75話 ハナシ、ご都合主義
「ルーナ、お前……冒険者になってから危険を感じた事あるのか?」
「えーっと…………あれ? ない……なのですね」
だろうな。
「では何故、冒険者が危険だと言い切ってるのだ?」
「えっ? えーっと……何でなのです?」
いや、聞いてるのは俺なんだが。
「で、でも、みんな言ってるのです」
「確かに冒険者は危険だが、ルーナは危険な目に遭ってないだろ」
「い、いや、でも……そうだ! これから危険な目に遭うかもしれないのです」
「ルーナは冒険者を辞めたいのか?」
その言い方だと、冒険者を辞める理由を見つけてるようだぞ。
「そんなことはないのです! 冒険者は楽しいのです!!」
よくわからんな。
「結局、冒険者を続けたいのか、辞めたいのか、どっちなんだ?」
「続けたいけど……お父さんやお母さんが心配するかも、なのです」
心配する“かも”だと?
「聞いてはいないのか?」
「まだ……なのです」
両親に反対されるかもしれないから怖くて聞けん、ということか。
なんだ。
完全に反対されている訳ではないのか……
まあ、どこの世の親も同じだろう。
危険な稼業に付きたい子供を簡単に許すはずもないか。
こんな時にご都合主義の漫画なんかだと、村に魔物が襲ってきて、それを倒して認めてもらうなんていう事になるんだが……
「おーい! 村外れに森林狼が出たぞー!!」
遠くで村人が叫んでいるのが聞こえる。
そうそう、こんな風に村に魔物が出てだな。
「大変だ!! 村の中に入って来たぞ! 男どもは集まれ! 女子供は家の中へ隠れろ!!」
そんなご都合主義が現実にある訳……
あるのか。
現実も捨てたもんじゃないな。
では……
女子供ではあるが、ルーナには戦いに参加してもらうとするか!
「ルーナ、行くぞ! 乗れ!!」
すぐに大きくなり、ルーナに背中に乗るように指示する。
「えっ? ど、どこに?」
「聞いてなかったのか? 魔物が出たそうだ、倒しに行くぞ!」
「は、はい! なのです」
どうやら森林狼は山の方から現れたようだ。
俺はルーナを乗せ、男たちが走って行く、村の山側へと駆けだす。
少し進むと、十数人の男たちがククリや農具を手に、森林狼と対峙しているのが見えてきた。
若長をはじめ、ルーナの父親や赤髪のムック、それにイヴァンもいる。
森林狼は三匹ほどいるようだ。
「おい、ルーナ。近づいたら適当に魔法の技を唱えろ」
「え? は、はい! なのです」
俺はルーナの返事と聞くと、速度を上げ、男たちの上を飛び越えて、森林狼の前へと出た。
「ルーナ、いまだ!」
「えいっ! フロ・デ・ポロント!!」
……たぶん言いたいのは“風の刃”だな。
ご希望にそってやろうじゃないか。
俺は無詠唱で風の刃を三つ出し、森林狼へ向かって高速で飛ばした。
今度からは“風呂でポロンと”は止めてくれないかね?
グラシアの美乳を思い出してしまう……
いま目の前にあるのは、グラシアの生乳ではなく、真っ二つに切断された三匹の森林狼だがな。
「おおっ!」
「マジかよ?!」
「凄ぇ……一瞬だぞ」
村の男どもの言葉に、ルーナもまんざらではなさそうだ。
ルーナの父親も驚きとともに、少し自慢げな顔をしている。
倒したのはお前ではなくルーナ……
いや、実際には俺なのだがな。
「さすが、村に戻ってきた唯一の冒険者だな」
若長がルーナに向かってそう言った。
褒めてはいるようだが、意味深な発言だな。
「おい、今のはどういう意味だ?」
「ん? ああ……今まで冒険者になると言って村を出たものは、誰も帰って来たことなどないのだ」
それは……
冒険者として成功しても村に戻ってこない、という意味では……もちろんないな。
全員生きて帰った者はいない、という事か。
なるほど。
それならルーナが言い出せないはずだな。
しかし、これ程の実力を見せたのだ。
どうにかなりそうな気もするが……
こればかりはルーナが言うしかあるまい。
「お父さん、お母さん。お話があるのです」
魔物退治の後片付けも終わり、家で昼食を取った後、ルーナが急に切り出した。
「なにかしら?」「なんだ?」
「あの、わたし…………冒険者を続けたいのです!」
よく言った。
えらいぞルーナ!
あとは野となれ山となれ、だな。
「いいんじゃない? あなたの人生なんだから好きにしなさい」
えっ? あれ?? なんだ、簡単だったな。
母親はすんなりOKを出した。
あとは父親だが……
「えっ? あ、いや母さんがいいと言うなら……俺は別に……」
まあ、そうなるか。
空気っぷり全開の父親だから、母親が決めたら覆すことはないと思ったが、その通りだったな。
「いいの♪ 本当に?」
「自分の人生は自分で決めればいいのよ!」
「まあ、クロム君も強いようだし……」
「やったー! クロム、冒険者続けるのですよ!!」
ああ、よかったな!
これで俺も、まだまだ活躍の場がありそうだ。
「お姉ちゃんが冒険者でいいなら、じゃあワタシも魔道士になってもいいのかな?」
「へ? ま、魔道士? そ、それは、ちょっと――」
「いいんじゃない? あなたの人生なんだから! ねえ、あなた!!」
「え? ああ……そ、そうだな」
「やったー♪ アウロラもクロムみたいな高位召喚魔と契約するぞー」
喜ぶルーナとアウロラ。
微笑む母親。
そして……落ち込む父親。
この親父……なんだか可哀想だな…………
タイトルは、和楽器バンド「ワタシ・至上主義」より拝借




