66話 カラコーゾフ、行方しれず
降り注ぐ太陽の光。
抜けるような青い空。
流れる白い雲。
窓の外は、本日も晴天なり。
なのだが……
淀んだ空気。
抜けていない酒の臭い。
流れる寝息の音。
部屋の中は、本日も残念美少女が寝坊中なり……
別に、起こさなくてもいいんだが、朝飯を食い損ねたら機嫌が悪くなりそうだ。
恒例行事だ、仕方ない。
起こすとしようか……
「おい、ルーナ! 起きろ!!」
「ムニャムニャ……それっ!“ニクガ・アルデス”!!」
ここに肉なんかねぇよ!
肉は昨日食っただろ、それも上等のやつを。
どうやらヴィオの魔法“木よ避けろ!”の事のようだが……
何でこんなに毎回上手い寝言が言えるんだ?
わざとやってるとしか思えんな。
「あっ、クロム! おはよう」
「うむ、おはよう」
だが、わざとやってるようにも見えんしな。
天然のなせる業か?
「今日はどうするのですか?」
「とりあえず朝飯だな。その後はみんなに金を分配しなきゃならんな」
身繕いを整えながら聞いてきたルーナに、毛繕いをしながら答えてみた。
「ザンバたちはどこにいるのか知らんが、ヴィオは店にいるだろ。飯を食ったらヴィオんトコにでも行くか」
「はい! なのです」
食堂に行くと、ザンバたちがお茶を飲みながら話をしていた。
「おはよう! なのです」
「ルーナ、おはよう。朝から元気だな」
「ルーナもクロムも、おはようございます」
「おはよう」
「お前たち、何を話してたんだ?」
「カラゾーコフ兄弟って知ってるよな。スライムの時に俺たちといた奴らなんだが……」
知ってるも何も、一悶着あったしな。
「ああ。で、あいつ等がどうしたんだ?」
「どうやら行方が分からんらしい」
「いつからいないんだ?」
「どうも4日ほど前、クロムたちがルグーザに出かける前の晩から、宿に戻ってないらしい」
ふむ。
つまり、あのいざこざのあった日の晩からという事か。
「どこかに泊まりで魔物の討伐に出かけたんじゃないのか?」
もしくはそこで魔物に喰われたとか。
「いや、少なくともギルドは知らんらしいぞ」
じゃあ……消された、か?
ルーナにちょっかいを出してきたのは、明らかに誰かの依頼だろう。
そうでもなければ、あいつらがルーナに手を出そうとする理由がない。
ではその誰かとは……
ルーナが今まで誰かに恨まれるような事をしたとは考えにくい。
故郷は田舎のコロロだ。
例え恨まれるような事があっても、ズッカにきたルーナを狙うほどとは思えん。
となると……
もっとも考えられるのは、この一連の魔物退治だろう。
そもそもこのズッカ周辺には、強力な魔物は存在しなかったようだ。
にもかかわらず、クイーンスライム、獅子王蟻、金色大猩猩と立て続けに出現している。
それにあの……黒い魔素の塊り。
あの魔素の塊りは、三体の魔物すべてに込められていた。
明らかに人為的なものだろう。
誰かがこのズッカの周辺で、強力な魔物を作る実験をしているということだ。
その者から見れば、ルーナはその邪魔をした主犯ということになる。
始末したくなるには充分な理由だな。
さらに言うと、そんな奴ならあいつら兄弟を口封じで消すのも躊躇しないだろう。
消された可能性は大だな。
いや……
消されるくらいなら可愛い方かも知れん。
拉致られて、何かの実験体にでもされてたら、死んだ方がましだな。
「まあ、冒険者だからどこで死んでもおかしくないからな。それに奴らが死んでも俺には関係ないしな」
ザンバの言うとおりだな。
冒険者を名乗るなら、魔物に食われるかも知れんし、盗賊に殺される事もある。
商売上、死と隣り合わせは避けられん。
「まあいい。それより金を分けるぞ。一人7万レオネだ、受け取れ」
テーブルの上に、70枚の白金貨の山を3つ出す。
「おいクロム、本当にいい――」
「はあぁっ?!」
「あ、いや……何でもない。受け取るよ」
そうだ、黙って受け取れ!
「そうね、ありがたく受け取っておくわ」
「そうだな」
グラシアもドーリも黙って受け取ったな。
グラシアには一度言ってあるし、ドーリは言っても無駄だと思っているのか、何も言わんな。
普段も何も言わないけど……
「よし、これでお前らの分はちゃんと渡したぞ。あとはヴィオだな」
「ねぇ、クロム……」
なんだ、ルーナ。どうした?
「朝ごはんはまだなのですか?」
すっかり忘れてたな。
完全にご機嫌斜めだ。
「すまんすまん、すぐに用意してもらおう。食ったらヴィオの店に行くぞ」
「はい♪ なのです!」
食えるとなったらすぐに機嫌がよくなるな。
食い物を与えておけば、万事OKってか?
まるでペットだな。
どっちが飼い主かわかったもんじゃないな……
タイトルは、マエストロ、行方しれず/泉 竹史 より拝借




