89話 傷だらけのノーラ
セモリナ亭。
俺とルーナのラビラントの住まいだ。
そしてたぶん……
日々の宴会場になるであろう場所でもある。
現に今こうして、飲み会が始まっている。
「まさかの、ノーラと……ですか」
ミラベルは杏酒を手に困惑気味に言った。
どうやらミラベルは杏酒を愛飲しているようだな。
「まさかとは、どういう意味なのニャ?!」
「どういう意味も何も、そのままだろ? あ、黒炎酒おかわり!」
ヴィオ、お前何杯目だよ。
しかし……本当に“まさか”だよな。
「死神ノーラ……か」
ノーラの通り名は“死神ノーラ”……らしい。
疫病神なのかと思ったが、数段上じゃねぇか。
マジ、詐欺だな。
「死神じゃないのニャー! そんな通り名のおかげで、心は傷だらけなのニャ」
サクヤの知り合いだと言っていたが、何の事はない、ノーラはセモリナ亭の宿泊客なのだ。
しかも部屋はルーナの隣だ。
「忠告を聞かないからなのニャ」
ノーラは“魔眼”と呼ばれる、魔物の強さが分かる能力の持ち主なのだそうだ。
その能力と、猫耳族の特性を生かし、主に斥候の役目をしていたらしいが……
「見た目が弱そうでも、強い魔物はいっぱいいるのニャ」
なんてことはない。
組んだパーティーが、ことごとく壊滅状態らしいが、話を聞くとただの自業自得らしい。
ノーラの忠告を無視して、見た目で余裕ぶっこいた挙句の自滅。
ようするに、組んだ相手が馬鹿だっただけなのだ。
しかしこいつ……
何度もパーティーが壊滅してるというのに、自分は生き残っている。
それなりの実力があるのか、逃げるのに長けてるか、それとも単に運がいいのか、だな。
「斥候と名乗るから、パーティー内で地位が低くなるんだよ」
「ふニャ?」
情報収集の大事さを知っているような、上級の冒険者なら別だが……
「世の中には、剣士が最高だと思っている馬鹿な冒険者も多いって事だよ」
ゲーム内の話だがな。
とは言っても、この世界でも攻撃系の方がパーティー内での地位も高いようだ。
パーティーのリーダーも剣士が多いらしい。
「そうだな……今日から暗殺者を名乗ればいい」
名乗るのは勝手だし。
大体にして、斥候も、盗賊も、暗殺者もダンジョン内では大した違いはない。
俺的にはな……
まあ実際の所は、ただの数合わせだからな。
斥候でも、盗賊でも、暗殺者でも、村人Aでも構わんのだがな。
「急にかっこよくなったのニャ!」
「だろ!」
暗殺者“死神ノーラ”……なかなかいいな。
斥候が死神と呼ばれるのと、暗殺者が死神と呼ばれるのじゃ大きな違いだ。
「あとでそれっぽい武器でも買ってやろうか?」
「ほんとなのニャ? さすがクロムなのニャ!」
まあ、ほとんど俺の趣味だ。
なんだかんだ言って暗殺者って響きはいいからな。
その暗殺者の武器だなんて、中二病心をくすぐるだろ?
死神だから大鎌か?
いや、それじゃあ暗殺者じゃないな。
投げナイフか?
チャクラムなんてあるのか?
やはり暗殺者と言ったらアサシンブレードか……
「ずいぶん気前がいいな? オレにも何かくれよ」
俺の妄想の邪魔をするなよ!
お前は黒炎酒があればいいんだろ?
黙って飲んでろよ、ヴィオ。
「ところで、明日からどうするつもり?」
ミラベルが今後の予定を聞いてきた。
「まずダンジョンに入る準備だな」
ダンジョンに入るならそれなりの準備も必要だろう。
でかいダンジョンなら尚更だろうしな。
それにノーラの武器も買わないと……
「その後は、どこか簡単そうなダンジョンに入ってみるとするか」
サクヤとリュートの実力も知りたいからな。
ついでにノーラの実力も、だな。
「それでいいか? サクヤ、ノーラ」
「それで構いません」
「いいのニャ」
ルーナには聞いても仕方ないな。
そもそも話も聞いてないはずだ。
「マカロニグラタンも、カルボラーナも美味しいのです〜♪」
……ほらな。
パーティーのメンバーはそろった。
「とにかく、後はダンジョンへ挑戦するだけだ。よろしく頼むぞ、サクヤ、ノーラ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「よろしくなのニャ♪」
「んじゃ、パーティー結成を記念して、今夜はパーティーだな!」
ヴィオ……
お前はさっきからずっと、一人パーティー中だろ!
オヤジギャグはいいから、さっさと飲んで、さっさとズッカへ帰れよな。
そもそも、せっかくラビラントまで来たのに、なんでヴィオと飲まなきゃないんだ?
そんな俺の心の愚痴など関係なく……
ラビラント初日の夜は、夜遅くまでヴィオに付き合わされるのだった……
タイトルは、西城秀樹「傷だらけのローラ」より拝借




