第3話『猫耳の天使に会いました』
『宝樹のダンジョン』へは、他のダンジョンほど離れていない。
半日も馬車で揺られれば到着するのだ。
そう、馬車でなら。
俺は、もちろん馬車に乗る金なんてこれっぽっちも持ち合わせていない。
冒険者に快適な冒険ライフを送らせてくれるのが、ギルドってもんじゃないんですかねぇ。
炎天下でなかった事だけはマシだ。
木陰で一休みしながら、ゆっくり目的地へ徒歩で向かう。
出がけに受付嬢のセラから受け取った、【酒場のおっちゃんのおにぎり】を回復アイテムがてら口にする。 こんなおっさんが握った米粒の塊なんて、レア度1くらいだよ。
「ちぇっ、どうせだったら可愛い嬢ちゃんが作ってくれたおにぎりのが、よっぽど腹も満たされるってもんだぜ。 とはいえ、朝からなんも食ってないからな。 さすがに、もう空腹で限界だ、いただくぜ」
一口食べると、ほどよい塩気が利いていて、長時間歩いた身体に塩分が染み渡る。
「お、梅干し入りだ。 気が利くじゃねぇか」
俺の好物の梅干しが入っていて、食べやすいように種も抜いてあった。
酒場のおっちゃん(店主)の心配りが、先ほどまでの薄汚く罵倒していた俺を浄化していく。
「おっちゃんのホスピタリティ、しっかり感じたよ。 ちゃんと生きて帰ってくるからな」
俺のヒロイン候補ネタ枠に彼を入れてあげよう。
※ネタ枠なので結ばれる事は必ずありません。 ご理解の方よろしくお願いします。
・・・・・・
・・・
・
到着した頃には、すでに日が落ち始めていた。
「今日は、ここで一泊するか。 テントも借りれないし、適当にそこら辺で雑魚寝だな」
『宝樹のダンジョン』の入り口付近で、一夜を明かす事にした。
最近出現したダンジョンとはいえ、すでに多くの冒険者の探索場所として周知されているので、入り口周辺には露店もちらほら見受けられるし、貸出し用のテントもある。 もちろん貸出しって事は、有料だ。
なんでもかんでも金がいる。 世知辛い世の中だ。
寝るには少し早いので適当に露店を見て回ったり、どこかに小銭の1つでもないかと、血眼で歩き回る。
「くそ、この辺りめちゃくちゃ良い匂いがするし、余計に腹が減る。 なんの嫌がらせなんだ。
こちとら借金で無一文の崖っぷちベテラン冒険者様だぞ。 少しは・・・・・・遠慮をしてくださぃ。 恵んでくださぃぃ」
昼間に食べたおにぎりだけでは、さすがに一日は持たない。
露店からの焼いた肉と香辛料のスパイスの良い香り。 他にも色んな匂いが、空腹の俺を弱気にさせる。
ぐぅ~っと腹が鳴る。
「駄目だ! こんな所にいれば惨めになる一方。 ちょっと離れた所で、少し早いが寝ちまうおう」
明日は、早起きしてサクッと依頼対象のキングドロカラスとやらを倒して帰ろう。
そう心に決め、足を露店通りから離れよう踏み出すと、
「あの・・・・・・お腹減ってるんですか?」
一人の女の子が声をかけてきた。
艶やかな黒の長い髪に、頭からは猫の耳を生やしている。 身体の後ろからは、耳と同じ色をした尻尾がひょいっひょいっと動いている。
獣人である。 見た目は、15~6歳くらい。 装備しているのを見ると、同じ冒険者のようだ。
だが、急になんだ? 一回り以上年下の獣人の知り合いなんていないぞ? だが、どうやら声をかけられたのは、どうみても俺みたいなので彼女からの問いを返す。
「あ、あぁ。 ここに来る最中に食料とお金を盗賊の輩に取られてしまってね。 ははは、情けない限りだ」
嘘をついた。
だって、一文無しでしかも落ちているかもしれない小銭を必死に探してたなんて言えないじゃん。 俺にだって、プライドがある。 相手が女の子ならなおさら情けない事なんて言えるわけがないだろう。
「そうなんですね。 あ、だったらこれ食べてください。 ダンジョン探索する方ですよね。 だったら、空腹じゃ力も出ませんし」
そう言って、ほら吹きの俺に露店で買ったであろう肉の串焼きを渡してくる。
「え、なんで」
こんな見ず知らずのおっさんに何故、と聞きながらもすでに俺の手は串焼きを受け取っている。
「ふふっ。 すれ違い様にお腹の音が聞こえてしまったので。 なにか買う様子もないので、失礼でしたか?」
「いや、そんなわけがないあなたは天使だ必ず恩を返すと誓おう。 俺は冒険者ライゼス。 おっさんに見えるかもしれないが、まだピチピチの現役30歳の実力派剣士さ」
「あはは、面白い方ですね。 私はエルミアって言います。 見ての通り猫の獣人の冒険者です。 まだまだ駆け出しですけどね」
そういって、身体をくるりとさせて耳と尻尾を強調させるエルミアという少女。
ついでに、本能で胸にも視線を一瞬、ほんの一瞬だけ向けてしまった。 情けない。 しかし、立派なものをお持ちだった。
「本当にありがとう。 といっても、残念ながら今の俺は恩返しできるものがないんだが」
「いいですよそんなの。 助け合っての冒険者じゃないですか。 それに、私の勝手なお節介ですし」
「・・・・・・天使」
なにこの子。 この優しさを某受付嬢さんにも見習ってほしい。
「え? なにか言いましたか?」
「あ、いやなんでもない。 でも、本当にありがとう。 美味しくいただくよ」
「いえいえ。 少しでもお役に立てたなら良かったですよ。 あっ! いけない私もこれ仲間の夕飯の買い出しだったんですよ。 では、これで」
そう言い残して立ち去るエルミア。
他にも食料を抱えていたので、本人が言った通り仲間の分の買い出しの最中だったのだろう。
こんな見知らぬ冒険者に貴重な食料をくれるなんて、本当にいい子だ。
しかし、あまりに優しすぎるのも悪党共の標的になりがちなのも、この職業のよくある事実。
またどこかで会えた時には、恩返しができるといいのだが。
『エルミア』という天使の名を心に深く刻み込んだ。




