第52話『このまま一緒にいたいです』
「やっと帰ってく来れたぁ!」
ライゼスは、自分の拠点であるギルドに入ると、やっとその実感が湧いたらしい。
「長い夜でしたもんね。 おつかれさまです」
「なに言ってんだよ。 最後は、エルミアちゃんいなかったら死んでたぜ?」
わたしの頭をわしゃわしゃして、笑いかけてくれるライゼスさん。
声は相変わらず大きいけれど、その優しい人柄を思わせる温かな低温ボイスが、心地よい。
「わ・・・・・・わしゃってすると、ぁ・・・・・・耳は、ダメですっ・・・・・・」
人族とは違う位置に、私は耳が生えている。
猫の獣人なので、頭のトップサイドについているわけで、頭を撫でられたりすると、不意に触れてしまうのだ。
柔らかく触れる、太くて分厚い手が、私のネコ耳をこねくりまわすので、気持ちいいような、くすぐったいような心地よさを感じてしまう。
「す、すまん! でも、そんな声出したら、周りの連中に勘違いされるから!」
「あんた、エルミアが何しても許してくれるからって・・・・・・。 節操なしも、いい加減になさいな」
なにも悪くないの謝らせてしまった。
そんなライゼスに、相も変わらず毒を吐くカノンさん。
「俺は、頭を撫でただけだって! なぁ! エルミアちゃん」
「はい。 ちょっと、耳の裏側を、その、感じてしまって・・・・・・」
「ほら。 アウトよ! アウト」
こんなやりとりを、この依頼からの遺跡探索でたくさん見てきた。
ほとんどライゼスさんが、張り負けていじけてしまうわけだが、険悪な雰囲気にはならない。
この2人の言い合いの上には、信頼や今まで積み重ねてきた関係があるのだ。
私と出会う、ずっと前から共に旅をして、背を任せて戦って、絆を深めて。
繰り返して、できた唯一無二の関係なんだ。
「・・・・・・いいなぁ」
思わず、声に出してしまった。
「ん? 何か言ったか?」
あまりにも、脈絡のない言葉にキョトンとするライゼスさん。
「なんでもないです。 さ、依頼の報告にいきましょ」
大きな背中を押して、受付カウンターへうながす。
まだまだ共にいた時間の少ない私が求めるには、あまりにもおこがましい。
でも、いつか私もそんなふうに自分とだけの、特別な言葉の交し合いをしてみたい。
ライゼスさんと、そしてカノンさんといるのが心地よい。
獣人だと、罵ることもしない。
使い捨ての道具のように、乱雑に扱わない。
あくまで、仲間として。 同じ人として会話をしてくれる。
カノンさんは、初対面でも他の人と同じ声のトーンで、悪い意味の特別視をしないでくれた。
初めて目が合った時に、ライゼスさんと似たような雰囲気だなと思った。
こんな事、カノンさんに言ったら怒られてしまうかもしれないけど。
ライゼスさんの初見は、お腹の音を鳴らしているところだったなぁ。
露店で売っている食べ物を、指を咥えて見ている子供と面影を重なって、少し笑えた。
食べ物を渡したら、まるで天使でも見るかのように見つめてきたのを覚えている。
別に感謝されたくてした行動ではなかったが、あんなに感謝されるとやっぱり嬉しい。
それと同時に、人に感謝を伝えれる素敵な人だな、と思った。
私は、最初からライゼスさん達と会いたかったな・・・・・・。
仲間といえるか分からない、いまどこに居るかも分からないアルバス一行。
背中の刻印は、消えていない。
間違いなく、生きている。
いつかまたあのパーティに戻ると思うと、背筋が、氷で固められたように痛く、冷たくなっていく。
見渡す限り、アルバスや、その取り巻きはいない。
安堵の息を漏らすと、私の様子をおかしく思ったカノンが顔を覗き込む。
「なぁにしてんの? さ、私達も報酬もらいに行きましょ。 ライゼスと一緒にいかないと、アイツの借金の当てにされちゃうかもしれないわよ」
「ふふっ。 そんな事しませんよ、ライゼスさんは~」
なんだかんだ、約束も仲間も大切にしてくれる人なのは、もう知ってる。
「いいえ、油断しちゃだめよ」
カノンに手を引かれる。
その先で「あれ~?」と、担当の受付のお姉さんを探すライゼスさんがいる。
背中に、未だ恐怖を抱えたまま、私は温かな場所へと歩みを進める。
いっそ、このまま。
そう願うしかできない無力な自分に、煩わしさと嫌悪を抱いていた。




