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第13話:清掃係はポイントが足りない

【未来生存率:5%】

【現在残高:0ポイント】

※代引き負債:-100ポイント


「月曜から眠すぎる…」


 月曜日のホームルーム。


 私は自分の机に突っ伏して、死んだ魚の目で何も書かれていない電子黒板を眺めていた。


 前回のヨル誕生日(1ヶ月間違い)大爆発のせいで、現在の残高はマイナス100ポイント。


 完全なる奴隷である。


 それに加え、昨晩…


 蛍子とテトリスをカンストするまで眠れませんとか言う無謀なチャレンジをしたあげく、蛍子は3分で寝落ち。


 私一人だけ明け方までやり続け、カンスト直前で寝落ちしてしまった。


 最後の意識が遠のく瞬間。


 縦イチのテトリミノが山にぶっ刺さるシーンがリフレインする。


「あーーー!!! 最悪すぎる!!!」


「えっ!えっ、あ、サキさん何か言った?! あ、いえ、言いましたか!?」


 担任のはるこ先生が、ビクッとしながら教壇で頼りない声をあげた。


 しまった。


 ホームルーム中だったことを忘れて心の声が出てしまった。


「いえ、すみません。何でもないです」


 蛍子と目が合うと、とても嬉しそうにニヤニヤしていたので中指を立てておいた。


「じ、じゃあー今日の本題なのですが、私も忘れてて申し訳ないなと思いますが、今週の清掃係がまだ決まっていませーん……」


 はるこ先生はキョロキョロとみんなを見渡した。


「誰かやってくれる優しい人、いませんか〜?」

 

 教室はフリーズしたゲーム画面くらい静かだった。


 全員が目をそらしている。


 私もその一人だ。放課後は善行をしなくてはいけない。無料で学校を清掃している時間など私にあるはずが──。


 ピコピーン♪


『サキちゃん! そんなサキちゃんに朗報! 清掃係は1日5ポイント貰えるよ★』

 首元のJIMIがクソ軽快に囁いた。

(1日5ポイント……。って低すぎない? チリツモだけど、マイナス完済まで20日もかかるじゃん……)


 私が絶望していると、JIMIがさらに画面を書き換えた。


『ただし、清掃した面積とゴミの量に応じてポイントは倍算される規約になっているよぉ★』


(……ん? 面積に応じて、倍!?)


「やります!!!!」


 私は音速で右手を突き上げた。


「えっ? サキさんが……?」


 はるこ先生がビクッと肩を揺らした。


 *


 放課後。


「いいですか、サキさん。清掃用具のホウキはこっちのロッカーで、モップはあっちの水道で──」

 眼鏡をクイッとあげた学級委員長が、初日から真面目に清掃のやり方について説明してくれていた。

 しかし、私の脳内は【5ポイント×学校全体の面積=無限ポイント】の計算で完全に上の空だった。

 清掃を頑張ってポイントを得られるのであれば、やる価値がある。


 毎日広範囲やれば高額補修も夢ではないのだ。


「聞いてるんですか? サキさん」


「あ、はい」


「本当に一人でやるんですか?大丈夫ですか?」


「はい…多分」


「……本当に? 怪しいですね」


 委員長は少し呆れたように私を見つめ、「では、よろしくお願いします」と去っていった。


 私はホウキで1階の長ーーい廊下の隅から隅まで綺麗にした。


 満を持して加算ポイントを見た。


【校内清掃:1ポイント獲得】


「は!? 少なっ! 15分以上かかってない? これで1ポイント!?」


 絶望していると、後ろから聞き慣れた声が聞こえた。


「サキっち〜!勤しんでますな〜!? まさか自ら掃除当番に立候補するとは思わなかったよ(笑)」


「私たちも一緒に手伝いに来ました!」


 蛍子とヨルだった。


「あ、ああ…ありがとう」


 3人で清掃を進めるが一向にポイントも増えなければ掃除もはかどらなかった。


 というか、もうやめたくなってきた。


 まだ、暴走して家出してしまった配膳ロボットを探して連れ戻す方がやりがいを感じられる気がする。


 グダグダになっていると、蛍子がホウキを頭に乗せ、バランスを取りながら言った。


「いやー掃除飽きた。これさー終わらなくない!? 無限に続いてる気がする廊下も階段も。こんな広かった? ジャングルになった時よかだいぶ広く感じるわ」


「でもだいぶ綺麗になりましたね! 確かに一日でどこまでやれば良いんでしょう」


「もう今日はこんなもんじゃない? サキっちさんや。お家に帰って昨日の続きのテトリスカンスト祭やろーよー」


「まだだ。後最低3往復する。2人は先帰って良いよ。ありがとね来てくれて。」


「えーそんなぁー! 一緒帰ろーよー!お腹空いたーマックよってこーよーあーあー」


 帰りたいのは山々だ。


 今すぐホウキを投げ出して帰って、家に帰ってゆっくりシャワーでも浴びたい。


 テトリスはもうやりたくないが。


 が、まだ足りない。


 ……


 ん?


  私、何のために未来から来たんだっけ。


 学校を清掃するため?


 いや、絶対違う。


「あールンバ1000個くらい買ってくんないかな〜校長頼むよ〜」


「……」


 ルンバ。


 学校。


 掃除。


 ポイント。


「あ」


「ああ」


「そうか。そうだ!!!」


「えっなに?! 狂った?」


 蛍子のホウキがバランスを崩し、床に落ちた。


「全部、自動化すればいいのよ!」


 私はホウキを投げ捨てた。


「自動?」


「そう! 学校中を勝手に掃除するルンバ的なロボを作って広範囲を爆速で掃除させる。」


「ほうほう」


「そうすれば、私は放っておくだけで大量のポイントが手に入る。完全なる善行不労所得、大富豪じゃん!」


「うおおお!! 天才!!待ってました!!やっぱサキっちはそうでなくっちゃね」


「ロボ……(困惑)」


ヨルが、少し後退りする。


「ははーん。この自称宇宙最強の科学発明家こと蛍子さまに任せろ★ 宇宙の技術を集約させて、スーパーな全自動お掃除ロボ爆誕させてあげようじゃあーりませんか!」

「嫌な予感しか、しませんよ……」

 ヨルがねこ耳をペタンと寝かせて後ずさりする。


 嫌な予感しかしないが、このままこの果のない得もないポイント稼ぎをやるよりは何となくマシな気がした。


 *


 ──翌日。放課後。


テッテレー!!!


「ぬは!!マジ完成!徹夜して昼寝をして完成させた、その名も! 宇宙超絶全自動マルチ清掃ロボ・ゴッドクリーン参号★」


 蛍子が胸を張った。


 そこにいたのは、無数のブラシとキャタピラがついた、軽自動車サイズのパステルピンクのバケモノロボットだった。


 嫌な予感が、ゆっくりと、ずっしりと、肩にのしかかってくる。


「んじゃ、起動、ポチっとな★」


 ーーーー!


 ロボが重低音を響かせて走り始める。


 驚くほど滑らかな動きで、床のゴミをハチャメチャな吸引力で吸い込んでいく。


 学校中を縦横無尽に走り回り、清掃面積のカウンターが爆速で回っていく。


 私は唾を飲んだ。


「……爆発、しない。成功だわ!!」


「こんなの朝飯前、いや昨日の朝飯前だよ、フハハハ!!!」


 それからの3日間は、まさに人生イージーモードだった。


 ロボが勝手に広範囲を掃除するおかげで、私の端末には毎日大量のポイントが自動でチャージされていく。


 マイナスは一瞬で完済。


 私はポイント画面を何度も見つめてしまう。


 これまでにない大金を前に、私は完全に勝ち組の気分だった。


「もう働かなくていい。」


「未来人の勝利。」


「世界は技術で解決する。」


 最&高。


 *


 3日後の放課後ーー


 私たちは、駅前のドーナツショップにいた。


 もちろん。


 私たちは掃除など一切していない。


 掃除はロボが自動でせっせとやってくれている。


 目の前に置かれた山盛りのドーナツを前に、私の目はギラギラと輝き、テンションは最高潮に達していた。


 念願のドーナツ食べ放題だ。


 不労所得で食べる糖分は格別なはず!!


「いただきまーす!!」


 3人の声が店内に響く。


 私はさっそく大きなチョコドーナツにかぶりついた。


「あ、甘い……。最高。溶けそう……」


「うまー!!やっぱオールドファッション考えた人は、マックのポテト考えた人の次に偉大これだけはガチ!!無限にオールドファッションだけ食べ続けたいいい」


 蛍子が口の周りをドーナツまみれにして叫ぶ。


「うー、たまらないですぅ」


 ヨルは、ふわふわのイチゴドーナツと、少し硬いカツ入りドーナツを、一口ずつ交互に食べていた。


「甘い、しょっぱい、甘い、しょっぱいです。これなら無限に食べられて幸せです〜」


「いやーサキっち最高★ これ明日も来よう」


「あ?いいよ!余裕よドーナツ食べ放題くらい余裕」


「やったね!!約束だよ?!」


 蛍子が嬉しそうに2個目のドーナツにかじりついた、まさにその瞬間だった。


 ピロリロン!!! ピロリロン!!!


 スマホから、血の味のする爆音のエラー通知が鳴り響いた。


『ピピ……緊急警告★ 清掃ユニット異常! ゴミボックス容量100%超過、サキちゃんちゃんとメンテナンスしてた!?♪』


「……は? メンテ?」


『当たり前だよ★ 掃除機が吸い込んだゴミはどこへいくか知らない??』


「蛍子、まさかゴミはロボット内に蓄積される仕様!?なんか燃えたり消えたりしないの!?」


「ん?ああ。ブラックホールにつなげようと思ったけどめんどいからやめたんだった!テヘペロー!」


(……いや。もし本当にブラックホールに繋げてたら、さらに最悪の事態になってた気がするけど)


『校内で爆発反応検知しました★』


「爆発!?」


「マズイんじゃ…」


 私たちはドーナツを放り出し、大急ぎで学校へ向かった。


 校舎のドアを開けた瞬間──。


「嘘でしょ……」


 一瞬だった。学校のほぼ全域が、すさまじいゴミと埃の濁流にドロドロに呑み込まれていた。


 ゴッドクリーン参号が火花を散らして爆走しながら、今まで3日間に溜め込んだ学校中の全ゴミを、超高圧の大砲並みの勢いで大噴射している。

 教室の窓ガラスには良くわからんものが塗りたくられ、校長室の扉の隙間からは大量の丸まったプリントが溢れ出ている。


 職員室からは火山の如く巨大な埃の山が噴き出していた。


「うわぁぁぁ!! ゴミの逆襲じゃんこれ!!」


「これはちょっとやばそうですね……」


 ヨルが尻尾を振り回して、飛んできたバナナの皮をガードする。


ピコピーン♪


『 管理局からのお知らせ★ 業者による大規模特殊清掃費、計10000ポイントが必要です★』


「無理!! 食べ放題で使ったからそんなに無いわよ」


『それでは、朝の登校時間までにご自身の手で清掃してください★ 間に合わない場合は、エリア全域にダストバグが拡散して強制執行(あの世)となります♪』


「楽をしようとしたツケが重すぎるでしょうがァァァ!!!」


 ──こうして、地獄の徹夜清掃が始まった。


 私たちは夜通し、泣きながらホウキと雑巾を振り回した。


 ヨルが限界突破のサイコキネシスでゴミの濁流を強引にパッキングし、蛍子がバケツを持ってダッシュし、私が超高速でモップを駆け回った。


 ──翌朝。午前5時30分。


 校舎の屋上。


 ゴトッ。


「……しみる」


 私はボロボロの制服のまま、キンキンに冷えたエナジードリンクを喉に流し込んだ。


 髪は埃だらけ、目の下には特大のクマがある。


 学校は見事に、ミリ単位の狂いもなくピカピカの元通りになっていた。


 朝焼けの太陽が、空をオレンジに染め上げた。


 *


 キーンコーンカーンコーン……。


 朝のホームルーム。


 登校してきた生徒たちが、ざわざわと教室を見回している。


「あれ? 学校、なんかめちゃくちゃ綺麗じゃない?」


「床が輝いてるんだけど……」


 教壇に立ったはるこ先生が、満足そうに頷いた。


「えー、清掃係のサキさんの素晴らしい活躍により、学校がピカピカです。なので、今日の午後に予定していた『全校一斉大掃除』は中止にします。みなさん、放課後まで自由時間でーす」


「やったァァァァァーーーーー 自由時間だ!!!!」


 教室中が地鳴りのような大歓声に包まれた。


「……は?」


 私は机に突っ伏したまま、ゆっくりと顔を上げた。


(いやいやいや。ちょっと待って。私たちの夜中の大清掃は無意味だった!?全校生徒に最高の自由時間をプレゼントしたんだけど? 完全に、影から世界を救ったレベルの感謝をされる側だよね?)


 私は立ち上がり、ギラギラとした怨念の目で教壇へ歩み寄った。


「褒めてください、先生。……私、頑張りましたよね?」


「ひ、ひえっ……!?」


 はるこ先生の顔が、恐怖で一瞬にして引きつった。


(えええ!?

何!?サキさん、目が完全に暗殺者のそれなんだけど!?

私、何か変なこと言ったっけ!?

まさか……これが噂の、ヤンキー生徒による強喝(たかり)!?

うぅぅ……怖いぃ。

早くここ脱出したい……保健室で眠りたい。

助けてぇぇぇぇ!!)


 はるこ先生は脳内で大パニックを起こしながら、「あ、あの、ありがとう、ございますぅ!じゃ!」と引きつった笑顔のまま、すごいスピードで教室から保健室へ一直線に飛び出していった。


 教室の隅。


 朝からボロボロの姿で、机の上になぜかエナジードリンクの空き缶を3本並べている私たちを、じっと見つめる視線があった。


 委員長だった。


 彼女はメガネの奥の鋭い目で、サキたちの埃だらけのブレザーと、ヨルの妙な達成感に満ちた顔を観察していた。


(……怪しい。

何をしてたの、朝から。

初日に私が一斉清掃あるから教室と理科室だけでいいって伝えたはずなのに、説明も全然聞いていなかったし……やっぱり、サキさんたちは普通じゃない。

何か良くわからないけど……何か隠している気がする。

要チェックね)


 委員長の疑惑の目が、静かに深まっていった。


────────────────

ピロロン♪

【MISSION COMPLETE】

・学校ジャングル化(ゴミ):解除

・全校生徒への自由時間:強制付与

・はるこ先生の精神防壁:崩壊

【未来生存率:5%】

【現在残高:50ポイント】

※業者清掃費のハッキング回避成功ボーナス含む

【評価】

A

【評価コメント】

楽をしようとすると、結局一番苦労します★

努力によるハッキング回避成功お見事♪ でも誰にも知られず学校を守ったその背中は、少しだけヒーローっぽかったよ♪

────────────────


 手元に残った、血と涙の50ポイント。ドーナツ食べ放題の贅沢は、一瞬で消え去った。


 私は静かにスマホをポケットにしまった。


「……はぁ。まあ、いっか。」


 私は小さく息を吐く。


「サキっちや。そうしょぼくれる事はないよ。誰にも知られない自由時間のプレゼントってのも、悪くはない結果だよ! みなさんも喜んでたしさ」


 蛍子はパチンとウインクし、指鉄砲をくるりと回して私へ向ける。


「バキューン★」


 勝ち誇ったように笑うと、いつの間にか店から密かにテイクアウトしていたオールドファッション(バナナチョコかけ)をモグモグと貪り食った。


 本当に図太い。


「……そうね。ある意味夢見れたわ」


「よし! サキっち! じゃあ次は学校中を自動で爆破するロボと掃除するロボ作ってバトルさせればまた不労所得確定なのでは!? 作ろうか??またサクセスしてドーナツ食べ放題行きたいでしょ!?」


「作るわけないでしょうが!!!! ポイントじゃなくて被害が倍になる未来しか見えないわよ!!」


「えーでも、朝5時のエナドリは美味かったね!! いつもの倍くらい!! また味わってみちゃう? ユー!」


「……地獄かよ」


 エリア0012の空では、今日も巨大な監視の目が、全校生徒の歓声と、私たちのボロボロのバグった日常を、どこまでも呑気に見下ろしていた。

(第13話・完)



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