第53話『音痴じゃない・・・・・・です』
「なんてこった。 セラさんがいないなんて・・・・・・」
依頼を無事完了したと、報告のためにギルドへきたのだが、俺の担当してくれている受付のお姉さん、セラさんが多忙で会う事ができなかった。
報告して、報酬をもらうだけなら他の受付嬢さんでもいいだろうと言ったのだが。
(ライゼスさんだけは、私以外に受注、報告はさせないでください)
と、釘を刺されたのだと、後輩の受付嬢さんに聞かされた。
「あんたの信用の低さが覗えるわね~」
ニヨニヨと薄ら笑いで、ちゃかすカノンに、
「違う。 きっと、俺という逸材を独り占めしたいだけなんだよ」
独占欲を公私混同してはいけないが、こればっかりは俺の積み重ねてきた実績には、致し方ない。
「あんたの、その無駄な自信は何処からくるのかしらね。 尊敬するわ」
「じ、自信がある事は良いことだと思いますよ! 私は!」
「・・・・・・ほんとは・・・・・・分かってるんだよ・・・・・。 俺が借金をちょろまかすと思われてるんだぜ?」
うな垂れてしまう身体を、隣の酒場からのいい匂いが、拾い上げるようにふんわりと漂ってきた。
「・・・・・・のみたい」
そういえば、オリナはあのまま別れたままで、くれるといったお酒をもらえていない。
「なぁ、カノン」
「なにかしら」
「そういえば、帰ったら俺に奢ってくれるって言ってなかったっけ」
もう安酒でも、なんでもいい!
ドライアドの高級なもんじゃなくていい。
頼むから、この枯れ果てた喉と心を満たさせてくれよ。
「ん~、そうねぇ。 でも、その前に鍛冶屋に行っときましょ」
「ええ~! そんなのあとでいいよ。 もう飲もうよ。 おごれよ~」
俺の頭の中から、すっかりシルナ鍛冶工房で強化してもらっている愛刀の事は抜け去っていた。
「あんた、あれだけ大切って言ってた相棒を、そんなもの扱いって・・・・・・」
酔っ払ってからでは、連れてくの大変だからと、結局、酒場には足を踏み入れる事はなかった。
エルミアちゃんの、「バスターソードが、かわいそう」というぽそっと聞こえた呟きにも、背中を押されて、鍛冶屋へ先に行く事になった。
ついついその場の勢いで、酒場に走り出しそうになっただけで、愛刀に早く会いたいのは、俺も同じなのだ。
あれだけは、いくら積まれても売らないほど、大切な唯一の俺の剣なのだから。
遺跡の潜入を手伝った、もともとの理由は、壊れたバスターソードの修繕と改良の費用を、カノンが支払ってくれるという事から始まったのだ。
半ば強制的に、話がトントン拍子に進んでいったわけだが、結果、無事にみんなで戻って来れたので万々歳だ。
「~♪」
向かう道すがら、俺は鼻歌を奏でながら歩く。
エルミアちゃんが、「その曲どこかで聞いた事あります~」と一緒にハモってくれる。
「随分と曲の雰囲気が変わるのね・・・・・・」
「俺が音痴と言いたいのか? カノンさんや」
「そうとしか言ってない」
「エルミアちゃんは分かったもん! 音痴じゃねーやい」
確かに、俺と彼女の音色では、月とスッポン。
ゴリラが喉を鳴らすか、小鳥のさえずりかの違いと変わりないほど、雰囲気が違う。
よく酒飲み仲間と歌いながら、愉快に過ごすのだが、次回は少し躊躇してしまいそうだ。




