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第35話『強制的です』

 俺は、ただのカノンの付き添いに過ぎないのだ。


「わたくしはドライアドのオリナと申します。 宝樹よりこの先を行く者の見極めを仰せつかっております。 意思は、この鍵を持っている時点で決まっております。 あなたの言葉は意味を成しません」


 ドライアドといえば、森の精霊として世では知られている。


 人間やモンスターとは、また違った存在。 直接的に、人間に害を与える事はない。

 しかし、その力は強大で自然を操るという。


 その中で、植物の力を有するのがドライアド。


 そのドライアドのオリナという精霊は、俺の言葉に聞く耳を持つ気がなさそうだ。


「オリナとかいったか。 俺は、別に遺跡とか興味ないんだ。 このまま帰るから、見逃してくれよ」


 精霊なんぞと戦闘になってみろ。 厄介な事になるに決まってる。


 潜入までは付き合ったんだ。 カノンからの交換条件は達成した事になるはずだ。


「ちょっと! どう見ても、この先に何かあるって確定したじゃない。 引き返すわけないでしょ」


「うっせぇ! じゃあ、お前が試練とかゆーの受けろよ。 俺ぁ、もう慣れない大剣振ってただでさえ疲れてんだ」


 無駄に多く沸いてきたロックゴブリンだった。 


 エルミアちゃんは意気揚々と戦っていたが、俺はやる気も起きないし、疲労だけがどんどん溜まっていっただけだ。

 これ以上やるなら、あとはやりたい奴で解決してくれぃ。


「いいわよ。 私は、知らないものを知るのが生き甲斐なの。 試練とやら、請けてやろうじゃない」


 カノンが、俺を押し退けてオリナの前に立つ。

 背丈は同じくらいだが、出るとこの大きさは雲泥の差だった。


「さぁ! 試練とやらは何なのかしら」


 精霊相手にも、強気の態度を取るカノン。

 どう取り繕っても、タダでこの遺跡の秘密を知る事は叶わないと悟ったのだろう。


 どんな事をされるのか分からないが、戦闘になったら、いくらカノンでも分が悪い。


 まさかペーパーテストなんて訳もない。 もしそれなら、頭の良いそれも知りたがりのカノンに打って付けなのだが。


 そんなカノンに、オリナは答える。


「あなたに資格はありません。 もちろんそこの獣人も同じです。 試練が受けられるのは、そこの男のみです」


 そう言って、俺の事を指さす。


 そして、部屋の端に寄せて寝かせている衛兵を一瞥するオリナ。


「どうやら、あの者達は関係ないようですね。 無闇やたらと私に触れていたのも気に入りませんでしたし、捨てましょう」


 パチンと指を鳴らすと、【催眠】で眠っている衛兵達の真下に穴が開いた。


「お、おい!」


 穴に無防備に落ちていく彼らに、情も何もないが、さすがに殺すのは・・・・・・という人心を抱いた俺。


「ご心配なく。 遺跡の外に放り出しただけですので」


 すぐに穴は閉じて、元の石の地面に戻る。


「ライゼス、あんたしか請けれないって」


 カノンは、俺に方を振り向き見つめる。


 そんな柄にもなく、可愛い子ぶってもダメです。

 こうゆう時ばっかり、その美貌をチラつかせるのは辞めてもらおう。


 お前の性根については、嫌ってほど知ってんだ。


「嫌だぞ。 これはお前との条件に入ってない」


「んぐっ・・・・・・。 そうだけど、だって、私じゃダメって」


「知らねーよ、そんなの! さ、帰るぞ。 無理だって分かったんだから」


「い~や~だ~!」


 さっさっと遺跡を出てしまおうと、歩き出す俺にすがるカノン。


「ええ~い、この手を離せ! 肋骨が当たって痛ぇ!」


「ハ? イマナンツッタ?」


 おっと、失言。 胸がないと遠回しに揶揄してしまった。

 

「と、とにかく! 俺には無理・・・・・・って、泣くまで!?」


 カノンの瞳は潤んで、俺から視線を逸らさない。

 ここぞとばかしに、泣き落としまで使ってくる。


 さっきから蚊帳の外状態だったエルミアちゃんが、そんなカノンを見て言う。


「ライゼスさん。 試練の内容だけでも聞いてみてはどうですか? 本当に無理だと判断すれば、カノンさんも分かってくれるんじゃないですか?」


「エルミア、ないすぅ!」


「だめだ! いかん! カノンをそーやって甘やかすと、次も、その次もこうやって我儘になっていくんだ。 俺は知ってるんだぞ」


 俺は自分を棚に上げて、なお、断固拒否する。


「あんたにそれだけは言われたくないわね・・・・・・」


 若干、傷ついた様子のカノン。


 エルミアちゃんは、「でも・・・・・・」と言葉に付け加えて、


「このまま引き返したら、あの短剣も取られたまんまになっちゃいますよ」


 名残り押しそうに、オリナの手の中にある『宝樹の短剣』の方に視線を落とす。

 エルミアちゃんは、なぜかあの短剣に愛着を湧かせているようだ。 俺との出会いの思い出とは言っていたが。


「ン~・・・・・・」


 どんな理由であれ、キングドロカラスを相手に無事に帰れたのもエルミアちゃんのおかげ。

 結果として、あの短剣も俺の物になっていたのだが、ある意味、共有の品といっても仕方ない。

 それを思うと、断るに断れない。


「んあー! 聞くだけだぞ。 分かったかカノン! 聞くだけな。 エルミアちゃんに免じてだぞ?」


 どんな試練の内容でもやる気はないからな。


「あんたやっぱりロリ・・・・・・」

「ロリ・・・・・・!?」


 カノンの言いかけた言葉に、エルミアちゃんが過剰に悲しそうにした。


「ロリコンじゃねーから」


 現在は、俺の方が立場的には返事する側だぞ? わかってんのかカノンの奴。

 ちょっと気を許すと、すぐこれだ。



「なにやら、お話が続いているようですが。 試練は、強制的に始まりますので」


「「は?」」


 オリナがそう言うと、この最深部の部屋の唯一の出口が閉ざされる。

 そこには、元々通路への道など無かったように、ただの石壁となった。


 

 


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