第21話『ココロを取り戻したいです』
馬に繋がれた手綱を握るのは、敏腕魔法使いのカノン。
その隣には、猫の獣人美少女のエルミアちゃん。
ギルドから依頼された村への食料配送の途中である。
その道なりは、なだらかな街道で見渡しも良い。
でも、道は道であって、地面というのは変わらないわけで。
「ぶへっ! ががががが! ぶふぉっ! カノンざーぶふぉ!? そろそろー、乗せてもらえませんかー」
荷馬車の裏にロープで繋がれ、ぐるぐるの簀巻き状態の俺は、ご覧の通りおしおきの真っ最中だ。
馬に引っ張られる荷馬車の更に後ろで、無抵抗にも地面を引きづられている。
カノンの電撃の魔法を近距離でくらった俺は気絶。
その間に縛られたのだろう、気づけばこのありさまだった。
「アンタ、人より頑丈じゃない。 もう根をあげるのかしらー?」
後ろで助けを乞う俺に、なんとも心ない言葉をかけるカノン。
「ばっか! お前なぁ、んがっ!? 俺だって、ただの、ぶは! ただの人間だぁあ!」
あいつは魔法使いなんてもんじゃない! 魔女だ! 悪魔に心まで売った魔女に違いない!
整備された道でも、引きずられたら痛いに決まってるだろうが。
モンスターと戦ってもいないのに、こんなにズタボロになって。
カノン、お前がモンスターだよ。 いくらなんでもひどい。 すれ違う他の御者や、冒険者に可哀想な目で見られてるんだぞ。
御者のおじさんなんかには、「奴隷か? 気の毒になぁ・・・・・・、きっと悪い貴族の遊戯かなんかに使われているんだろう」って言われてたし。
冒険者には、カノンが馬車を引いている事から、察したのだろう。「あいつ、あのカノンに逆らったんだぜ? 馬鹿だな(笑) 帰ってきたらいじってやろうぜ」とか言ってやがった。
「カノンさん、そろそろ引き上げてあげてくれませんか? あれじゃあ、怪我しちゃいますよ」
エルミアちゃん、やっぱり優しい。 でもね、怪我しちゃうんじゃない。
もうその域はとうの昔に超えているんだ。
身体は擦り傷だらけだし、なんなら俺の身体を縛りあげているロープが地面で擦れてちぎれかかっている。
ちぎれたら、そのまま地面にゴロゴロゴロォォォと転がり捨てられ、無残な醜態を晒す事になるんだろうな。
・・・・・・・・・。
「助けてぇぇ!! 殺されるぅぅ!! 魔女に殺される!!!」
優しいエルミアちゃんでは、あの悪魔の魔女を説得できまい。 その前に俺のロープがちぎれる。
俺は、街道をすれ違う冒険者に、勇敢で正義感の溢れる者がいる事を願い、助けを求め泣き叫んだ。
「ライゼスがまた遊ばれてるぜ、頑張んなぁ~」
「見るんじゃない。 あれは、あーゆープレイを楽しんでる特殊性癖持ちだ。 放っておきなさい」
「尻でも触ったんだろう。 あんな別嬪がパーティじゃあ、同情する気も起きねぇ」
誰も手を差し伸べてはくれなかった。
一部には、これを俺が喜んでやっているようにも見えているようだった。
そんな変態がいたら、連れてこいよ。 お前の周辺にどんな奴がいるってんだ。 馬車に引きずられて気持ちよがる人間がいるって? ふざけんな!
俺は、もうこのまま簀巻きのまま捨てられ、生が尽きるのだ。
そう思って、またしばらく変わらぬ時間が続き、俺も抵抗せぬまま。
そんな俺を見続けて、耐えかねたエルミアがついに引っ張り上げてくれた。
「大丈夫ですか? 生きてますか?」
「・・・・・・エルビバじゃぁ~ん――」
俺はやっと優しさに触れる事が出来たので、彼女に泣きつこうとした瞬間。
「簀巻きは泣かないわ」
「はい。 俺は簀巻きです。 仰せのままに」
すでにカノンへの辛辣な一言に、抵抗する意思なし。
豊かで柔らかそうな、そして優しさで温かそうなそのお胸で、崩れてなくなってしまった『ココロ』というものを思い出させてもらおうと思ったのに。
そしたらきっと・・・・・・『ココロ』ってものを取り戻せる気がしたんだ。




