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第2話『おにぎりをいただきました』

 彼女が何を言っているのか分からない。 冗談にしては、面白くないな。


 他の冒険者も言っていた、あの量の宝石ならば30万はかたいんじゃないか、と。


「そんなわけないじゃないですか。 あんなにあったのにまだ借金があるって言うんですか!?」


「確かに、あれの全部が本物だったら完済できてたかもしれませんね」


 ・・・・・・なんだと? 本物だったら?

 引きつった口角が、さっきから元に戻らない。


「あれ、ほとんど偽物だったんですよ。 少しだけ宝石の欠片もありましたけど、あとは全部それっぽく似せたガラスでした」


「なんだとぉぉぉぉ。 嘘だ嘘だ嘘だぁああい。 絶対嘘だい! 酔っ払いのおっさんを騙して何が楽しいんだよ」


 絶対にからかっているのだ。

 

 この前酔った勢いで「ちょっと胸小さくなった?」と言った事を根に持っているのだ。

 この性悪女めっ!


「嘘だと思うなら、鑑定屋さんに行って聞いてみるといいですよ。 結果報告書もちゃんと書いてもらっていますし」


 淡々と説明していくセラの表情は、「苛つかせんなよ」の意思をパックで隠したような顔。

 それが、余計に今回の事は事実だと思い知らされる。


 無意識にかき集めていたガラスの破片。 


 無意味だと分かっていても、それが宝石なのだと信じたかった。

 

「なんてこった。 俺はどうしたら・・・・・・」


 合計15万ゴールドの金なんて、いつもギリギリで生きている自分に用意できるはずがない。


 こんな事なら、奴らに奢ってやるなんて言わなきゃよかった。


 誰だよ、そんな事を証拠にまで残した間抜け。


 

 ・・・・・・俺だよ。




 見かねた受付嬢のセラは、カウンターの引き出しから一枚の依頼書を取り出す。


 それをいい歳にもなって泣きじゃくる30歳おっさんに見せる。


「これ。 まだクエストボードに貼り出してない依頼書です。 凶悪モンスターが発見されたので、その討伐です。 まだ報酬金を検討中なので張り出していませんが、そこそこの金額にはなると思います」


「そこそこって? なんゴールドくらい? 完済できて、残りでどれくらい遊べる?」


「ぶっ飛ばしますよ。 パーティで山分けなんですから完済ギリギリくらいです! もしかしたらレアなアイテムや宝箱を見つけたら、プラスアルファって感じです」


 俺には、拒否する選択肢などない。

 酒場だって、ツケ(借金)のある俺には、今晩から提供をしてくれないだろう。


 ツケが利く店主ではないのだ。 長年利用してるんだから、一度や二度、三度や・・・・・・もう何回もツケてもらっていた。


 もう駄目だ、稼いで来いという事だ。


「分かった。 その依頼を受ける。 っていうか断れる立場じゃないしな。 だが、それは俺一人で行く」


 山分けなんてするからギリギリになってしまうのだ。

 だったら、一人で倒してしまえばいいじゃないか。 ベテラン冒険者をナメるなよ?


「それは危険ですよ!? ライゼスさんが、こんな飲んだくれの駄目オヤジでも強いのは知ってます。 でも、それでも情報によると、フロアボス級らしいんですよ」


 今回の依頼は、最近出現した『宝樹のダンジョン』という場所。

 ダンジョンは各地に点在するもので、未だに未解明な事が多い。


 危険度も高いが、その分報酬金も跳ね上がる。


 フロアボスというのは、ダンジョンの階層毎に必ずいる強いモンスターで、その先の階層に行かせないための門番みたいなやつらだ。


 フロアボスは、複数の冒険者でやっと倒せるほどのモンスターなのだ。


「知ってるだろ? 俺は昔、フロアボスを一人で倒した事を」


「それは知ってます。 こんな駄目な人でも見限らないのは、その腕っ節と実績があるからなんですから。 それでも、わざわざ危険を推奨はできません」


ギルドの窓口を任される受付という立場なら、そう言うだろう。

 時には、命を落としてしまう可能性もあるのが冒険者。 そんな俺たちに仕事を提供しているのだから、責任だってある。


 だが、


「嫌ですぅ。 ソロで行きます行っちゃいます~。 借金なんかさっさと返して、お宝ゲットして遊んでやるんだ」


 セラから依頼書を強引に奪い取り、カウンターへ向かう。


 受諾の印鑑を押す。


「あぁ!? 勝手にそんな事して。 知りませんよ、押しちゃったら、引っ込みつかないんですから」


「だーいじょうぶだ。 三十路のおっさんでも、まだ現役バリバリだ。 本当にやばいと思ったら引き返してくるよ」


 冒険者をやっていると、どうしても勝てないと思うモンスターもいる。 事前の情報よりも強かったなんてよくある話だ。 そういう時は、依頼失敗になってしまうが引き返す。 なにより命あってこそだ。


「絶対無理しちゃ駄目ですからね? こんなワガママ、普通は許さないですからね。 あなたを『冒険者』としては信用しているから、今回は送り出す事にします」


「ありがとよ。 大金持ちになって帰ってくるから期待してな。 そしたら、一杯奢るさ」


「そーゆーところが、この借金を生んだんですよ。 わかってますか?」


 俺のほっぺたを引っ張りあげるセラ。


 しかし、あーだこーだ言いながらも俺を認めてくれている人間の一人だ。

 こんな朝早くから、酔っ払ったおっさんの面倒も見てくれている。 


優しくて健気な女性だ。


「は~あ。 じゃあ、さっさと支度して行ってください。 私、あなたに請求伝えるまで帰れなかったんですから、徹夜でここにいたんですよ。 早く帰りたい」


「・・・・・・はい。 ご迷惑をおかけしました。 頑張って行ってきます」


 そうですよね。 優しさなわけないですよね。

 本音を隠そうともしないセラに、尻を叩かれるように自分の散らばった荷物をまとめる俺。


「はいこれ」


「ん? なんだこれ」


 セラは俺に、なにか包んだ小袋を渡す。


 おにぎりだった。


 俺が眠りこけている間に作ってくれていたらしい。


「セラさん、あんたって人は・・・・・・」


 最後には優しさで送りだそうとしてくれる彼女に、ウルウルと感極まってしまう。

「それ、酒場のおっちゃんから」


「・・・・・・ありがとうって言っといてくれ」


 俺は依頼を受けるために、『宝樹のダンジョン』へと向かった。

 三階層に現れたキングドロカラス討伐。 


 愛刀のバスターソードを背負い、いざ借金完済を目指す。






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