第27話『覆面の半裸の男です』
断じて、こんなコソ泥のような事のために、日々腹芸を酒場で披露してきたわけではない。
楽しい酒の場を盛り上げるために、それこそ洗練してきたのだ。
俺は、覆面はそのままに上半身の服だけを脱ぐ。
意外にも酒っ腹ではなく、そこそこ割れた腹筋。
そこにペンで、いつも通り愉快なイラストを描いた。
カノン、エルミアちゃんの2人は、俺がおびき寄せる場所で待機している。
遺跡の入り口の前までおもむき、俺は酒場の必殺奥義【腹芸】を事もあろうに、国の衛兵の前で踊ってみせた。
「ほほ~い、ほほほ~い! ヘソごま飛ばすぞ~い♪ ほほほっほ~い♪」
月の光が俺を照らし、その変態さは、もはや狂気の沙汰に見えたであろう。
程よい腹筋の膨らみが、影を作り、愉快なイラストは下卑た笑みを浮かべたイラストに衛兵達には見えたのかもしれない。
「お、おい。 やばいのいるぞ」
「そこの村での酔っ払いのおっさんだろ。 哀れな・・・・・・」
おかしいな、いつもならここで笑いの1つでも起きるはずなのに。
そんな悲しそうな目で俺を見ないでくれ。
「きっと嫁にでも逃げられて、ヤケを起こしてるんだ」
「他の連中にも相手にされず、仕方なく衛兵の俺達に絡んできたのか」
「ほ、ほ~いほらほら、愉快な愉快な酒まっつり~! ほれほれこっちに、おいでやほ~い」
ひたすらに哀れみの目で俺を見る6人の衛兵。
涙を浮かべている者。
口を押さえて、目を逸らす者。 あれは笑いを堪えてじゃない。
きっと言ってはいけないと思うような事を、言わないようにするために・・・・・・。
もう嫌だ! はやく止めたい! シラフでこんな事をするなんて、俄然無理な話だったんだ!
どことなく遠目から俺の様子をみているであろう2人の仲間から、冷たい視線を感じるのは気のせいだろうか。
―――♦――――
「ライゼスさん、普段あんな事・・・・・・してるんですか?」
エルミアは、世にも奇妙な怪奇現象を見るように言う。
「そうよ。 酔っ払いの末路が、アレを作ったの」
「でも、今ライゼスさんお酒飲んでないですよね・・・・・・」
実は、少し飲んだのではないのか? と思うエルミア。
カノンもあれをシラフでやれ、などと鬼のような事をいう人ではあるまい。
なんだかんだ少しだけあのアップルジュースに、アルコールの細工をしたに違いない。
正気の状態で、あんな恐ろしい事をやれる人間など、今まで1度も見た事がない。
お酒の席で、アルコールのせいで愉快になった人だから。
そうゆうノリの宴だから。
そういった条件が揃って始めて、成り立つ技。
「あいつは・・・・・・シラフよ」
カノンは言う。
「そ、そんなまさか。 冗談言わないでくださいよ~。 もうカノンさんったら、実は少しさっきのジュースにアルコール入れてたんですよね?」
「そんな事してないわ。 そもそもちょっとやそっとの量で、ライゼスは酔わないわよ」
付き合いの長いカノンだからこそ言える事だ。
何度も彼と酒を酌み交わしているだろう。
何度も酔っ払った時の酒の量を見てきたのだろう。
その彼女が、真剣にそう答えたという事は、そういう事なのだ。
「・・・・・・すごいです。 ライゼスさん」
「確かに、冗談のつもりで腹芸したらって言ったけど、本当にやるなんて。 私は、少しアイツを見くびっていたのかも・・・・・・しれないわね」
ライゼスの奇行はドン引きを通り越して、もう一種の技だと思う事にした。
酒飲みとして、人として、積み重ねてきた経験が自分とは何もかも違うのだと、そう思うエルミア。
今の彼の心情を考えると、苦しくて胸が張り裂けそうになる。
そして、なかなかライゼスの思惑通りに動いてくれない衛兵。
きっと衛兵の人達も、覆面を被った半裸の男に、戸惑っているのだろう。
エルミアもカノンも、こちらに衛兵を誘導してくれなければ、行動に移せない。
しばらく彼の奇行の様子を窺っていた。
すると、ライゼスはなにかを衛兵の人に投げつけるような動きを見せた。
「なにかしたわね・・・・・・。 あっ、来たわよ! ナイス、3人来たわね」
「カノンさん、私はなにをすればいいんですか!? そういえば、なにも聞いてません」
あのライゼスも内容も定まらない内に、作戦の実行を強いられていた。
カノンもカノンで、なかなかハチャメチャな人だなと、エルミアは思った。
「エルミアは、とりあえず何もしなくて良いわ。 戦うつもりはないから」
そう言って、覆面の魔法使いは茂みを出る。




