしがマリーに嫌がらせをしていると告げ口をしたのは。勘違いだったかもしれないが、こんな事態になっているのだから。告げ口した本人には少しは責任を感じてもらいたい。幽閉されたのは……絶対に庭園の件が占めているウエイトが大きいから、告げ口人間だけのせいではないと思うけどさー。
学校って。
それこそ授業が終わって放課後にでもならないと、生徒はそこら辺にいるんだよね。廊下、体育館、トイレ、中庭、食堂。でもって、あたしがマリーにいじめられていると報告されているのは、学校内が圧倒的に多いと思う。そうなると告げ口したのは生徒。しかもいろんな生徒が偶然目撃して、スコット皇太子に報告した、みたいな。この推理、正解なんじゃない?
それをマリーに話してみたのだが。
ヤバーい! つい自分の推理に酔ってしまい、この世界観から逸脱したしゃべり方になっちゃった。スコット皇太子にも一度、そんな風にしゃべってしまったけど。あたし、どうも、リリアンより、前世の自分の性格?が出ている気がしてならない。慌てて誤魔化したけど……。
マジ、気をつけなきゃ。
ともかく話はついた。あたしは今話した通り、自分で勝手に気絶して額に怪我を作っただけで、マリーは無実であると知っていると。だからこのことをちゃんと証言するつもりであるし、安心して欲しいとマリーに伝えた。
「リリアン様、本当にありがとうございます。……今になって気づいたのですが、本当はもっと早くに、リリアン様と話していればよかったですよね。どうしてそうしなかったのか。でもこうやってリリアン様が来てくれて、本当によかったです」
瞳を潤ませるマリーは……。
尊い。
やっぱ、悪役令嬢に思えないわー。
感動しながらマリーを見る。
「それは仰る通りです。でも本当に間に合ってよかったと思います。刑が確定される前にあたしの記憶が戻って」
しまった! 気を付けようと言っているそばから「あたし」って言っちゃったわ。なんとか誤魔化そうとしたあたしは……。
「この塔から出たら、またスコット皇太子さまとも婚約できます……よ……?」
そこで重大なことに気が付く。
卒業舞踏会の場で、スコット皇太子があたしとの婚約を宣言しそうになるのを阻止したが。スコット皇太子はこう言っていなかったか。
――「父上……国王陛下にも君のことは話してある。わたしの婚約者がリリアンになったということは、明日にでもみんな知ることになるから」
マジ、ヤバイ!
マリーの無罪の件ばっか考えていて、あたし自身のこと置いてきぼりになっていた!
え、あたし、スコット皇太子の婚約者になっちゃうの!? そうしたらマリーはどうなっちゃうの?
「あの、リリアン様、顔色が悪いようですが……」
「マリーさま、ごめんなさい! あたし、マリーさまを無罪にすることばかり考えていて、自分のこと忘れていました。スコット皇太子さまはあたしと婚約するって、国王陛下に話したって……それでなんかみんな、今日には知るだろうって。あたし、スコット皇太子さまと婚約したいわけじゃないんです! マリーさまがここを出たら、スコット皇太子さまとまた寄りを戻せればいいって思っていて……」
動揺しまくるあたしに、マリーは聖母のように微笑んだ。
「大丈夫ですよ、リリアン様。私は、スコット皇太子様と再度、婚約するつもりはありませんから」
「えええええ!」
今日イチでビックリなんだけど!
え、スコット皇太子と結婚したかったんじゃないの!?
「私は……自分の心を偽らずに生きて行くと決めました。この塔に幽閉されたことがいいきっかけだったと思います。ですから、リリアン様はスコット皇太子様とお幸せになってください。婚約されることに、私から異議を唱えることも、復縁を求めることもありませんから」
そ、そうなんだ。
心を偽らずに生きる。
え、それって……?
そこで鉄の扉を叩く音が聞こえてきた。
すぐにジェフが応じ、マリーとの面会は終わった。


















