76話 ズッカここから
「ただいま♪ なのです!」
ルーナが勢いよく大鍋亭のドアを開ける。
真っ昼間なので、誰かいてもせいぜいがおかみさんとレネットくらいのはず。
だったのだが……
「おおっ! ルーナじゃねぇか!」
「戻って来たのね」
「……おかえり」
なぜザンバたちがいるのだ?
仕事をしろ、仕事を!
「戻って来たという事は、冒険者は?」
「続けるのです! でも……」
ザンバの問いにルーナが答える。
しかし、その続きは俺が答えよう。
「ズッカは離れることにした」
冒険者を続けることは決定した。
しかし、その後も二日ほどコロロに滞在したが、はっきり言って暇だった。
平和すぎる。
あれから魔物の気配すらない。
よくあのタイミングで魔物が出たものだな。
話に困った底辺ネット小説家でもあるまいし、普通ならあんなに都合よく魔物なんて出てこんぞ。
人気小説なら感想欄がバッシングの嵐になるな。
だが、底辺小説は感想すら付かんから問題ないだろう。
ん?
どこからか咽び泣く声が聞こえるような……
気のせいだな。
しかし暇だったおかげで、今後の話をルーナと出来たのは良かったな。
ルーナが楽しいと言っていたのは、色々な場所に行ったり、人と知り合ったり出来た事だ。
今後冒険者を続ける理由もそこにあると言っていいだろう。
しかし、ズッカに居続けていても、その楽しみは半減するだろう。
コロロから行ったからこそに、ズッカは新鮮だっただろうが、所詮は田舎の小さな街。
住めば都かもしれんが、冒険者として定住するような所ではない。
というより、冒険者って定住するイメージじゃないんだよな。
なので、色々な街を渡り歩く方が冒険者としては当たり前のような気がする。
俺にとっては、だがな。
ゲームのやり過ぎか?
だが、その案にルーナは賛成した。
ズッカで出会った奴らと離れたくないのかとも思ったが、色々な街に行ってみたいという思いの方が強かったようだ。
結局、冒険者は続けるが、ズッカから離れ違う街に行くということで俺とルーナの意見は一致した。
「……という訳でな。どこか違う都市に行ってみることにしたのだ」
「どういう訳だよ!!」
何だ、ザンバ?
俺の説明を聞いてなかったのか?
いや回想しただけだったな。
面倒だし、もう説明はいいだろう。
「冒険者だからだ」
「なんだそりゃ? 意味わからんぞ?」
ザンバに分からなくても説明する義理はない。
無視しよう。
「いろいろな所に行ってこそ冒険者、って事じゃない?」
「だな……」
さすがグラシアとドーリは物分りが早いな。
パーティーのリーダー様も見習って欲しいものだ。
ドーリはリーダーを見習って、もう少し喋ってもいいとは思うが……
「まあ、どうせ俺たちもズッカを離れるから同じことだけどな」
ん? なんだ?
ザンバたちもどこかへ行くのか?
「私たちも旅に出て、もっと修行しようってことになったんですよ」
「お前たちを見ていたら……な」
ふふん。
俺の凄さに触発されて、レベル上げの旅に出る気だな。
「それで今、色々と準備をしているところなんです。おかげさまで軍資金もありますしね!」
「だな……」
「どうだ? クロムとルーナも俺たちと一緒に――」
「ザンバ!! それじゃ意味ないでしょ!」
「だな……」
「このまま一緒にいても仕方ないって言いだしたのは、そもそもザンバ、あなたでしょ?」
「いや……そうだったっけ?」
なんだか夫婦みたいだな。
かかあ天下の……
そういえばコロロでも見たな、こんな感じの夫婦。
まあ、ルーナの両親の事だが。
どうでもいいが、ドーリは“だな”しか言ってないよな。
いいのか、それで?
「それはそうと……」
どうしたザンバ?
グラシアに負けそうで話をそらす気か?
「エフィルとラエルも、イルミンスールに行くらしいぞ」
イルミンスールか……
魔道士ギルドの総本部は、王都ではなくイルミンスールにある。
そのため数々の魔道士養成施設や魔道士の鍛錬施設も多い。
魔道都市と言われる所以も、そこにある。
この国で魔道を学ぶ者にとっては、最高の場所であろう。
「元々、イルミンスールに行くためにズッカに来たようなものだしなぁ」
「どういうことだ?」
「ああ、一つは街に慣れるためだな。もう一つは魔道士ギルドの紹介状、だな」
なるほどな。
エルフの里で育ったので、街になれるために、あまり大きくないこのズッカを選んだのだな。
そしてもう一つは紹介状か。
エルフの里でどんなに凄くても、そのままイルミンスールに行ったからといって、どこかにすんなり入れるものでもないのだろう。
小さな町の魔道士ギルドの紹介状でも、無いよりは相当マシなのだろうな。
しかし、俺とルーナ、ザンバたち、そしてエフィルとラエル……
皆がそれぞれの場所へとズッカから旅立つのか。
「まさか、レネットやヴィオまでどこかに行くなんてことはないだろうな?」
「あたいはどこにもいかねぇよ! ヴィオもな!」
俺の言葉にレネットが反応した。
そうだよな。
幾らなんでも二人までいなくなったら、ズッカは俺とルーナの知るズッカではなくなってしまうぞ。
「オレがなんだって?」
声の先を見ると、扉の前にヴィオが立っている。
地獄耳だな。
これからヴィオの事を話すときは気を付けよう。
タイトルは、川上ジュリア「ずっとここから」より拝借




