第40話『我慢の限界です』
「何する気だぁ! やめろ! おめぇ、たかが冒険者だろ!」
往生際が悪く、盗賊のリーダーらしき人物が、ツルで巻かれた身体を、ジタバタとその場で暴れ動く。
詰めに詰めて、いっぱいになっていた風呂敷から、お酒が入った瓶が1本落ち、割れる。
中身に入っていたお酒の、まろやかで、鼻の奥を透き通っていくような酒好きには堪らない香りが、辺り一面に漂う。
ブチッ!
「ぬぉぉぉおぉぉおおおおお! さけがぁぁああああ!」
瞬間。 最後の我慢の線が切れたかのように、若き冒険者は叫んだ。
鍛え上げられた腕の筋肉に、青白く太い血管を浮かばせ、ものすごい勢いで盗賊のリーダーの顔面を殴った。
「こんのやろぉぉぉぉおおおおおお! 酒を無駄にしやがってぇぇ!」
「ぼへっ!? ぶご! んな、や、やめ! ぶふぉ!?」
リーダーが、力なくうな垂れると、手下の盗賊も同じように制裁を与えていく。
オリナの役目を代わりにやってしまった。
ギリギリ意識を保っている、という状態まで殴って、気が済んだのか。
「んじゃ、あとは姉さん達にまかせるよ。 こいつら、煮るなり焼くなり好きにしな」
そういって、その場を足早に立ち去っていった。
――――
その時の、駆け出し冒険者の、雰囲気そっくりな、現在目の前に立っている資格を持ちし者。
叫んだ時の声、威圧感、そして悲壮感・・・・・・。
私は、知っているこの者は、あの時に盗賊を滅多打ちにした冒険者。
こんな所で、再び会う事になろうとは。
恩返しの機会が、巡ってきた。
だが、今は試練の最中。
宝樹の命に従い、続行する、
♦♦♦♦♦
「あちゃ~。 ついに我慢の限界がきちゃったかぁ」
カノンが、意識が朦朧とする中、独り言ちる。
俺は、積み重なったストレスの上に、オリナからの酒ビームを喰らい限界を突破してしまった。
オリナは、どうやら度数の高い酒を所持しているのか、それとも生成できるのか。
どちらにしろ、俺はもう耐えられない。
その酒を、もっと俺に飲ませてくれ。
俺は、目をギンギンにさせて、飢えた狼のように1歩、また1歩とオリナのいる場所へ、歩みを進めた。
「近づかせるわけがないでしょう!」
ツルの大拳をの連打の猛攻撃が、俺を襲う。
シュッ、シュッ。
それを最低限の動きで、躱しながら、確実に距離を詰めて行く。
「どこに隠してるんだ~。 そっちが仕掛けてきたんだろぉ~」
「な、なにを言っているのです!?」
「頼むから、もう1回だけでも、さっきの液体のビームをかけてくれよ! あんな美味いもん浴びせておいて、はい、さよなら死亡。 なんて、死んでも死にきれるか!」
オリナに触れれば、試練はクリアなんだよな。
じゃあ、その後はもちろんご褒美があるはずだ。
遺跡なんぞに興味は無いし、期待もしていなかった。
街に帰るまではと、耐えていたのにぃ。
もう畜生でも変態でもなんでもいい。
目の前の、酒の在処を知るドライアドに直接、いただくしかない。
泥棒じゃない。 正当な報酬としてもらえばいいんだもんな。
ここからは、真剣に試練をクリア目指してやろうじゃないか。
やる気出てきたぁぁ!
「ぬほぉぉぉぉぉおおお!」
俺は、一気に身体を加速させ、オリナに急接近する。
「っ!?」
魔方陣からのツルも、対処に遅れ、頑なに余裕の態度を貫いていたオリナが遂に動く。
だが、触れる事が勝利条件なので、俺に直接殴るなどの行為はできない。
勝機!
俺は、ニヤリとし、舌なめずりをする。
「あ、あなた、さっきとはまるで別人みたいですよ」
「こうさせたのは、お前だろぉぉ」
「きゃぁ!」
あと数センチという所まで、俺はオリナまで近づき手を伸ばすが、
「ぶふぉっ!」
更に、増えた魔方陣の中からツルの大拳が、俺を殴り、叩き、投げ飛ばす。
合計8つの魔方陣が、オリナの周辺に召喚されている。
だが、増えたからなんだ。
目的は変わらん。
「よぉぉぉこ~~せぇぇ!」
猛威を払いのけ、
喰らっても立ち上がり、
オリナをただ一心に目指した。
もはや、鬼ごっこの状態だ。
どれだけ攻撃しても、怯みもしない俺に戦意を失ったオリナは、ただただ部屋中を逃げ惑う。
「た~すけてー」
「な、なにが助けてーどぁ! 早く触らせろぉぉぉ」




