65話 今はもうない(○○が……)
「おい、クロム」
ヴィオが黒炎酒を片手に隣へ座ってきた。
「儲けは均等に五等分ってのは本当か?」
「本当だ。明日にでもきっちり分けるぞ」
「いいのか? ほとんどお前だけで殺ったようなもんだぜ?」
「お前まで言うか。パーティーってのはそういうもんだろ」
「しかし……」
「それに、お前の魔法が無ければあんなに、簡単にはいかなかっただろ」
「そう言ってもらうと、やった甲斐があるってもんだがな」
「それとも何か? ザンバたちは三人で一人分でいいとか思ってんのか?」
「思ってねーよ!」
まあ、ヴィオがそんなことを思ってるとは、俺も考えちゃいないがな。
「そこまで言うなら仕方ねぇな、貰っておくか」
ああ、そうしてくれ。
「金なんて、酒が飲める分があればいいんだがなぁ……」
ヴィオは世捨て人と言うか何と言うか、俗世にあまり関心がないようだ。
その割には世の中の情報に詳しいが、まあ魔道士なんてそんなもんなのかね。
だが、金は無いよりはあったほうがいいぞ!
電気を止められそうになった元フリーターが言うんだから間違いない。
「話は変わるが、あのアントーニオに直接会ったんだって?」
「ん? ああ、そうだな」
“あの”ってのがよくわからんが、大商人って意味か?
「じゃあ、召喚魔にも会ったんだろ? どうだった?」
「召喚魔? いや、知らんぞ」
ジャコモも言っていたが、アントーニオは高位召喚魔持ちだったな。
だが、肝心のその高位召喚魔は見なかったな……
「おかしいな。噂じゃお前と同じ常時召喚で、いつも傍らにいるって話だったんだがな」
いつも……傍ら……だと?
もしかして……
「おい! その高位召喚魔ってのはもしかして……人型じゃ、ないよな?!」
「そうだな。人型の、しかも女性の姿って話だ……ってなんだよ、知ってんじゃねぇか」
確か……アイナって言ったな。
あいつ召喚魔だったのかよ。
そう言われれば独特の雰囲気だったが、全く気が付かなかったぞ。
「その高位召喚魔のおかげで、あれだけ儲かるようになったって話だぜ」
アイナのおかげであそこまで儲かるようになったってことは、アイナの能力は秘書なのか?
何だ? 能力が秘書って……
いや、自分で突っ込んでどうする。
しかし、人型の召喚魔だったとはな。
あまり多くはないはずだが、早速お目にかかっていたとは驚きだ。
知っていたらもう少し観察するんだったな。
人型と言えば、人化の魔道書を買ったんだった。
どうする?
一度ヴィオに聞いてみるか?
「ところでだ……人型変化入門って魔道書を買ったんだが――」
「何だ、クロム! お前、人化したいのか?」
声が大きい。
もう少し小声で話せ! 恥ずかしいだろ。
「どれだ? 見せてみろよ」
異空間から本を出して渡すと、ヴィオはページをめくって中身を確認し出した。
「ふむふむ。なるほどねぇ……。まあ間違った内容ではないけどな」
ないけど……何だ?
「お前、そもそも人化の必要を感じてるのか?」
む?
そう言われると……微妙だな。
元人間だから人型になりたい気持ちはあるが、必要性と言われれば……
今のところは無いな。
「こういうのは、強い思いが必要だからな。魔道書読んで、その通りやればなれるって訳でもないぜ」
そういうものなのか?
「逆に言えば、必要に迫られたらこんなもの読まなくても人化出来るはずだ。お前の魔力ならな!」
つまり俺は、何となく人化したいと考えているだけで、今のところは猫のままでいいと思っているって事か。
まあ、実際に猫の生活も楽しいしな。
魔法も使えるから、特段不便もないし……
美女と風呂に入って、生乳も拝めるしな。
猫だから意味ないけど。
これで人型になったら、多少は興奮するのか?
いや、そもそも……
今まで黙っていたが……
俺って、生殖器無いんだよね。
召喚魔だから。
召喚魔は生殖の必要はないし、排泄もしないからな。
必要ないから無いんだよ……きっと。
でもこれって人型になったらどうなんだ?
まさか天使のような感じで、股間に何も付かんのか?
それも微妙だな。
ふむ……
何だか人化が楽しみなような、そうでないような……
「――クロム。おい、クロムって! 何だ? 考え事か?」
何だ、ザンバか?
「ああ、ちょっとな。何か用か?」
「何だよ、用が無けりゃ話掛けんなってか?」
そうだな。
特にザンバ、お前は。
「おい、クロム! 森での儲けは五等分ってのは本当か?」
「何だ? 足りないのか?」
「そうじゃねぇ、多すぎだ。俺たちはもっと少なくてもいいんじゃないのか?」
ザンバ、お前もか。
こいつらは欲が無いのか?
貧乏冒険者だっただろ! もっと金を欲しがれよ。
金は大事だぞ。
ガスを止められそうになった俺が(以下略)
「五等分だ。グラシアにも言ったはずだが?」
「グラシアからは聞いてるが、せめてクロムとルーナの分で、三分の一を取るとかしないか?」
「いや、俺はルーナの召喚魔だ。一人分でいい」
「しかしだな……」
「しかしもお菓子も無い。召喚魔の分と言うのなら、ヴィオのトリヴィアだって偵察したぞ! グラシアのジュレもお前のルフォールも戦っただろ」
「だがなぁ……」
「だがも駄菓子も無い。それとも何か? 召喚魔を持たないドーリへの差別か?」
「分かった、分かったよ! って言うか、何だよダガシって」
ん?
そうか……駄菓子はこの世界には無いな。
タイトルは、今はもうない/森 博嗣 より拝借




