第29話『聞こえてました」』
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遺跡の入り口に残った3人の衛兵から見えない所まで誘導する。
雑な説明しかしてくれていないカノンが、一体どこで登場すてくれるのか分からない。
なんてはた迷惑な話でしょう。
とりあえず、さっきまで隠れていた場所の近くまで追っ手を引き寄せる事はできたのだが。
「ライゼス。 こっちよ」
カノンの呼ぶ声がする。
「そのまま、こっちに来て私が奴らに【催眠】の魔法をかけるから」
木の陰から、俺にだけ見えるようにコソッと姿を半分だけ見せて手招きする、覆面をしたカノン。
背後からは、衛兵が3人、俺を追ってきている。
「オ、オッケー」
俺は、言いたいこと葉山ほどあるのを飲み込んで、返事を返す。
カノンのいる木を通り過ぎ、数メートル先で足を止める。
追い詰めたとばかりに、3人の衛兵は俺を捕まえようとにじり寄る。
「やっと止まったか。 この変態め」
「どうせ、酔いが回って吐きそうなんだろ」
酔ってない。 むしろ、酔っていたら方がどれだけマシだったかと思うほどだ。
そして、変態でもない。 変態と思われても仕方ないけど・・・・・・。
「気をつけろ。 また、鼻くそをとばしてくるかもしれ・・・・・・ふにゃぁ~・・・・・・」
「ど、どうし・・・・・・おふぅ」
1人、2人とバタリ、バタリとその場に倒れていく。
最後の1人も何が起きたか分からず、カノンの【催眠】にかかって、眠ってしまった。
「ちょうど3人ね。 ライゼスにしては、上手く誘い込んだじゃない」
そう言って、俺の気持ちなど考えもせず、覆面を脱ぎ捨てながら、俺に言葉をかけてくる。
茂みに隠れていたエルミアも出てきた。
「お、お前なぁ! 俺がどんな思いでコイツらをここまで連れてきたか考えて物を言えよ!?」
「一部始終見ていたわ。 何を投げたのかまでは分からなかったけれど、それ以前のあの奇行は、見せられた彼らにも、私達にも謝って欲しいくらいよ」
散々な言われようだ。
だったら、もっと具体的な案を最初から指示してほしいもんだ。
「ラ、ライゼスさんは・・・・・・すごいと、思い、ました」
エルミアちゃんは、俺を直視せずに言う。
若干引いているのと、俺が半裸のままという2つが理由だ。
半裸はともかく。 エルミアちゃんにも全て見られていたと思うと、今にも家に帰ってベッドで枕を濡らしてしまいたい気持ちになった。
「で、でも、大丈夫ですよ! アルコールが入っていたと思えば、ゆ、愉快な奇行・・・・・・踊りでした!」
フォローしてくれてありがとうね。
でもね、奇行と思われてしまっている時点で、俺の心のダメージは変わらないんだ。
言い直してくれたけどね。 ちゃんと聞こえたよ。 奇行って言ったね今。
「それで、何を投げたの?」
カノンは、眠っている衛兵の鎧と兜を、乱暴に剥ぎ取りながら聞く。
「お、おい。 そんなふうにしたら起きちゃうぞ!?」
「大丈夫よ。 私の魔法の威力舐めないでよね。 ビンタ10発食らっても起きないはずよ。 ほら、あんた達も早く拝借しちゃいなさいな」
俺もエルミアちゃんも、鎧と兜を脱がせて、自分に着せ替える。
何を投げたか、という問いは無視する。
カノンには今更だから別に良いが、このネコ耳美少女にはこれ以上失望されたくない。
「で? どんな手を使ったのよ。 丸腰だったでしょ」
「・・・・・・言いたくない」
「なんでよ。 言いなさいよ。 余計に気になるわね」
気になり出すと、聞くまで諦めないのがカノンだ。
どれだけ俺が取り繕うと、聞き出すまでどもこもならない。
だけど、俺にだって・・・・・・ここまでドン引きされてから言うのも、手遅れかも知れないけど!
それでも、まだ守りたい自尊心くらいあるんだ。
カノンの耳元で、エルミアちゃんに聞かれないようにコソッと投げた物も教える。
「・・・・・・アンタ、落ちるとこまで落ちていくわね」
「落としたのは、紛れもなくお前のせいだよ!」
「鼻くそ投げたって、こいつ」
「なんで言ったぁ!!」
エルミアちゃんには『さすがに知られたくないから』と、念も押しただろぉが!
平気でさらっと言いやがったカノン。
「き、聞こえてました。 き・・・・・・機転が利くんですねぇ! さすがです――」
獣人は、人より耳が良い。
こんな距離で内緒話をしても、無意味に等しかったのだと気付く。
でも、さっきより更に心の距離が開いた気がするのは、気のせいかな。
どこかで名誉挽回の機会があれば、全力を出そうと心に誓うのだった。




