82話 NIPPON人
ラビラント……の郊外。
郊外と言っても、様々な店や屋台、そして宿屋が数多く立ち並んでいる。
そしてその宿屋の多くが厩を用意している。
どうやら馬が中心部に入れない事で、郊外で寝泊まりする者も多いようだ。
それに伴い飲食店も多く見受けられる。
その中の一件の、オープンカフェのような佇まいの店から、一人の青年がこちらに向かってやってきた。
「あの……もしかしてルーナさんとクロムさん、ですか?」
青年は、そのまま俺たちに声を掛けてきた。
黒いバンダナを頭に巻き、黒い服に黒い革の防具、そして黒いマントを身に着けている。
全身黒の出で立ちは、まるで某飲料水のCMの桃太郎のようだ。
「そうなのです。でも……誰ですか?」
初めての土地で、見知らぬ青年に名前を呼ばれて不審に思わない訳がない。
いくらルーナでも……だ。
「す、すいません……僕はサクヤ。サクヤ・クロスと言います」
「サクヤ……さん??」
「あ、ええっと……魔道書屋のミラベルさんに頼まれて待ってたんです」
「ミラベル……???」
「えっ? あれ? 名前も一緒だし、銀髪の少女と黒猫って言ってたし……猫デカいけど」
たぶんアレだな。
ヴィオの友人の魔道書屋の事だろう。
名前なんて知らんが……
「あ! 思い出した。すいません、ヴィオの友人の魔道書屋と言えば分かると言ってたんでした」
ほらな。
まあ、それ以外に迎えに来るやつなどいないからな。
「ヴィオなら知ってるのです♪」
「そうですか!! ……良かった。間違ってなくて」
何か頼りない奴だな。
イケメンだが……
しかし何だな。
何か日本人のように見えるが……気のせいか?
イケメンはイケメンだが、顔はどう見てもこの国の顔立ちとは言い難い。
はっきり日本人と言っていい顔だ。
それに全身の黒装束は、この世界の物でサムライ風に仕立てたようにも見える。
名前もそうだ。
クロスはともかく、サクヤなんて日本人の名前だろ?
いやそれよりも、腰に帯びた剣……
それは剣というよりは刀だ。
いや、はっきり言おう。
日本刀。
それ以外の何物でもない。
「クロム……? どうしたですか?」
「ん? ああ、何でもないぞ」
さすがに日本人かどうかなんて聞けんよな。
「……ああ、そういえばクロムさんは話せるんでしたね」
「そうだ。よく知ってるな」
ヴィオから情報が全部筒抜けか?
別に隠してもいないけど。
「じゃあ僕の召喚魔とも仲良くしてもらえますかね?」
サクヤと名乗る青年は、そう言って腰の日本刀のような剣に手をやった。
「何だ? お前の召喚魔も話せるのか? まさかその剣が――」
「あ! いえ、これは収納具です」
……だよな。
いくらなんでも、この世界で、日本刀の姿の召喚魔なんていないだろう。
「他の人は、これが召喚魔だと思ってるみたいですけどね! まあ、否定はしてませんから……」
否定しないのかよ!
それにしても……
「その収納具だが、変わった形をしているが――」
「これはですね、生まれ故郷の剣を模して作ってもらったんです。僕は異国の民なので」
異国だと?
もしかしてその異国とは、島国だったりするんじゃないのか?
そして……
別の世界だったりするんじゃ……ない、よ、な???
やはり聞くしかないか。
よく考えたら、違っても日本何て言葉は分からんだろうから、問題なかろう。
「おい、お前……サクヤとか言ったな」
「え、あ、はい。サクヤ・クロスです」
「サクヤ、お前……日本人か?」
「えっ!?」
……違ったか?
純粋に、この世界にも日本刀のような剣を使う国があるのか?
そしてそこの人種は、日本人のような顔立ちなのか?
転生、いや転移者と言う可能性を考えたが……
そうそう俺のような奴など存在する訳がないか。
「ク、クロムさんって……もしかして……転生者?」
キタ━━━(゜∀゜).━━━!!!
来ました、転生者発言!
これは、やはり……
「転生者ですよね? そうですよね?」
「ああ、そうだ。お前は――」
「僕は転移者なんです! それにもう一人、転生者もいます。二人とも日本人です」
もう一人……だと?
もしかして、結構な人数の転生者や転移者がいるのか?
まさかのネット小説ばりの状況か?
事実は小説より奇なり、なのか?
「俺も……日本人だぞ」
「全員日本人ですね」
「そうだな」
「なんで日本人ばかりなんでしょうね」
「分からんな」
「……ですよね」
三人とも日本人ってのは何か理由があるのだろうが、それは俺たちに知る由もない。
それよりも……
「もう一人の転生者ってのは、どこにいるんだ?」
「ここにいますよ」
ここに? だと?
ここにいるのはどう見ても、俺とルーナ、そしてサクヤだけだ。
「まさか……」
「その“まさか”です」
サクヤはそう言うと、腰に帯びた刀を指差した。
タイトルは、椎名林檎「NIPPON」より拝借




