第22話『馬鹿なんですか』
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「この鬼! くそアマ! 俺はまじで死ぬ思いだったんだぞ! 心までへし折る奴がいるかよ。 だから、嫁の貰い手も見つからねーんだよ。 ばーかばーか!」
俺は拷問から引き上げられ、なんだかんだで治療の魔法で傷を癒やしてもらっていた。
主犯であるカノン大魔法使い様に。
傷が癒えると共に、心を取り戻した俺は怒りを爆発させていた。
ここに謀反の意あり、だ!
「あんたが悪いのよ。 こんな可愛い子にセクハラするから。 これくらいで勘弁してあげたのをありがたく思ってほしいものね」
「なぁにが、これくらいで勘弁しただよ。 エルミアちゃんが助けてくれんかったら、俺はあのまま街道に転がり捨てられて、モンスターの餌か他の馬車の下敷きになるところだったんだ!」
「そうなりそうだったら、私だって手を差し伸べてあげてたわよ」
「嘘つけ―!」
お前、今笑ってたからな? 俺が例えた状況を想像して、下卑た笑みを浮かべてたからな?
俺は見たんだ。
「遺跡の侵入なんてやってやるもんか! エルミアちゃんは、許してくれたのに。 あんな事までされて。 やってやるかあぁぁ!」
「バスターソードの改良費、予備の大剣の調達費――」
カノンが謀反を企てる俺に対抗して、ぼそりとそんな言葉を連ねた。
それはまるで呪文だった。
「――遺跡の見張りをごまかす手立てはあるんだろうな」
カノンに逆らうのは止めた方がいい。
ギルドの酒場で冒険者達の常識が脳裏に過ぎった。 本能のまま、彼女の言うことを聞く事を優先させた。
今ある借金に加えて、カノンにまで見放されたら俺はもう・・・・・・。
理屈に屁理屈、どっちも敵わないのだった。
「やっとやる気になったわね。 そうね。 一応、方法は考えてはいるわよ」
国の衛兵を騙くらかす事など、カノンには容易いといった言い方。
その間、エルミアちゃんは破れた俺の服を裁縫で修理してくれていた。
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ギルドからの依頼、『村への食料配達』を無事完了させた俺達ライゼス一行。
本当だったらこのまま街へと引き返して、ギルドに報告するのだが。
今回は、俺の事情も相まって、パーティの仲間、魔法使いカノンのお願いも達成しなければならない。
それは、突如立ち入り禁止になった『調べ尽くされた』遺跡への潜入、内情の調査というものだ。
昼夜問わず、遺跡の入り口には国が派遣した衛兵が見張りをしている。
瓦礫の崩れ、雑魚モンスターの繁殖、などで起きたような内容であれば、国が動くはずがない。 近くの村の警備の人が様子を見て、俺達のような冒険者にギルドを介してなにかしらの依頼を出す程度になるはずなのだ。
この事態を耳にしたカノンは、元々の性分なのか魔法使いとしての探究心なのか知らないが、無断で遺跡に潜入して、どうゆう事なのかを知りたい!とそうゆう事らしいのだ。
俺としては、金の匂いも微塵もしないハイリスクローリターンなこんな危険な事したくないのだが。
カノンには、壊れてしまった愛刀バスターソードの最大限の改良費用とその間に予備で使う大剣の購入をさせてしまっている。
断れば、これらの代金は全て俺が払う事になってしまうわけだ。
ただでさえ借金にまみれて、関係のない猫の美少女獣人エルミアちゃんの優しさに甘えてしまっているというのに。
これ以上、己の事情に彼女を巻き込むわけにはいかない。
だけど、今回のカノンの潜入・・・・・・盗賊まがいの計画を聞いたエルミアちゃんは思いの外、ノリノリで積極的だった。
「冒険者なら、冒険しなきゃですよ! ライゼスさん!」
と、こんな感じで慈愛で輝いていた美しい瞳には、今は冒険者としての欲を宿してギラギラと光らせていた。
カノンの計画では。
「潜入するなら夜よ! どんな盗賊も基本は夜だと思うの」
意外とお約束を大事にするようだ。
俺からすれば、夜になれば余計に衛兵達は警戒心を強めるのでは? と思ったのだが、その案は即刻否定された。
「アンタ馬鹿なの? 馬鹿なのは知っていたけれど、ここまで馬鹿だとは思わなかったわ、この馬鹿! 夜はね、正体もバレにくいし、時間によっては相手だって人間なんだから、眠気がくるでしょ。 そこを、ちょっとしたテクニックを使って利用するのよ」
仲間をここまで馬鹿扱いして、本当にコイツは作戦を成功させる気はあるのだろうか。
何もしがらみが無ければ、あえて正体をバラして「この人に脅されて仕方なくしてしまいました。 僕に非はありません。 この魔法使いの魔法に操られていたのかもしれません」と告げ口して、裏切りを実行したに違いない。




