67話 人化幻戯
ヴィオの店に着くと、今日は珍しく早々と店が開いていた。
一応、レネットから鍵を借りたが、今回は必要なかったようだ。
「おう、クロムにルーナ! 珍しく早いな」
それはこっちの台詞だ。
「お前こそ、今日は早起きだな!」
「ああ、ちょいと仕事を頼まれてな」
仕事……ね。
その割には仕事をしている様子もないんだが。
「で、その仕事はもう終わったのか?」
「いや……今、トリヴィアがやってる」
トリヴィアが?
そう言われると、いつも店にいるヴィオの召喚魔、黒フクロウのトリヴィアがいない。
トリヴィアがする仕事って何なんだ?
例の“脳内図書”の能力を使って何かするのか?
あれは便利な能力だが、あの能力を使う仕事ってのも、斥候以外は思い浮かばんな。
「トリヴィアが仕事って、どこかに行ってるのか?」
「いや、店の奥にいるぜ」
店の奥?
ますます分からんな。
「店の奥で何をやってるんだ?」
「うーん……何って…………本をな、書いてるんだ」
本?
書い……てる?
「本を、書いてる……だと? トリヴィアが?」
トリヴィアはフクロウだぞ。
羽でペンを掴んでるのか?
羽ペン……って、やかましいわ!
「あ、うん。実はな……トリヴィアは…………人化……出来るんだ」
えーっと……
人化? 出来る???
……
…………
………………
「おい! クロム、聞いてるのか?」
「……ん? ああ、聞いてるぞ。済まん、ちょっと遠くに行きかけてた」
そうか。
トリヴィアって人化出来るんだ。
凄いな……
「あ! いや、でもな……奥の書斎でだけだぜ」
なるほどな。
人語を話せるように、店に結界を施してるのと同じ事か。
書斎には、人化のための結界を張っているという訳だな。
ということは、もしかして……
「俺も書斎に入ったら人化出来る……のかな?」
「いや、さすがに無理だ。完全なトリヴィア仕様だからな」
だよな。
「しかし、何で本なんて書いてんだ? しかも仕事って……」
小説家じゃないよな。
まさかネット小説とか投稿してんじゃないだろうな。
何とか大賞とか……
ネット無いけど。
「いやぁ……ほら、トリヴィアの脳内図書の能力は中身を見なくても本の内容を記憶できるって言ったよな」
言ったな。
本を見ただけで中身を記憶できるっていうのは、便利な能力だよな。
「前に、魔道士ギルド本部の図書館に行ったことがあってだな……」
ほう。
つまりは……
「魔道書の複製をだな……」
違法コピーだな。
いや、著作権なんてこの世界には無いだろうから、違法じゃないのか。
前世なら『ダメ! 絶対ダメ!!』だろうがな。
しかし、ヴィオの歯切れの悪さからすると、多少の気まずさはあるのだろう。
「だがそれって、トリヴィアを無理やり人化させる必要があるのか? お前が書き写せば済むことだろう」
「それがな……オレは、字がなぁ…………」
「汚い……と」
「まあ、そういうことだ!」
自分の字が汚いから、召喚魔を人化させて本を書き写させる奴なんて、他にいるのか?
しかも魔法で結界まで作って、半強制的にだぞ。
鬼畜かな?
「で、人化したトリヴィアは、どんな感じなのだ?」
「それがな……見たことないんだ」
「えっ?」
「人化した姿を見たら、二度と本は書かないと言われているんだよ」
それ、なんて鶴の恩返し?
いや、違うな。
人の姿を見ちゃいけないんだから、逆バージョンだな。
「正直、書斎の中で何をしてるのかもよくわからん」
「何を、って……本を書いてるんだろ?」
「本は書いてるんだろうけどな。何故かいろいろ持ち込むんだよ……服とか」
「服なら不思議じゃないだろ。裸でいる訳にもいかんだろうし」
「いや、イメージすれば、服を着た状態で人の姿になるんだぜ」
そうなのか、便利っちゃ便利だな。
問題はイメージが上手く出来るかどうかだ。
俺ならジーパンにTシャツしかイメージ出来そうに無いぞ。
「それに毎回大量に持ち込むんだぜ。アクセサリーとか靴なんかもな」
「お前がよくそんなもの持ってるな。その黒いワンピースしか無いのかと思ってたぞ」
「さすがに少しはあるっての! だがな……そんなもんじゃ足りないから、トリヴィア用に買ってるんだよ」
あるんだな、一応は。
「おかげで、もはや持ちこむというより、書斎がトリヴィアの衣裳部屋になっちまった」
それって……
本を書く合間に、服を着替えて楽しんでるんじゃないのか?
何故だろう。
ゴスロリ姿の黒ギャルを連想してしまった。
決してAVのワンシーンを思い出したのではないぞ。
決して……な。
「で……何しに来たんだ?」
おっと、AV……いや黒ギャルを思い起こしに来たわけじゃないな。
金を渡しに来たんだった……
タイトルは、化人幻戯/江戸川 乱歩 より拝借




