88話 CAT'S EAR
屋台で何やら美味そうに食っている者。
真新しい剣を手に、武器屋から出てくる者。
怪しげな魔道具屋を覗く者。
大通りは先程と変わらぬ賑わいを見せている。
「さてと……サクヤ、どこに行こうか」
別に行く当てがある訳ではない。
ただの時間つぶしのようなのもだ。
「この先にギルドの案内所があります。とりあえず、そこで地図を貰いましょう」
「地図だと?」
「ええ。ダンジョンの位置が載った、無料でもらえる街の地図です」
無料だと?
なんだ、この某夢の国レベルのサービスは……
というより、ダンジョンがまるでアトラクションのようだな。
「おすすめの飲食店なんかが載ってるガイドブックもありますよ」
だからどこのパークだよ!
「それは有料ですけどね」
さすがにそこまでサービスは良くないか。
まあ某夢の国も、ガイドブックまでは無料で配布しないしな。
「クロム……あれ!!」
俺を抱いているルーナの足が止まった。
「何だ、ルーナ?」
「どうしました? ルーナさん」
案内所へ向かおうとしていたサクヤも足を止め振り返る。
「あれ……美味しそうなのです」
……ああ、そう。
ルーナが美味そうだと言ったのは、ドネルサンドだった。
あれだ、あれ。
ぶらさがったロースト肉を、削ぎ落としてパンに挟んだあれだ。
日本でもよく見かけたが、確かに美味しそうに見えるからな。
って……
さっき満腹まで食ったはずだが、もう入るのか?
どうなってんだよ、全く。
ルーナの胃は、異空間にでも繋がってるのか?
やはりルーナの父親の借金の原因は、食費じゃね?
そうだとすると、ルーナが借金のかたに娼婦になりかけたのも、自業自得だよな。
まあ、おかげで食うに困らぬ優秀な冒険者になった訳だが……
優秀なのは俺だけど。
「サクヤ、済まん。少し待ってくれ」
「えっ? 買うんですか?」
わかる、わかるぞ、サクヤ。
お前が言いたのは“買うんですか?”じゃなくて“食べるんですか?”だよな。
だがな、サクヤ……
これがルーナなのだよ。
俺を抱いたまま、ルーナはドネルゲバブが下がった屋台へと向かった。
屋台には2種類のドネルサンドがある。
「パンとピタのやつを一つずつなのです」
まあ、そうなるわな。
ホクホク顔のルーナ。
両手にはドネルサンドとドネルピタ。
もちろんサクヤの分ではない。
「二つ食べるんですか?」
「サクヤも食べたかったのですか? もう一個買うですか?」
「いえ……僕はお腹いっぱいなので……」
わかる、わかるぞ、サクヤ。
だがな、これがルーナなのだよ……
ドネルサンドを笑顔で頬張るルーナとともに、案内所へと向かう。
「あれが案内所です」
「あれか……思ったより小さいな」
案内所は俺の想像より小さく、街角の宝くじ売り場のような大きさだ。
「場所によって大きさは様々です。もう少し先に大きい案内所もありますから、そっちに行きますか?」
「いや、ここでいい」
別に大きさなんて関係ない。
それに、ただの暇つぶしだからな。
「あのー、すいません」
サクヤが案内所の中へと声を掛けた。
「ニャンですかー?」
猫耳キター!!!
案内所から出てきたのは猫耳の娘だ。
この世界に来て、初の獣人が猫耳とは……
猫好きの俺にはたまらんな。
いや……今や俺が猫だったな。
「あれ? ノーラさんじゃないですか。何で案内嬢なんかしてるんです?」
むむっ?
どうやらサクヤの知り合いのようだが、本来は案内嬢じゃないのか?
「またパーティーが壊滅したのニャー」
「えっ? またですか……もう今年だけで3回目ですよね」
「よ、4回目なのニャ」
会話を聞く限り、このノーラとかいう猫耳娘は冒険者のようが……
「もう誰もパーティーに入れてくれないのニャ」
想像するに、ノーラが参加したパーティーの壊滅率が高すぎて、他の冒険者たちに敬遠されてるようだな。
で、案内嬢のバイト中ってことか。
「みんなで疫病神扱いなのニャ」
だろうな。
「それは……大変ですね」
「そうなのニャ、仕方ないからバイトしてるのニャ。……ところで、サクヤは何のようなのニャ?」
「そうそう、この娘がラビラントに来たばかりなので、街の地図とマニュアルが欲しいんです」
マニュアルだと?
地図はともかくマニュアルもあるのか?
何が書いてあるんだ?
「マニュアルとは何だ?」
「フニャ? 猫が喋った!」
いや、お前も喋ってるじゃないか。
「この娘……ルーナさんの召喚魔ですよ」
「クロムだ、よろしくな」
「よろしくニャ! 話す召喚魔は知ってるけど、話す猫型の召喚魔ははじめてなのニャ!」
ほう……
猫型で話せるってのは、ここでも充分珍しいようだな。
「それで、マニュアルとは何なのだ?」
「ダンジョンに入るための注意事項なんかが書かれたものだニャ」
なるほど。
管理されたダンジョンだけあってルールがあるのだな。
「これがそうなのニャ」
ノーラから手渡されたのは二枚の紙だ。
一枚はラビラント市街の簡易地図で、ダンジョンがある位置が記されている。
そして、もう一枚がマニュアルなのだろう。
何やらいろいろ書いてある。
……ん?
注意事項の一つに気になる文言があるな。
『ダンジョン内での活動は三名以上のパーティーに限る』
これを読む限り、単独でダンジョンに入ることは許されないようだ。
これではノーラもダンジョンに入ることが出来んな。
「ダンジョンはパーティでの活動に限定されてるのか……」
「そうなのニャ。三人以上じゃないと駄目なのニャ!」
「安全面での理由らしいですよ」
安全面ね。
たしかにパーティーを組めば、生存率は格段に上がるから分からなくはないな。
しかし、参ったな。
今の今まで、ダンジョンに入るのにパーティーを組む気はなかったが、これでは組まざるを得ないな。
しかも三人とはな。
とりあえずサクヤを誘ってみるか。
「なあ、サクヤ。ルーナと組む気はないか?」
「構いませんよ。というか、ミラベルさんからも頼まれてますし」
なるほどな。
最初からパーティー要員だったという事か。
しかし三人ならもう一人必要だ。
ミラベルは引退した身だろうし、ヴィオは……
ただ飲みに来ただけだな。
「もしかして……メンバーが足りないのかニャ?」
うーむ……
どうしたものか。
「何ならパーティーに参加してもいいのニャ!」
ギルドに行ってみるべきか?
「仲間に入れてくれなのニャ! お願いなのニャー」
……まあいいか、こいつでも。
タイトルは、杏里「CAT'S EYE」より拝借




