第38話『これはお酒です』
すると、カノンとエルミアちゃんを縛り付けていたツルから、液状のものが染み出してくる。
「え! なにこれ!?」
「す、すごいにおいです」
2人は、その液体から漂うにおいを、吸い込む。
頭の奥からクラッとする。
視界が歪み、身体に力が入らなくなる。
エルミアちゃんは、そのまま意識を失ってしまう。
「やばい。 これ、相当な・・・・・・」
かろうじて、カノンの意識は保たれている。
オリナが、外野のカノンとエルミアちゃんを黙らせるために発生させた液体。
「これで少しは静かになるかしら」
脳に響くような強烈な香り。
その匂いは、距離のある俺にまで届き、鼻の奥を通り、神経そして本能へと支配していく。
どうやら、ドライアドのオリナの隠し球というところだ。
俺は、遺跡を内部から破壊するが如く、勢いよく動き回っていたのを止める。
その場で棒立ちになり、その匂いに全てを、身体機能までも停止してしまった。
「うふふ。 やっと静かになりましたね。 ちょっと、刺激が強かったかしら」
「・・・・・・」
俺は、オリナの言葉に返事をする余裕がなかった。
「これで試練も終わりね。 宝樹からの使命とはいえ、遺跡を壊しても平気のような輩が、最初の相手とは、運が悪かったです・・・・・・」
オリナが、部屋を見渡すとそこかしに踏み込んだ足跡が残っている。
「私もいけませんでした。 場所を配慮する必要がありましたから・・・・・・。 ですから、勝ち目の見えないあなたはここで終わりです」
そう言って、エルミアちゃん達と同じ匂いのする液体を手の平の上で生成する。
それをこちらに向け、水鉄砲として放出させる。
真っ直ぐ、水鉄砲としてそれは俺を捉える。
顔面に思い切り命中し、びしょ濡れ。 勢いで多少ふらつきはしたが、そんな事は問題ではない。
エルミアちゃんとカノンは、この液体の香りに、難色を見せていた。
当然だ。
エルミアちゃんは、口にしたことがなく、カノンもそこまで得意なものではない。
だが、俺にとってはこの世に存在するために、必要なレベルの大好物。
「酒だ・・・・・・」
かなり度数が高く、慣れていなければ気を失っても仕方ないかもしれない。
俺は、ずいぶんと我慢してきた。
思えば、もう何日も飲んでいない。
いつの間にか膨らんだ借金から始まり、ダンジョンへ潜った。
手に入れた宝は、偽物で、手元に残ったのは木製の短剣。
価値がある『宝樹の短剣』と分かったが、今では敵の手中。
性悪魔法使いに、コソ泥まがいなお願いをされ、衛兵に喧嘩を売った。
あげくに変態扱いだ。
そして、なんだ? 遺跡の奥で、命の危険に晒されているんだぞ?
こんなの酒樽の1本や2本じゃ、この荒んだメンタルは元には戻らんぞ?
「なぜ、倒れないのですか?」
オリナは、アルコール度数の高い液体をかけてなお、揺らぐことなくその場に立つ俺に戸惑う。
平気で立ってなどいない。
「これは・・・・・・酒だな?」
「そ、そうです! 私の作った高濃度のお酒です! ちょっとやそっとの酒飲みでも、すぐに生まれたての子鹿のように、立つのもままならないはずなのです」
ドライアドが作った酒・・・・・・。 上物じゃないか。
そこらの酒飲み?
ふざけんな、俺は最強の酒豪を異名に持つライゼス様だぞ?
酒を愛し、愛され、酒のためなら金を支払ってでも事を成す男だ!
・・・・・・まぁ、その金が払えなくて苦労してるんだが。
「今の俺に・・・・・・それは、あまりにも・・・・・・」
我慢に我慢を重ねた。
爆発寸前の風船も同じ俺に、お前は! オリナは! 一番やってはいけない事をしたんだ。
「う・・・・・・うぉぉぉぉあああああああああああああああ! 酒だぁぁああああうほぉぉぉお!」




