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第5話:進路調査でもポイントが足りない

【未来生存率:3%】


「ね、眠すぎる……」


 朝四時。


 私はまだ外が薄紫のグラデーションに沈んでいる時刻に、不法占拠宇宙人——蛍子に強引に叩き起こされた。


「ね!ね!サキちゃん起きて! 朝ごはん食べよ!」


「……朝の四時よ? 狂ってんの?」


「早起きは三文の徳!!三文?いくら?」


 殺意を睡眠欲でなんとか抑え込みながら、私は這い出て食パンにパッションピンクのピーナッツバター(半額シール)を塗り、牛乳と一緒に蛍子の前に並べた。そして私はソッコーで布団へとダイブした。


 昨夜も地を這いながら、なけなしの500ポイントをゲットし帰った時は0時を回っていた。


 何でもいいから、もう少しだけ寝かせてくれ。


 おやすみ


「一緒に食べよ?ご飯は、一緒が嬉しいよ!ね?」


「…寝る」


「半分こしよーよ!ね!ね!ね!ね!ね!ね!ね!ね!ね!」


「…眠い」


 蛍子はパッションピンクピーナッツバターパンを半分にして私の前に置いた。


「…わかったわよ」


 食べ終わると、クソ甘ったるいピーナッツとパッションフルーツに包まれながら、私は泥のように再び意識を失った。


「行ってきまーーす!」


 次に遠くで声が聞こえたのは、朝の五時。蛍子が学校へ出発する音だった。


(えっ!?もう学校行くの?早すぎる……が、まぁいいか。私はもう少しゆっくり眠らせてもらうわ……)


 三度寝の海へと沈んでいく。


 そこは、パッションピンクのピーナッツバターの海…

 




 ダル甘ぁ…


 ——はっ!!!


 次に目が覚めて時計を見た瞬間、私の心臓が爆発するかと思った。


 【午前8時45分】


「遅刻するー!!! ってか、朝の善行(ポい活)をする時間が一分もない!!」


 私はマッハで顔を洗い、着替えると、制服のブレザーを掴んで部屋を飛び出し、全力で朝の街を爆走した。


 ピコンと軽いアラームと共にサポートAIであるJIMIが起動する。


『おはよう〜サキちゃん。


朝から運動◎。


疲労回復✕。


慢性寝不足です。


ちなみに、遅刻まであと13分。

遅刻する確率85%。

遅刻の減点ポイントは50ポイントだよ。』


【現在残高:550ポイント】


「ダメダメダメ絶対ダメ!!遅刻でポイント引かれたらマジで家賃が払えない」


『家賃は本日17時までに指定口座への送金が必要だよ★払わないと撤去が強制執行されて、家具没収、保護区に強制送還されるよ。時間には注意してね。』


「嫌だ…!!さすがに未来まで来て、我が家は失いたくないよ」


ただでさえ家賃締め切り間近で残高が瀕死なのに、それだけは絶対に避けたかった。


 急げーーー!!! 


 ドガシャァァァンッ!!!


 学校の手前の曲がり角で、私は正面から歩いてきた誰かと派手に衝突した。


いつもの曲がり角のやつだ。


「痛っ……! 」


「あれ?サキっち」


「って、は? 蛍子!?」


 そこにいたのは、今朝五時に家を出たはずの蛍子だった。


「アンタ、朝五時から四時間も何してたのよ!?」


「登校だよ!?」


「はい???」


「登校ってさ。いつもより早く家出るとめっちゃ清々しくない? 世界がいつもと違って見えるんだよね。なんか少し、すでに頑張ったけどまだ始まってないっていうの? 大人の余裕ってやつ? で、行きたい方向に歩いてたら今サキっちと出会い頭のランデブーよ」


「……(四時間迷子になってただけじゃないの)」


「ここまでの四時間の私のしてきた、朝の清々しくってドロドロしとした、熱血フルパワー冒険の話興味あるよね?」


「ドロドロ……いや、一ミリも興味ない」


「えー、せっかくお土産もあるのに。はい、これ」


 蛍子から手渡されたのは、くしゃくしゃの紙切れだった。


「なにこれ、ただのレシートじゃん」


「いやいや、よく見て!ポイントスクラッチ付きだよ!? 当たれば2000ポイントもらえる(5名様)って!」

 

「はぁ……まぁ、もらっておくよ。ありがとう。ってか、本当に遅刻する!! 走るわよ!!」


 私は、レシートをポケットに突っ込み、再び校門を目指して猛ダッシュした。


*


 なんとかペナルティ寸前で教室に滑り込んだ私を待っていたのは、このディストピアに最も似合わない、ひどく現実的なイベントだった。


「進路調査……」


 配られたプリントを前に、私は机に頬杖をついた。


 周りの生徒たちは、頭の上の数値をピコピコ鳴らしながら、当たり前のように将来の夢を書き込んでいる。


 確かに。


 それが当たり前だし、そうあるべきで。


 隣の席の蛍子の手元を覗き込むと、そこには案の定、意味不明な文字列が踊っていた。


『第一希望:マックの店長になってポテトをタダで食べる人』


『第二希望:空中料理人になって美味しいものを量産してノーベル賞をもらって優雅に暮らす人』


『第三希望:クイズ王』


「アンタの進路、全部バグってんだけど」


「えー? 超真面目だよ?」


「欲望しか書いてないじゃん…」


「えっ!?進路=人生の欲望じゃないの??将来マックポテト一杯食べれるようになりたいし、空中料理人でYouTubeとかでチヤホヤされたいし、クイズ王になれば敵なしじゃんね?」


敵無しなのか?


というか、空中料理人?


「そうか…そうかもね」


「あれ?やけに突っ込んでこないのね」


「蛍子の将来をとやかく言う筋合いはないなって。」


「まあ、一緒にクイズ王なっても良いんだよ?」


「遠慮しときます…」


 一方、反対側の席のヨルは、驚くほど真面目にペンを走らせていた。


私の未来でも聞き覚えのある大学の名前が連なっていた。


「ヨルは大学志望?」


「あ、はい……」


 ヨルは少し恥ずかしそうにねこ耳をパタパタさせた。


「将来何になりたいかは、まだ未定なんですけど……ママが『とりあえず大学くらいは行きなさい』って言っていたので……」


「そっか。ヨルのお母さん、意外と教育ママなんだね」


「そう…なんですかね…」


 じゃあ、私は?


 サキ。私の進路。


 私は何になりたいんだろう。


 何になるべきなんだろう。


 人生は欲望か?


 私の欲望?


 シアトルに行くこと?


 何かに満たされる?


 ……


 考えれば考えるほど、思考が気怠さのノイズに染まっていく。


 私は、


 一体何のためにここにいる?


「……ダメだ。わからない」


 ピコン!


『家賃支払まであと5時間』


 JIMIからホームレスへのカウンドダウン通知が届く。


「…そうだ」


 今は自分探ししてる場合じゃない。


 家賃2000ポイントを、本格的に今すぐ稼がないとマジでホームレスになる……


 遠い将来よりも手前の人生が詰みそうなのである。


 私は進路調査票を鞄に突っ込み、とある人物からのDMを開く。


ーーーーーーーー


サキ様


下記本日中の案件になります。

キャンセルが出たためご連絡しました。


【極秘・善行デリバリー】

指定の小包を指定の場所へ配送

危険度:★★

報酬:5000ポイント

※即日振込

※保証無し


依頼を受けますか?


ーーーーーーーー


 5000ポイント……!今までの善行と比べると超高収入。


  これをやれば一発で余裕で家賃が払える。


 多少の危険は仕方がない。


 今はこれにかけるしかない。


 ホームレスになるなら、なんでもやってやるマインドで。


 ピザの配送や、落とし物の配送だって何回もやったことあるじゃん。


 配送くらいすぐ終わる。


 大丈夫…


 「サキちゃん。サキちゃん。」


 ヨルが心配そうにこちらを見ている。


 「顔色が少し悪いですよ。大丈夫です?」


 「ああ…うん。大丈夫だと思う。学校終わったら速攻で仕事ないかなきゃで」


 「あの、その、私も行ってもいいですか??」


 「えっ?そんな楽しい仕事じゃないよ?」


 どちらかと言うとアブナイ仕事かもしれない。

 

 「今、何か少しでもサキちゃんの役に立てたらなと」


 ヨルは少し恥ずかしそうに少しだけ笑ってみせた。


 「ありがとう。じゃあ…一緒に来てくれる?」


 ヨルの気持ちが嬉しかった。


 そして、もし、なにか起こってもサイコキネシスのパワーがあると思うと気が少し楽になった。


*


「では、これをダウンタウンエリアx023-xxxxまで届けてください」


「ダウンタウンエリア…」


 ベイエリアの高架下で、全身黒ずくめのサングラスの男(恐らくアンドロイド)からから禍々しい封印シールが貼られている封筒を受け取った。


「開封厳禁。指定場所についたらノックを4回。依頼主に会う時は目を見てはダメ。報酬は依頼主から貰ってください。地図データーは配信しましたのでご確認を。」


「わかりました。これって爆発したりそういうヤバいものではないんですよね?」


「中身についてはお答えできません。ただ、あなたを傷つけたり侵食することはありません。」


 し、侵食??


「少々急がされていましてあと30分以内に届けてください。時間がすぎると報酬が半減します。」


「は!?聞いてないんだが」


 ここからダウンタウンまで走っても1時間はかかる。


「では、諦めますか?当日キャンセルは違約金対象になりますよ」


 うっ


 諦めるは、ない。


 兎にも角にも、ここからあと3時間で1500ポイントを稼ぐことは不可能だ。


 ここまでいろいろ放置した自分を呪いたい。


 その時だった。


 「おーーーい!!サキちゃん、ヨルちゃーん」


 聞き慣れた蛍子の声だった。


 蛍子は、プロペラ?付きの自転車?に跨り、全速力で滑空してきた。


「蛍子ちゃん!?わわわわわわ!!」


「あーっと。ブレーキきかないわこれ!」


 キキーーーードガゴン!!

 

「きゃあああああ!!!」


「!!!」


 整備不良の自転車のブレーキの擦れた停止音と共に、目の前の黒ずくめのアンドロイドに激突し、ふっ飛ばしたのだ。


 アンドロイドは、ボールのようにバウンドすると、そのまま海に転落してポコポコと沈んでいった。


「ちょっと!ちょっと!!何してんのよ!!」


「ハァハァ。それはそうと、お困りですね??ですよね??」


「ああもう!もうめちゃくちゃよ。ただ、このままだとアンタも私もホームレス行きは確定ね」


「そう思ってこれを君達に託しに来たのじゃよ。」


「こ、これは!?」


 「朝の冒険の途中で知らん人からもらった。プロペラ付き自転車通称TONBO!!!これで街をぶち抜けてサクセスサクセスぅ!」


「この展開で成功した記憶が一度もないんだけど」


背に腹は代えられない。今はこれを届けないと全部ヤバい。


「いけー!私たちの住居権を守れー!!」


「そうね。家の未来のために借りるわ」


 そう言うと私はTONBOにまたがった。


 最新のテクノロジーではなく旧式のママチャリの前方に大型のプロペラを無理やりドッキングさせた手作り感のあるママチャリだ。


「オッケー!これ二人乗りだから、私はおうちでまたカレーでも作ってるから二人でいってきてね★」


「い…行ってきます……!!」

 

 ヨルは後ろに乗るとサキをギュッと抱きしめた。


「いくぜ!」


 チャリのペダルを思いっきり踏み込んだ瞬間。


 ガゴンガゴンガゴン!!


 私とヨルヲ乗せたママチャリは、凄まじい引力で地面からふわりと浮き上がると、エリア0012の空へと飛び出した!


「えっ…飛ぶの!?」


「うっ、ヤバっーーー!速すぎっ」


 時速百五十キロ。


 ビルの窓ガラスが流星みたいに視界を横切る。


 頭上を走る高架道路と、足元を流れる空中歩道の境界線がぐちゃぐちゃになって、どちらが空でどちらが地面なのか一瞬わからなくなった。


 巨大スクリーンに映る広告の笑顔が残像になって伸びる。


 空飛ぶ配送ドローンの群れを紙一重で追い抜き、


 TONBOは重力ノイズをバリバリ撒き散らしながら未来都市の谷間を突っ切った。


「ひえええええええ! 空を飛んでるぅぅぅ! 落ちる! 落ちますぅぅぅ!!」


「はは…ははは!!」


「サキちゃん!?壊れた?」


「いや、とんでもないモノの借りてしまったなって。あ!ヨル!!地図確認して!!地図!! 」


「ずっとまっすぐっぽいです!確かに、空飛ぶ宅急便なんて可愛らしいですよね」


 運んでいるのはパイでもパンでもない、謎の封筒なのだが。


 放課後に過ぎ去る喧騒をぶっちぎり、空を滑空する自分がおかしくなってきた。


 限界突破ママチャリは、ダウンタウンのビル群と喧騒の中をトップスピードで爆走していく。


「あ!あそこ!あそこですよ」


 ヨルが指さす先、ビル群の中に突如古めかしい洋館が見えてきた。


 タイムリミットまであと10分。


 余裕過ぎる。勝ったーー!!


 私は、一気にブレーキを握ったーーー


 握ったはずなのにーー


「ちょっと!ダメ!!これーーブレーキ効かないじゃん」


「ひええええ!!突っ込んじゃうよこのままじゃーー」


ヨルの御札ピアスがパチパチと音を立てる。


「止まれええええ!!」


ーーーーー!!!!!


 怪しい紫色の煙を吐く洋館の煙突へと、文字通り「弾丸」のように突っ込んだ。


 ドゴォォォォォンッッッ!!!!!



 私たちは洋館の外壁に激突し、ママチャリはくるくる回転しながら電柱に激突し大破した。

 

「セーフ……」


 ヨルのサイコキネシスにより、なんとか、なんとか無傷で2人は洋館の前に立っていた。


 私は、慌ててポケットから封筒を取り出した。


 こちらも無傷。


 なんとか、なんとかクリア。


 これを届けて家に帰って、今日はゆっくりお風呂にお湯を入れてゆっくり浸かりたいーー


 洋館の敷地へ一歩踏み込んだ瞬間。


 街の音が消えた。


 つい数秒前まで聞こえていた飛行車両の駆動音も、人々の話し声も、遠くの広告放送も聞こえない。


 まるでここだけ世界から切り離されている。


 未来都市の真ん中にあるはずなのに、何百年も放置された森の奥へ迷い込んだような錯覚を覚えた。


 自分の血の気が引いていくのがわかる。


「ここは…ちょっと、怖いです」


 ヨルが私のブレザーの裾を掴んだ。


 確かにこの場所は、何かがマズイ空気が流れていた。


 早くブツを渡して撤収したい。


 洋館の扉を4回ノックした。


 少しして、扉がギィィと言う音とともに開く。


「お、お届け者です。」


 そこには、明らかに人間ではないナニカが佇んでいた。


『ああ…ご苦労さま。良くここまで入ってこれたね。』


 ナニカは、私たち2人を舐めるように見る。


『人間と……ああ。なるほど』


『その子と一緒だったか』


「?」


 私は封筒を渡すと、ナニカは封筒をベリベリと開けた。


 そこに入っていたのは1枚の、かなり古びたトレカだった。


 描かれている可愛いキャラクターがホログラムでキラキラしている。


『良かった。本物だ。やっと手に入ったよ。ありがとう』


「トレカ!?ですか…」


『これ一枚で市場価値500万ポイントくらいか』


「ご、500万!?」


 思わず計算する。


 家賃2000ポイント。


 つまり──


 2500ヶ月分。


 200年以上住める。


「家じゃん」


「豪邸ですね……」


 ヨルも真顔だった。


『じゃあ報酬は送金したから。お気をつけて帰りなさい。』


 2人は、洋館をあとにした。


 ピコーピン♪


 JIMIからの通知音だ。いつもより心なしかピッチが高く感じる。


『報酬5000ポイントを受領しました♪』


【現在残高:5550ポイント】


 やった!!


 勝った……


 家賃を振り込んで家にー


 その時だった。


 立て続けに通知音が鳴り響いた。


『高速空路利用料:-1000ポイント』


『危険地域侵入税:-800ポイント』


「なっなにこれ?」


『放置自転車回収リサイクル費用:-200ポイント』


「まって!待って待って!ちょっ…」


『自転車弁償代が請求されました。:-2000ポイント』


【現在残高:1550ポイント】


『家賃振込み期限まであと2分だよ★』


「なんで、なんでこうなるのよ」


「私のポイントでーー」


 ヨルがデバイスをかざそうとすると、JIMIから警告音が流れる。


『ダメです。契約者以外の口座からの入金は禁止されています。』


 家賃の支払い期限まで、あと1分。


 またしても残高不足。


 私の世界(四畳半)が消える。


 終わった。


 私がガタガタと震えながら、ついにホームレスを覚悟して床に突っ伏した、その時だった。


 カサッ。


 ポケットの中で、朝、蛍子から渡されたくしゃくしゃのレシートが指先に触れた。


「……あ」


ポイントスクラッチ

当たれば2000ポイントもらえる(5名様)!


「蛍子!!!」


 私は藁にもすがる思いで、端末をレシートのコードにかざし、表示されたスクラッチを全力でスワイプした。


ドゥルルルるるるる!!


『ざんねーん!』


ハズレの大きな文字が虚しく表示されていた。


そんなに簡単に行くわけがない。


しかし、ハズレの画面の中にパステルピンクの宝箱が突如現れる。


「!!」


【現在残高:2050ポイント】


『ピコピコピピーン!!! おめでとうサキちゃん! 広告キャンペーンハズレちゃったけど、なんとなんと!特別賞【500ポイント】が当選したよ! 差分がちょうど埋まったから、家賃の自動決済を執行しまーす♪』


 ——スン。


 スマホの画面が緑色に変わり、ギリギリのところで【家賃支払い完了】の文字が表示された。


「……は、払えた……」


「スクラッチ当てるなんてすごい………」


「あはは…」


ピロロン♪


【MISSION COMPLETE】


・秘密の運搬の完遂

・今月の家賃2000ポイントの支払完了


【未来生存率:3%】

【現在残高:50ポイント】

【評価:なし】


*


「でしょ!?無駄にならなかったでしょ!?」


蛍子が得意げに言った。


あの後ヨルと帰宅し、蛍子の作ったカレー(いちごホイップご飯かけ)を3人で囲んでいた。


「蛍子ちゃんとサキちゃんのふたりのパワーですね…すごいです!」


「もっと誉め称えよ!!称賛せよ!!なははははは!!」


「まさか当たるとは思わなかったよ。こういうので当たったの初めてかもしれない。今回ばかりは助けられたよ」


「やっぱなぁー!早起きは三文の徳が証明されてしまいましたね。明日からも4時起きでよろしく!」


「それは一人でやってください」


 危なかった。

 

 というか、本当に良く当たったな……。


 *


 深夜の四畳半。


 机の上にぽつんと置かれた一枚の紙を、私は見つめていた。


 私のベッドでは宇宙人が気持ちよさそうにひっくり返ってスヤスヤと寝息を立てている。



 進路調査票。


 第一希望:

 (空欄)


 第二希望:

 (空欄)


 第三希望:

 (空欄)


「……」


 私は第一希望の欄にシャーペンの先を当てた。


 何も浮かばない。


 結局、何も書けないままシャーペンを置いた。


 未来を救う方法は探している。


 世界を滅ぼす原因も追っている。


 だけど。


 自分が何になりたいかだけは、まだ分からない。


『ピコピーン♪』


 ヘッドホンから、空気の読めないJIMIの軽い声が響く。


『サキちゃんサキちゃん! 明日の善行ノルマがもうシステムに登録されたよ〜♪』


「うるさい……」


 私は進路調査票をパタンと半分に折り、未練を断ち切るように机の隅へ押しやった。


 明日の自分が、なんとかするだろう。


 たぶん。


 きっと。


 おそらく。


 窓の外では、今日も巨大な監視の目が、私の空っぽの未来を呑気に見下ろしていた。


「……地獄かよ」


(第5話・完)


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