第51話『帰ります』
事細かに解説されても、確かに俺は聞く耳をもたなかった。
さすがに、にょきっていうのは、ないんじゃないかなとは思った。
しかし、エルミアちゃんが一緒になって練習に付き合ってくれたおかげもあって、追っ手の衛兵が俺達へ辿り着く前に、ツルを伸ばすくらいは出来るようになった。
カノンが、全員に水中でも息が出来る魔法をかける。
効果は3分。
流れにまかせて出口に向かうには、5分かかる。
残り2分をいかに短縮するかは、エルミアちゃんの水泳能力にかかっている。
俺は、やっとこさ会得した『ツルを伸ばすだけ』の精霊の力を使った。
のちに、カノンからは精霊術っていうのよ、と教わる。
そんな俺だが、まだ伸縮の調整や力加減が上手くいかず。
「やっ・・・・・・。 はぁ、ん!?」
「ご、ごめんな。 ちょっと強く縛りすぎたか?」
「い、いえ、もう少し位置を腰の辺りに。 胸だと、いろいろと・・・・・・えへ」
思ったより、集中力がいるのだ。
思った以上に、狙いを絞るのが難しい。
これを、変形させてポンポンと、俺に攻撃を仕掛けてきたオリナが、いかに手加減していたか想像に難しくない。
精霊相手に、俺が普通に張り合える時点で、当たり前のはずなんだよなぁ。
「さぁて、脱出しますよぉ。 どぼぉん!」
1メートル間隔で、エルミアちゃんとツルで繋がった俺とカノン。
水路に飛び込んで、その勢いと獣人の脚力による泳ぎで出口を目指す。
水の中で、息が出来るのは不思議な感覚だ。
これが、初めてではないけど、何度味わっても違和感はある。
慣れているのはずの魔法の使用者を、チラリと瞥見する。
さぞかし、余裕な表情なんだろうな、俺と違って・・・・・・。
「あばばばばばばばば、エルルルびぁわわあわ~~・・・・・・!」
余裕の欠片もなかった。
俺と一緒だ。
もっと、ツルを縛るときに考えるべきだったなと、後悔をするも万事休す。
エルミアちゃんの、猛速のバタ足によって発生した水流が、俺とカノンに直撃していた。
息はできるが、水圧も合わさって、なかなかの威力を顔面に喰らい続ける羽目になったのだ。
自分が要だと、頑張ってくれているスイマーと化している彼女に、俺達の悲痛の叫びは聞こえるわけもない。
―――♦―――
「「ぶはぁあ!」
無事、『チギの遺跡』より少し距離のある大きな湖に、流れ着いた俺達一行。
3分ピッタリで、魔法の効力はきれたが、その後1分も経たずに、地上に辿り着くことができた。
「げほっ、げほっ。 あ、ありがとな、エルミアちゃん。 めっちゃ痛か・・・・・・――速かったよ。 助かった」
あのバタ足があってこそ、無事にここまで窒息しなかったわけだし。
「えへへ。 お役に立てたようで嬉しいです♪」
俺なんかに誉められて、なにがそんなに嬉しいのか。
ずぶ濡れになって、髪も服もびしょびしょ。
俺についてきたばっかりに、散々な目に遭わしてしまったが、それを気にもしないその笑顔。
朝日が彼女を滴る水に反射し、幾倍にも輝き増していた。
ついつい見惚れてしまうほど。 やっぱり、エルミアちゃんは可愛い。
「俺も、苦労した甲斐があったよ。 さぁ、帰ろうぜ。 カノーン、なんかテレポート的な魔法使ってくれぃ」
「私は、なんでも出せる便利道具じゃないの。 私も、クタクタよ。 このまま、エルミアに担いでもらいましょ。 あの強烈な足腰ならいけるんじゃない?」
「えぇ!? 無理ですよ!」
そのまま、だらだらと徒歩で近くの村まで、歩いて帰った。
丸一晩、遺跡の探索で潰れて、せっかく借りた宿も泊まらずじまい。
宿屋の人に心配させてしまったらしい。
濡れた身体を温める為に、風呂に入り、行きで乗ってきた荷馬車で、俺達はギルドのある街へ帰ったのだ。




