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第23話『1人は怖いです』



 カノンのGOサインが発動するまで、俺、エルミアちゃん、カノンの3人は各々に時間を潰す事になった。


 大きな村ではないが、武器屋もあれば、女性が好んで着るような洋服が売っている店もある。

 俺は、真っ先に酒場を探した。 歩いている最中に気付いたことだが、お金の入ったなにかしらを俺は持ち合わせていなかった。


 子供でも、お小遣いを持って出歩くというのに。


 いい大人が間抜けである。 ・・・・・・泣きたい。


 酒場はあったが、どうやら俺の普段から入り浸っているギルドの酒場のように、昼から営業してはいないそうだ。


 店の前には、【CLOSED】の文字が刻まれた看板が立てかけられていた。


「どーせ、飲めねぇんだから、開いてても仕方ないけどな」


 時間はたっぷりあるが、他に俺の気を引くようなものがない。 


「そういえば、村の側に良さそうな木陰があったな。 そこで昼寝でもするか」


 金がない。 遊ぶ事もできない。 酒もない。 服も興味ない。

 寝るしかないだろ。


 昼間っから寝るのも悪くはないな。



―――――――



 エルミアの心は、ひたすらに不安で支配されていた。


「アルバスさん・・・・・・怒ってるよね。 どうしよう。 またお仕置きされちゃう。 こわいよぉ」


 村でライゼスとカノンは、それぞれに行動して今は1人で村を散策している。

 2人がいなくなると、途端に自分の恐れている者が頭を支配する。


 アルバスというのは、エルミアがライゼスと出会う前に一緒に冒険をしていたパーティの頭目の人の事だ。


 パーティなので、他には片手剣使いの人と、罠師の人がいた。 


 最初は、この街にきて1人ぼっちだった私を、同じく他のギルドから拠点を移してきたばかりだという彼らの誘いに、心良く参加させてもらった。


「おう、お前も1人か? 装備を見る限り近接の戦闘スタイルみたいだな」


「はい、モンクをやってます」


 声が大きく、図体もデカい。 顔も人睨みでもされたら、小さな子供は泣いてしまうのではないかという程の強面。


 エルミアも声をかけられた瞬間は、ドキリと肩を縦に揺らしてしまった。

 会話をする中で、アルバスはそんな図体の割に、意外な事に魔法使いだという。


 ついついそれがおかしくて、エルミアは笑った。


 それを機に、次第に緊張もほぐれていき、近接の戦闘職が少ないというアルバスのパーティの一員となった。


 罠師の人が、女性だったというのも気を許せた要因だ。

 さすがに男だけの複数のパーティに、なんの情報も無く加入する事は、誘われても承諾しなかったと思う。


 自意識過剰といわれても仕方ないが、事実、冒険者稼業をしている人が全員善人といわけもなかった。

 悪巧みもする人もいる。 状況を自分なりに判断して、冒険も仲間集めもしなければ、明日の命はない。


 こそっと、ギルドの受付嬢さんに彼らの事を探ってみたが、なにぶんこのギルドに入ったばかりらしいので、詳しい事は聞き出すことはできなかった。


「まぁ、さっきも楽しく話せたし、いっか♪」


 その自分への甘さが、命取りとなった。


 厳密には命はあったのだが、最悪な人格の持ち主だったアルバス。

 パーティの2人も、彼の言いなりの仲間とは名ばかりの子分のように媚び、へつらっていた。

 戦いにも連携もへったくれもなかった。


 ダンジョンに入ってから、そのパーティの本性を知ったエルミア。


「とにかくこの『宝樹のダンジョン』で荒稼ぎするんだ。 他の冒険者共より先に階層進むぞ。 おらぁ、エルミアもとろとろ歩いてんじゃねぇ」


 もともと言葉遣いは良い方ではないと思っていたが、性格もそれと同様だった。


フロアボスでの戦いでも、私はほぼ囮。


 いつの間にか、アルバスの言葉に逆らえない自分が、出来上がっていた。

 なぜか彼の言葉に逆らえず、命令されれば「はい」の単語しか出てこない。


 心の中では、もうこのパーティを抜けたいと思っていた。

 2度や3度も一緒に冒険すれば、自分に合っているか合っていないかくらい分かる。


「パーティを抜けさせてください」


 と申し出た時があった。


 そのあとは、躾けだと言って殴られた。 モンクとして戦闘技術はあって、もしかしたら抵抗して逃げ出す事も助けを呼ぶ事もできたかもしれない。 


 だが、彼の言葉1つで、その気は『何故か』失せてしまう。


「お前は俺の仲間だ。 裏切るな。 抜けるな。 逆らうな。 絶対服従だ」


「・・・・・・はい」


 立ち上がるのも大変になるくらい躾けを受け、なお、私はその後はアルバスのいるパーティへと足を運んだ。


 そして、『宝樹のダンジョン』の攻略へ再び行き、探索が進んでいない3階層に目をつけたアルバス一行は、以前に倒したフロアボスの部屋へ真っ直ぐ行かずに、散策をし出した。

 しばらく歩き回って、宝を探し歩いたのち、泥だらけで嫌になったアルバスは「この階層は面倒くさい。次に行くぞ」と他階層への道へ戻る方針を支持した。


 その途中で、キングドロカラスと遭遇し、泥まみれのせいで、戦う集中力を切らしていたアルバスは、エルミアに。


「お前、囮になって気を引いておけ。 生き残ったら、次の階層で合流だ。 わかったな?」


「で、でも、あれは私1人じゃ無理で――」


「命令だ。 分かったかオラァァ!」


 エルミアは1人で、大怪鳥を相手に戦う事になった。


 絶対に助からない。 もういいそれでもいいかな、疲れちゃったなって思っていたら、ライゼスと出会った。


 借金だのとロクでもないものを背負っているらしいライゼスだったが、エルミアの直感はアルバスの時とは違った。

 なんとなくではなく、この人は『優しい駄目な人』なんだと。


 自分はとことん真っ当な勇者のような人とは縁が持てないようだ。

 しかし、ライゼスの優しい声音や馬鹿さ加減が、エルミアの冷めかけていた心を、元に戻してくれた。


 アルバスの所へ戻らず、ライゼスと共に街へ戻る。アルバスから逃げるように。


 今もこうして、借金を一緒に返すという口実を使って、半ば無理矢理にも依頼に同行させてもらっている。


 きっと、そのうちギルドに戻ってくる。


 怖い。


 きっと、彼を目の前にしたらまた逆らえず、お仕置きされてしまう。 

 恐怖で、サーッと身体が冷えていくのを感じる。


「1人で居ちゃ駄目だ・・・・・・」


 エルミアは、ふらりと村を歩いて行ったライゼスの後を追う事にした。

 魔法使いのカノンは、どうやら夜の作戦に向けて、準備があるとの事を口にしていた気がする。。


 彼女とは、今日が初めましてで、まだ性格を掴みきれていなかった。


 ライゼスは、おそらく酒場を探しにいって、お金は持っていないはずなので、どこか時間潰しにでもしているはず。


 短い付き合いだが、なんとなく行動パターンが分かってしまう。

 ライゼスの事を「単純な人だなぁ」と思いつつも、それを思うとさっきまで怖かった事が少しだけ消えていく。


 酒場は、開いていなかった。


 どこにいったのか・・・・・・。 獣人の人並みを超えた嗅覚で、行く先を探る。


「私のお鼻をナメてもらっちゃ困りますからね~」


 村の手間にそびえ立っていた木に向かって、エルミアは足早に向かった。






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