72話 黒毛野牛上塩まる焼680レオネ
ルーナの家に来た。
この村の家は皆、丸太小……いや、ログハウスのような造りだ。
分かりやすく言うとアルプスの少女的な感じだ。
少し行くと森があるから、木は簡単に手に入る。
煉瓦造りよりははるかに効率的だろう。
もちろんルーナの家も例に漏れず、同じような造りをしている。
「ここがわたしとアウロラの部屋なのです」
はしごの様な急な階段を上がると、そこがルーナとアウロラの部屋だ。
まあ、言うなれば大きな屋根裏部屋だな。
部屋にはデカい乾草のベッドが一つ。
ここでルーナは、アウロラとずっと一緒に寝ていたのだな。
そのせいで、俺は毎日ルーナと寝る羽目になっているという訳だ。
「ルーナ! おやつを準備したわ、降りてらっしゃい」
ルーナの母が下から声を掛けてきた。
「クロム、おやつだって♪ 下に行こう」
そうだな。
いくら契約者とはいえ、女の子の部屋をあまりじろじろ見るのも何だしな。
一階に降りると、テーブルの上に焼いたばかりのクッキーが皿に乗っていた。
山盛りに。
「さあルーナ、たくさんおあがり」
どうやらルーナの大食いの元凶は、母親にあるような気もするぞ。
という事は……
「「いただきまーす♪」」
ルーナとアウロラは、そろってクッキーを食べ始めた。
えーっと……
大食い正統派美少女かな?
ルーナはもちろんだが、その大食らいのルーナに負けぬ勢いで、アウロラもクッキーをほおばっている。
どんなに美少女でも、やはり姉妹だな。
「えーっと、クロムちゃんだったわね? クッキーは食べれるかしら?」
「御馳走になろう」
クッキーは頂くが、ちゃん付けはやめて欲しいな。
あとでルーナから伝えてもらうとしよう。
「ところで……だ」
皿のクッキーが半分になったころ、ルーナの父親が真面目な顔で切り出した。
そういえば、ずっとここにいたようだ。
「借金をすべて返済したと言っていたが……本当なのかい?」
ルーナに言っているようだが、食っている時に言っても聞いてないぞ。
父親なんだから知ってるだろ?
ちなみにクッキーは美味いぞ。
「本当だ。二度とここにジャコモが来ることはない」
仕方がないので俺が代わりに答える。
「しかし、この短期間で6万レオネもの大金を返すなんて……」
そんなことを言われても、返したものは返したのだ。
「一体どうやって……」
何て事はない。
スライムと蟻と猿を倒しただけだな。
簡単だったぞ。
「それに、高位召喚を成功させるとは……」
だから、成功したから娼婦になってないんだろ?
「それも喋る子猫とは……聞いたこともないぞ」
聞いたことはなくても、目の前にいるしな。
しかしさっきから完全に独り言だぞ。
俺は全く答えてないし、ルーナはガン無視でクッキー食べてるし……
しかしこのクッキーは美味いな。
ルーナの母親はお菓子作りが得意なのかな?
その母親も旦那の話をスルーしている様だが、そういう家庭なのか?
というより、旦那自体がスルーされてるな。
ルーナの父親はステルス機能でも付いてるのか?
いや待て。
たまにルーナの存在が希薄になるのは、父親譲りなのか?
「しかし、冒険者とはなぁ……」
何なんだ?
娼婦になるか、高位召喚を成功させて冒険者になるか、の二択だったんだから仕方ないだろ。
まさか、娼婦の方が良かったとか言う気じゃないだろうな。
「えーっと……クロム君、だったね? ルーナはこのまま冒険者を続けるつもりなのかな?」
「さあな。どうするか悩んでるようだが?」
「……そう、か」
ふむ。
どうも冒険者を続けて欲しくないような言いぶりだな。
「おーい、だんだんと肉が焼けてきたぞ!」
イヴァンがノックもせずに家の中に入って来た。
失礼な奴だ。
まあ、田舎にはありがちなのかもしれんがな。
「クロム行きますですよ! 黒毛野牛の丸焼きなのです!!」
どうやら俺たちがルーナの家で休んでいる間に、村の者で黒毛野牛の丸焼きの準備をしていたようだ。
村の中心部に行くと広場があり、集会所のような建物も建っていた。
もちろんその建物も、丸太造りだ。
広場の真ん中では、黒毛野牛が炭火によって丸々一頭焼かれていた。
焼けた肉のいい匂いが辺りの漂っている。
「うふ♪ うふふふふっ」
ル、ルーナさん、大丈夫ですか?
怖いんですけど……
「美味しそうなのです♪」
そ、そうだね。美味そうだね。
「おお、ルーナ!」
「あ! 若長……と、長老」
ルーナに声を掛けてきた男が若長、そしてその後ろにいるのが長老だな。
若長とは単なる村での呼び名だろう。
男は、若長と呼ばれるにはそこまで若くは見えない。
いわゆる村の青年団長的なものだろう。
日本でも青年団員という名の40代がごろごろいるからな。
「まさか、ルーナが黒毛野牛を土産に帰って来るとはな」
「ふぉふぉっ、ルーナよ、良い土産じゃ。ありがとうよ」
長老は、まさしく長老という風貌で、杖まで持っている。
どこから見ても長老だ。
「皆の者! 今日の黒毛野牛はルーナの土産じゃ。感謝して頂くがよいぞ!」
長老の言葉を皮切りに、村を上げての黒毛野牛の丸焼きパーティーは開始された。
「はい、クロムもどうぞ」
そう言って、アウロラは焼かれた肉の乗った皿を俺の前に置いた。
ルーナ?
ルーナはもちろん、最前線で肉を頬張っていて戻ってこんな。
さすがに今日ばかりは、村人たちに声を掛けられたら答えてはいるようだ。
肉を食いながらだが……
「食べないの?」
ん?
いや食べるぞ、かなり美味そうだしな。
おっ! マジで美味いぞ!
塩味だけだが、それが肉の旨味を引き立てている。
先日ズッカで食った肉より美味いかもしれん。
「美味しい?」
「ああ、美味いな! アウロラは食べないのか?」
「食べてるよ。まだまだいっぱいあるしね♪」
さすがにルーナよりは節度があるようだ。
ルーナより美人だからかな?
「ねえ? 何でお姉ちゃんの召喚魔になったの?」
何でって言われても……
答え難い質問だな。
まさかドジっ娘だからとは言い難いしな。
今やドジっ娘より、大食いと寝言の方がメインだがな……
タイトルは、大塚 愛「黒毛和牛上塩タン焼680円」より拝借




