62話 小金持ち
アントーニオの店では、すでにジャコモが俺たちが来るのを待っていた。
「どうしました? 何か疲れたような顔をしてますよ」
何だお前、猫の表情が分かるのか?
ペットショップにでも転職したらいいんじゃないか?
「いや、何でもない。気にするな」
疲れている訳ではない。
ルーナが食べているのを見てたら、胸やけがするだけだ。
「では、アントーニオ様も上でお待ちです。早速行きましょう」
前回と同じく、魔法を使ったエレベーターで三階へと向かう。
三階に着くと、これまた前回と同じく、秘書然とした女性が待ち構えていた。
たしか……アイナとか言ったな。
アイナは少し憮然とした表情で、俺たちに向かって声を掛けてきた。
「アントーニオ様がお待ちになっております。執務室の方へどうぞ」
何だ?
待たせた俺たちが悪いとでも?
夕刻って言っただけだよな……まだ夕方になったばかりだぞ?
勝手に待ってただけじゃないか。
それとも何か?
夕刻と言われたら、もっと早く来るのが礼儀なのか?
大体にして“執務室へ”とか言ってるが、この先は執務室しかないだろ!
「クロムさん? どうしました?」
「あ……いや、何でもない。では行くとするか」
どうもこの世界に来てから、脳内独り言が多い気がする。
まあ、元から独り言は多かったがな。
ぼっちだったし……
「これはこれは。お待ちしておりましたよ」
「失礼。だいぶ待たせたようだな」
「いえいえ。お気になさらずに」
そう言うなら、アイナの睨むような視線も気にしない事にしよう。
「では、そちらにお掛けになって下さい」
そういえば就職の面接で、言われてもいないのに座ったら、即座に帰されたことがあったな。
まあ、遠い昔の話だ。
「結論から申しましょう。昨日預かったものは、全て買い取らせて頂きたい」
良かった。
買い取れないと言われたら、少々不味かったからな。
「買取価格を示しておきましたので、ご確認ください」
アントーニオの言葉に反応して、アイナがすぐに書類を取り出す。
「こちらの価格で了承していただければ、すべて買い取ります」
アイナは相変わらず機嫌の悪そうな顔で、俺たちにそう言ってテーブルに一枚の書類を置いた。
書類には、昨日預けた全ての物の、数と価格が書かれている。
・毒吐猿の毒袋1100×55=60500レオネ
・大猩猩の毛皮1100×85=93500レオネ
・灰色大猿の毛皮2200×5=11000レオネ
ふむ、ここまではギルドの買取価格の1割増しだな。
妥当な線だろう。
・柘榴猿の魔石7×4000=28000レオネ
・ジュエルドラゴンの鱗(大)5×21000=105000レオネ
・ジュエルドラゴンの鱗(小)4×13000=52000レオネ
予想以上に高いな。
特にジュエルドラゴンは想定よりかなり高いぞ。
結果的に拾っただけのルーナが、一番儲けた事になるのか?
拾い物なのにな……
それより肝心のなのは、この後だ
・獅子王蟻150000レオネ
・金色大猩猩350000レオネ
……えーっと…何だこれ?
誰だ、獅子王蟻が5万レオネとか言ったのは。
3倍もするじゃないか!
いや、それより金色大猩猩の価格はどうなってるんだ?
35万レオネって言えば、およそ3500万円だぞ?
大丈夫なのか、この価格で。
「この獅子王蟻と金色大猩猩の価格だが――」
「ああ……申し訳ない」
え? 何が?!
「特に獅子王蟻は、買い手が限られそうでその辺が限界だ」
いや、そうじゃなくてだな……
「金色大猩猩の方も、もう少し色を付けたやりたかったが……」
だから、そうじゃなくてだな……
「この価格では納得できんかな?」
だから納得とか、そういう事ではなくてだな……
いや、俺が心配する事でもないな。
大商人様が損する訳もないだろうし、最終的な価格が倍額になろうが、買う奴はいるんだろう。
「まあ、よかろう」
「おお、そうか! それはよかった」
よかろうも何も、こちらは万々歳の金額だしな。
他に持って行ってら高値になる可能性は否定出来んが、それはどこでも同じだ。
第一、こちらは相場も分からんからな。
「では総額で85万レオネになります。大白金貨85枚でよろしいですか?」
何言ってんだ?
アイナも少しは考えろよ。
大白金貨なんてどこで使うんだよ。
俺達は商人じゃねえんだぞ?
「いや、白金貨850枚で頼む」
「わかりました」
大体にして、白金貨でもズッカでは充分過ぎるほど使い勝手が悪い。
本当は金貨で欲しいところだが、さすがに金貨8500枚というのも何だしな。
仕方なかろう。
「では白金貨850枚です。お確かめ下さい」
俺はアイナが置いた袋を異空間に収納して数を確かめる。
「間違いない。では預かり証文を返すぞ」
俺が返した証文を、アイナは魔法で瞬時に消滅させた。
魔法の能力も結構高そうだな。
なんだかんだ言って、優秀な秘書なのだろう。
ご主人様に陶酔し過ぎなのが、微妙なとこだがな。
「では、これで全て終了だな。今夜もローズガーデンを押さえてあるから、ゆっくりするがいい」
今夜もあそこか……
「支払いの心配は無用だ。あの宿は私の物だからな!」
知ってるよ。
だが、奢りとは気前がいいな。
実は今のでかなり儲かったのか?
もう少しごねた方が良かったかもしれんな。
まあ、今更仕方あるまい。
しかし今夜もあの宿とはな……
今日は、飲む前に風呂に入らせた方がいいな。
タイトルは、黄金虫/エドガー・アラン ポー より拝借




