第4話『泥だらけです・・・・・・』
翌日の朝早くから、俺はキングドロカラス討伐もとい借金返済のために『宝樹のダンジョン』の探索を始めた。
このダンジョンに来るのは初めてだったが、ソロでも難なく倒せるモンスターばかりだった。
キングドロカラスの出現場所は、3階層。
その前に必ず通らなければいけないフロアボスの部屋なのだが、他の冒険者パーティが倒したのを見計らって俺も上の階層へ進んだ。
フロアボスは一定時間が経過すると、復活するという仕組みがダンジョン。
おそらく一人でも相手はできるが、ソロである以上余計な体力は使いたくない。
ベテラン冒険者としては、少しばかり、いやかなり格好悪い行為なのだが、背に腹は代えられない。 俺は、金もなければ仲間もいない。 食料は、ダンジョン内で木の実や一部のモンスターでなんとか凌いでいるわけだが、時間短縮のためだ。
はやく帰って酒を飲みたい。
自分の手持ちで今できること。 愛刀のバスターソード、冒険者用の基本アイテム、そしてプライド。
俺は、ソロだからこそ姑息な手をここぞとばかりに使う。
「生き残るためだ。目的のためだ。 借金なんて悪魔が俺に憑いてしまったんだ。 しょうがないんだ、他の冒険者よありがとう」
そんな感じに2層のフロアボスとの戦闘も避けて、目的の3階層へと到着。
真剣に1つの階層を攻略するとなれば、1日や2日では終わらないくらい広いダンジョン。
しかし、すでにマッピング攻略されている1階層と2階層はまっすぐその通りに進めば、ほらこの通り昼過ぎには3階層に到着を果たす。
「うわぁ。 キングドロカラスっていうから、泥のドロなのか考えてたけど、本当にその泥なんだな」
3階層は湿地帯。
泥沼がそこかしこにあり、枯れ木が幾数も生えていた。 かつてはその枝に青々とした葉をつけていたのかは分からない。 ダンジョンは未解明要素が多いのだ。
元々枯れ木として生えたのかもしれない。 意味が分からないが。
小型のモンスターは他階層の同じでちらほらいる。
「あれは、ドロスライム。 やだなぁ。 俺のバスターソード汚れちゃうじゃん」
近くに這いずっている名前の通り泥を纏ったスライム。
見た目も茶色で、ぱっと見は泥団子がウニョウニョ動いているようだ。
「ドロスラァァァ」
声高々に俺に的を絞ったドロスライムが体当たりしてくる。
仕方がないので、バスタソードを構えた。
防御力は他のただのスライムと変わらない。
ライゼスは、曲がりなりにも数多の戦闘を経験した強い冒険者だ。
そして、苦楽を共にしてきた愛刀のバスターソードもまたなかなかの業物である。
借金が重なんでも、こいつだけは売らないのはそういうわけである。
構えただけのバスターソードの刃に馬鹿正直に体当たりしたドロスライムは、2つに身体を裂かれる。
「・・・・・・」
無駄に大袈裟な破裂をして、泥がそこら中に飛び散る。
「ふざけんなよぉ!? 弱いなら弱いなりにそこら辺張っててくよ。 なんで攻撃もしてない俺がこんなに汚くならなくちゃいけないんだよ」
比較的に軽装備なライゼス。 鎧の部分が少なく、布面積が高い。
泥がべちゃりと付着して染みこむ。
「あ~あ。 こんなんでこれから戦わなきゃならないのかよ」
キングドロカラスの出現場所は、確か他の枯れ木より一回り大きい木の場所と聞いた。
3層のフロアボスは倒されているものの、マッピングは未だに3割程度。
そりゃこんな気分の悪い場所、誰も好き好んで探索はしない。
おかげで目的の敵を探すのに時間がかかってしまう。
「この道をまっすぐ行けばフロアボスなんだよな。 でも、フロアボスではないって聞いてるからなぁ。 その一本道にいるって事はないだろ」
道を外れ、まだマッピング情報が曖昧な場所を探す事にする。
ドロスライムは相変わらず、なりふり構わずアタックしてくる。
もう剣を構える動きも面倒くさくなったので、なにもせずそのまま突き進む。
俺の装備の防御力で、ダメージはない。
ただとにっかく泥が弾き飛ぶ。 身体が重くなる。 汚い。
「もうやだ! これじゃただの泥人形だよ!」
俺の身体は、すっかり茶色一色になっていた。
パーティを組んで、魔法使いとかヒーラーとかがいればこんなものサクッと綺麗にしてくれるのに。
ソロの悪い所だ。 剣士職のぼっち冒険者は、こういった自体はとても苦手なのだ。
「ガァァァ!」
空から数匹の鳥型モンスターが襲ってくる。
さすがにクチバシで攻撃されては痛いので、バスターソードを下段で構える。
鳥型モンスターに向けて、下から斜め上に刀身を振り上げる。
斬撃は見事に敵を引き裂き、数匹のモンスターはボトリと地面に落ちる。
「ドロカラスか」
ドロのが羽の生え際から染み出しているのが特徴的なのですぐに分かる。
息絶えたモンスターは、魔力の結晶となって四散した。
「この近くに親玉がいるかもしれないな」
耳を澄ませると、少し離れた所で「ガァガァ」とドロカラスが今よりたくさん数が鳴いているのが聞こえる。
枯れ木のたくさん生える裏道を進む。
すると、太い一本の枯れ木を発見する。
葉の1つも生えていない枝には、さっきのドロカラスとは比べ物にならないくらいの図体をしたドロカラスが下を見下ろしていた。
「あれが、キングドロカラスだな。 3メートルはあるなありゃ。 うえぇ、やっぱり泥が滲みでてやがる。 もう少しの辛抱だぞ、帰ったら綺麗にしたやるからな」
愛刀のバスターソードの刃は、先々の戦闘で真茶色だ。
キングドロカラスは、ピクリとも動かず一点を見つめている。 ギョロギョロとした薄気味悪い大きな眼は、遠目からでもどこを向いているか分かる。
木の根元から人丈ほど離れた場所に、ドロカラスの群れがバサバサと束になって、何かを囲んでいる。
「えい! くっ、数が多いよぉ。 もう、鬱陶しい!」
誰かが襲われている。




