第62話『もうキレました』
俺達の葛藤も虚しく、振り下ろされた豚モンスターの大きな腕。
エルミアちゃんは、助けだした少女をかばうように、壁代わりになる。
「きゃああっ」
「ブフォォォ!」
怪力から繰り出された打撃に、華奢な彼女の身体が耐えられるはずもなく、無残にも殴り飛ばされてしまう。
「エルミアちゃん!?」
「嬢ちゃん!」
飛ばされた先で、ゴロゴロと転がり、
「だ、だいじょ、うぶです! それより、その子を!」
自分の事より、取り残されてしまった少女の心配をする。
エルミアちゃんも、下手をすれば骨まで砕けていてもおかしくないのに。
奇しくも、彼女の勇気ある行動がオークの動きを一瞬止め、俺達が先頭に追いつくことが出来た。
「ライゼス、その子連れて、嬢ちゃんとこ行ってやれ。 少しの間なら、時間を稼げる。 それに、この目の前の豚野郎は、俺の1番キレるポイントに触れちまったからよぉ」
エルミアちゃんに殴ったオークの裏には、ズラズラと同じ顔が10体。
1匹に、そう時間をかけてはいられないが、リーエンなら大丈夫だ。
「分かった。 エルミアちゃんの様子を見たら、すぐ戻る。 俺にも残しとけよ」
「・・・・・・分からん。 俺もぶち切れてるからな」
リーエンは、女性に暴力を振るう者は、容赦なく叩き潰す。 それが、モンスターだろうと同じ冒険者だろうと。
『女を大事に出来ねー奴が、堂々と歩いているのは許せねぇ』
以前、リーエンが酒の席で他の冒険者と揉めたときに言っていた。
エルミアちゃんが、身をていして守った少女に怪我はなさそうだ。
「大丈夫か? すぐここから離れるからな」
「・・・・・・ぅん・・・・・・、こ、こわいよぉ。 あのおねえちゃん。 だいじょうぶ、かな。 うっ、うぇ・・・・・・」
今にも泣き出しそうだが、しっかりしている。
「大丈夫。 あのお姉ちゃんも冒険者だから」
俺にかけてあげれらる言葉は、これくらいしかない。
急いで、エルミアちゃんの側まで駆けつける。
右の腕に、大きな痣が出来てしまっている。
「腕は動かせるか?」
「は、はい。 骨は、折れてなさそうです。 それより、ごめんなさい、迷惑・・・・・・かけちゃって」
「何言ってんだ。 謝るのは俺の方だ。 ・・・・・・だが、すまん。 少しだけ待っててくれないか。 この子連れてくのも、もういい」
「え?」
「もう終わらせる。 一撃だ」
エルミアちゃんと少女をその場に残し、俺はリーエンが繋ぎとめてくれているオークの群れへ戻る。
とっくに堪忍袋の緒はキレてる。
あのクソ豚共を駆逐するまでは、どうにも収まりは利かなそうだ。
俺の大事な仲間を・・・・・・天使を・・・・・・傷つけやがった。
所詮は、戦い慣れたオークだと、余裕をかましていたツケが、これだ。
俺の失態。
リーエンが、女性を傷つけられた怒っているのと、同じように。
俺も、仲間をボコられて黙ってはいられない。
エルミアちゃんは、俺の仲間にして命の恩人で、天使で、女神だ。
心のオアシスだ。
よくもその子を――。
「ライゼス、戻ったか。 彼女の仇のオークは、もう片付けたぞ。 って、おい?」
さっきまで、アホくさと思っていたオーク。
今ふたたび目にした瞬間。
頭のてっぺんに、血液が急激に走り巡っていくのを感じた。
耳まで熱くなり、目の辺りがやけにリキむ。
「あー・・・・・・。 これは、もう聞こえてねーな」
リーエンが、ザッとその場から静かに立ち去り、俺より後方に移動した事を足音で判断した。




