第36話『選択肢はありません』
密室となり、脱出不可能になった。
俺には読めない古代文字が、びっしりと埋め尽くして書かれている壁が四方を塞ぐ。
上を見上げて、天井を確認しても抜け穴はない。
地面からは、宝樹のダンジョンから伸びていると思われる、太い大きな樹の根が生えている。
遺跡の秘密を知っていそうなドライアドのオリナ。
そして、俺とエルミアちゃんとカノン。
試練は、俺達の意思に関係なく行うという。
どうやら、以前ダンジョンで手に入れた『宝樹の短剣』とやらが、関係しているみたいだ。
成り行きで所持していた俺だけが、資格者なのだとか。
「内容も聞いてねぇのに・・・・・・一方的過ぎじゃないか? オリナさんとやらよぉ」
内容はおろか、その結果どうなるかも分からない。
今までカノンに連れて行かれた遺跡は、知識や歴史といった一部の人間は、大喜びするものではあったのだが。
宝箱や金目になるような物を見つけた事は、ほとんどなかった。
遺跡で見つけた物は、国に没収されるし、なんの得にもならない。
どうせ、ここも同じ事だろうよ。
「試練の内容は、私との戦闘です。 単純な殴り合いによる見極めです」
オリナは、さらっと言う。
そうはいっても、相手は精霊のドライアドだ。
「俺は、ここまでの道のりでクタクタなんだぜ? しかも、精霊のあんたとなんて・・・・・・。 さすがの俺でも、力の差が分からないほど、ひよっこのつもりはないぜ?」
人間が、精霊相手に真っ向から勝負を挑むなんて、子供が猛獣に挑むようなものだ。
「私に一度でも触れさえすれば、あなたの勝利」
なるほど。
あくまで試練なわけだもんな。
殺し合いなんてするわけはないか。
「それだったら、ライゼスでも少しは可能性あるんじゃない? てか、合格してもらわないと困るのだけれど」
カノンは、もう完全に俺まかせの態度を決め込んでいる。
「頑張ってくださいね!」
エルミアちゃんも、もう応援モードに切り替わっている。
戦闘形態に強化した爪は、元の普段の人の手に戻っている。
おいおい、待ってくれよ。
少しは頭使おうぜ。
「ちょっと、2人とも耳貸してくれ」
俺は、仲間の2人を自分の近くに寄せて、オリナからは距離を取る。
「なによ。 なにか作戦でもあるの?」
「どうしたんですか?」
「アイツは、俺だけって言ったが、別にお前達が横槍を入れるな! とは言ってないはずだぜ?」
つまり、資格者である俺がオリナに触れなければいけない。
これは仕方ない。
だが、それまでの過程を制限するような事は、まだ言っていない。
「確かにそうね。 さすが、クズの考える事は違うわね」
「おい、口には気をつけろよ。 俺の心はシャボン玉なんだからな。 それにこれは、正当な作戦だ。 ルールの裏をかくなんて、初歩中の初歩だ」
冒険者を長くやっていれば、こういったイレギュラーな事が起きるのは少なくない。
しかしラッキーなことに、今回は相手からルールを提示してきた。
明確に細かく設定されたものじゃなく、勝利条件のみを伝えるという粗雑な程度の、だ。
オリナから戦闘と言ったのだ。
戦いにズルいもクソもあるかっ!
「カノンは、まだ魔力残ってるよな。 エルミアちゃんもまだ体力余ってそうだし――」
俺が、状態をみて作戦を口にしようとした瞬間。
「きゃっ!?」
「な、なによこれ!」
俺以外の2人の身体を、樹の根から伸びたツルが巻き付いていく。
ジタバタと振り解こうとしても、生命力の塊のような自然を前に、人の力は無力だった。
「私の解呪魔法も効かないなんて」
カノンは、とっさに魔法を発動したみたいだが、それも通用しなかった。
エルミアちゃんは、爪で引き裂こうとするも。
「ふえ~ん。 再生能力が高すぎます~」
いくら裂いても、一瞬でツルは元の状態に元通り。
2人は、腕と足をぐるぐる巻きにされてしまった。
人質を得たツルが、根元まで戻っていく。
樹の根を背に、魔法使いの美女とネコ耳の美少女は貼り付けにされてしまう。
「もちろん、2人の戦闘への介入は不可です」
オリナには、俺の作戦は見透かされていた。
というよりは、元々そうする予定だったのだろうが。
「あまり傷つけないでくれよ? さすがに仲間を目の前で殺されちゃ、俺でもキツいからな」
「では、試練を達成していただくほか、ありませんね」
つまりそれは。
「失敗条件は、資格者の死です。 彼女達も、もちろん同じく死んでもらいます」
「・・・・・・おいおい。 まじかよ」
俺に選択肢はなくなった。
降参ができない。
逃走手段もない。
仮に、抜け道を見つけても2人を置いていけるわけがない。
俺も、これはさすがに腹を括る。
「オリナさんよぉ。 手加減は大歓迎だからよろしく」
地面に寝かせて置いてあった、切れ味最悪の大剣を拾い上げる。




