表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/72

第1話『借金ができました』


「これが酒場からの借用書です。 そして、こちらが騒いで壊した机やその他諸々の修繕費です。 どうぞ」


「は、拝見いたしますぅ・・・・・・」


 俺の名前はライゼス。 冒険者ギルドに所属して、15年のベテランだ。

 受付嬢さんに名指しで呼び出され、カウンター越しに渡された2枚の紙。

「5万ゴールド!? そんなに飲んだのか俺は! 記憶にないぞ!」


「飲みました。 私もこちらから酒場の様子は拝見出来ますので。 はっきりしっかりそのくらいのアルコール分は飲み干していました」


 こうまでハッキリ言われてしまっては、ぐうのねも出ない。


「こっちは――10万だと!?」

 酒場の机や椅子、壁などの修繕費は酒代の更に上をいっていた。

「待ってくれよぉ。 なんで俺だけで全額払わなきゃいけないんだ」

「はい。 それもご自身でおっしゃっていた事なので、自己責任かと」


 な、なんだと。

 俺は酔っ払うと調子にのる癖があるのは、理解している。

 ちょこーっと、他の冒険者達とドンチャン騒ぎをしていた――のも、覚えている。


 木材で作られた椅子を積み上げて、その上でバランス取りゲームをした・・・・・・気がする。

 椅子は、もちろん崩れた。


「あ~、たしかに椅子は悪かった。 調子に乗りすぎた、払う。 だが、他は知らねーぞぉぉぉ! 酔っ払いだからってな、毎回記憶を失うと思うなよ!? 他の壁とか知るかよ。 絶対俺じゃない間違いない」


 ギルド併設の酒場は、今いるカウンターからでも目に入る。

 壁には穴が開いている。


 椅子とセットであろう木材の長机は真っ二つ。 


「あれだけじゃないですよ。 もう一枚の丸机も見てください」

 小数用の机を指す。


「なんだってんだよ。 こっからじゃ特に壊れてるようには見えんぞ?」

「いいから、近くまでいって見てきてください」

 苛立ちを表情に出しながら、俺をコツく受付嬢さん。

 そんなに怒らなくてもいいじゃないか。 女の人の怒る顔は、どのモンスターよりも苦手なんだよ。 ちょっとビビってしまうではないか。


 言われた通り丸机の前まで行き、机の盤面をみて驚愕する。


(宝石王ライゼス様、参上)

(金ならまっかせろぉぉぉぉい、ひゃっはあ!)



 俺の筆跡で間違いない字で、机の盤面いっぱいにラクガキされていた。

 近くにあった濡れた布巾で、ゴシゴシ拭いてみたが、これは油性のペンで書かれていた。

 

 恥ずかしくて消えてしまいたい。 でもこれ消えない。


「あ、あはは~。 誰だろうなぁ、こんな人に罪をなすりつけようとする愚か者は。 俺がとっちめてやらないと」


「筆跡があなたのものくらい見れば分かります。 何年ここで働いていると思っているんですか。 しかも、ライゼスさんあなたの担当受付である私ですよ? 今更ネゴトを言わないでください宝石王、いえ、愚か者さん」


 いつも通りの笑顔でそう言う担当受付嬢さんのセラ。

 でも、こめかみに浮き出てますよ。 爆発寸前の太い血管が。

「まあまあ。 そんな怒らないで。 払いますよ、払います! この前回の冒険で宝箱の中から宝石をたんまり手に入れた宝石王ライゼスが、宣言通りにこれを換金して・・・・・・」


 あれ、そういえば宝石どこいった?

 腰に下げた雑嚢の中に、たっぷり詰め込んでおいた煌びやかに光るお金の子種たち。


 視線を巡らせて酒場とギルドの方を確認する。

 たらりと冷や水のような汗が、額から流れる。

 

 キラリンッ。


「おぁ! あったあったぞ、俺の宝石達が!」


 先ほどまで酔っ払って寝ていた長椅子の下に、光る物を発見した。

 あの眩いほどに光る物は間違いない。

 そこまで走って、それに手を伸ばす。

 触れるとチクリと痛みが指先に走る。


「痛って。 なんだこりゃ」


 ただのガラスの破片だった。

 壊した壁にあった窓ガラスの一部で、よく見るとそこら中に散らばっていた。


 建物の隙間から入る朝日の光を浴びて、反射していたのだ。


「待ってくれ。 じゃあ、俺のお宝はどこに行ったんだ?」

「もうないですよ」

「そうか、誰か盗んだんだ! 誰だよ、悪い奴がいるもんだ」

「もうこちらで回収しましたよ」


「あ、それとも足が生えたりして逃げちゃったのかな。 そりゃありえる話だよな。 だって、謎だらけのダンジョンで拾ったものなんだから、なにが起きても不思議じゃ――」


 現実を受け入れられない俺は言い訳をするが、それも虚しく・・・・・・言葉が詰まりうなだれる。

 そんな俺に受付嬢のセラは言う。


「あなたの持っていた宝石は、すでにギルドで回収して換金しました。 それを今回の酒代及び損害に当てさせてもらいました」


 なんて勝手な事をするんだ。 人の物だぞ。 いくら事情があれとはいえ、勝手に回収するなんてひどすぎる。


 しかし、少しは俺も反省しているのでそんな不満の言葉は飲み込む。

 長い付き合いの冒険者ギルドなのだ。

 持ちつ持たれつでやっていこうじゃないか。 多少の無礼なんて気にしない。


「そうか。 なら、これで借金完済だな。 セラさんも人が悪いなぁ。 わざわざ終わった事を蒸し返して脅すような真似してぇ。 そんなに驚かせたかったんですか?」


 あれだけの宝石の量だ。 5万やら10万なんて換金すれば、アッサリ完済できるだろう。

 いや、それだけじゃないはず、もっとあってもおかしくない。


「あの宝石を差し引いての借金ですよ、それ」


「は?」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ