第28話『ワイルドですよ』
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「ほ、ほほ~・・・・・・い」
羞恥心と虚しさで、俺のメンタルはすでにズタズタになっていた。
顔を紙袋の粗末な覆面を被り、腹には不可解な顔のイラスト。
月明かりをバックライトに、木々がそよ風に揺れてさわさわと演奏してくれている。
これが、可憐な美女の魅惑の舞であったなら、さぞ簡単に目の前の衛兵を誘惑できた事だろう。
だが現実がこうでは、そりゃ近づきたくもないし、可哀想になって涙も浮かべられるわけだ。
絶対、俺が誘導要員になったのは采配ミスだ!
あのドSな指揮官は、即刻辞任していただきたいものだ。
とはいえ、このまま腹芸をやっていてもラチが明かないのは明白。
完全に俺の腹芸は、悪手だった・・・・・・。
何か、ここから挽回の手立てはないものか。
当たりに視線を巡らせて見るも、あるのは木と寂れた遺跡、哀れみの視線を送る衛兵6名。
・・・・・・ダメだ! 詰んでる!
酔いが覚めたと見せかけて、ここは一度退散するか?
でも、そしたらカノンに怒られる。
最悪、金銭の工面を絶たれてしまう可能性もありえる。
今は鍛冶屋に預けてあるバスターソードは、実際にはまだ支払いはされていない。
それを「あんた役に立たなかったから」の一言で全額支払う事になってしまいかねない。
そんな金はない。
退路は断たれた。
俺に残された手札はなんだ。 なにがある。
腹芸・・・・・・粗末な紙袋の覆面・・・・・・靴にズボン・・・・・・ヘソごま・・・・・・。
ヘソごま・・・・・・。
耳くそ・・・・・・鼻くそ・・・・・・。
鼻くそ・・・・・・。
「これだぁ!」
俺は、これしかないと思った。
頑なにその場を離れようとしない衛兵を突き動かすような衝撃。
そう、怒らせてしまおう。
俺は、人差し指を立てる。
それを紙袋の空いた隙間に入れ、鼻を・・・・・ほじる!
「お、おい、こいつ何かやり出したぞ」
「鼻を、ほじっているのか? どこまで落ちていくんだ・・・・・・」
彼らの目には、ひたすら人として大切なものを落としていくヤバい奴にしか見えていないんだろう。
そうだ、その通りだ。
自分でもそう思っている!
しかも、この状況は間違いなく、後方より様子を窺っている仲間の彼女らにも見られているわけで。
ぶっちゃけも、うなるようになれっ! という暴走状態だ。
「必殺! 鼻くそ飛ばしっ!」
説明しよう。
俺は、幼少期より対人間戦において最後の手段【鼻くそを飛ばす】という技に関しては、右に出る者はいないと自負している。
親しい間柄であろうと、俺を格下に見て相手にもしない人間に対しても、この技は必ず怒らせる事が出来る。
昔からやんちゃだった俺は、それはもう色々なイタズラをした。 その上で、鼻くそ飛ばしの有効さを知った俺は、練習を重ね、今ではほぼ百発百中で、くそを飛ばせる。
「まじかコイツ!? 鎧の目の隙間に鼻くそ飛ばしてきたぞ!?」
俺は続けて、2発も他の2名に1つずつ飛ばす。
もちろん全部、狙い必中だ。
「きったねぇ! 酔っ払いだと思って見過ごしておけば・・・・・・ぶっ殺してやる!」
「――おいおい俺の、鼻毛ついてんぞ。 アイツを捕まえろぉぉぉぉ!」
見事に、予定の3人の衛兵を、こちらに仕向けさせる事に成功した俺。
だが俺は現在、丸腰である。
予備の大剣もエルミアちゃんに預けてある。
とにかくひたすらに、カノン達との合流地点まで逃げなければいけない。
「ひぃぃっ!」
半裸で踊り、鼻くそを飛ばし、敵に背を向けて逃げ走る。
・・・・・・最高にワイルドな男だと思わないかい・・・・・・。




