60話 何のために金はある
「ここにいたんですね」
支払いをしていると、グラシアがやって来た。
「何か良さそうな物はあったか?」
「ええ……良さそうな剣があったんですが、ちょっと高いので、どうしようか悩んでいるんです」
「幾らなんだ?」
「7000レオネです」
な……ななせんレオネ?
森の調査報酬丸々分だぞ。
いくら何でも高くないか?
いや剣なんて、高い物は幾らでもあるのはわかっているが、今のグラシアに、7000レオネの剣が分相応かどうかと言えば疑問だ。
いったいどんな剣なのだ?
「どれだ? 俺にも見せてくれ」
「はい。あっちにあります」
に連れられ、お目当ての剣の場所へ移動する。
「これです。この剣です」
「ほう……これは見事だな」
グラシアが気に入った剣は、女性も扱いやすそうな細身のロングソードだった。
刀身を含めた全てが、ほぼ白と言ってもいい美しい白銀色だ。
鍔の部分にはプラチナゴールドの装飾がしてあり、白水晶が嵌めこまれている。
「おや、さっきのお客様ですね。やはり気になりますか?」
先程もグラシアの対応をしたのだろう。
店員が声を掛けてきた。
「ええ、値段が値段だけに悩んでいます」
「たしかに高額ですよね。でも、これ以上にお客様に向いた剣も、そうは有りませんよ?」
「ですよね……」
グラシアと店員のやり取りから察するに、どうやら見た目だけでなく付加能力があるようだな。
「これはどういう剣なのだ?」
「えっ?! あ、ああ、それはですね……」
さすがにCランク以上の限定店でも、子猫の召喚魔が話すと、多少は驚くようだな。
さっきから話し始めると「えっ」と言われるぞ。
「この剣は、氷雪系の魔法を補助する能力があります。単純に威力も増大しますし、高度な魔法も使用できるようになりますよ」
ほほう。
確かにグラシア向きだな。
「女性用に作られていますし、お客様にピッタリだと思いますよ!」
店員の言う事はごもっともだな。
しいて言うなら、鍔に付いた石がグラシアに合うかだな。
まあ、後から付け替えることも可能だろうが……
「グラシア、お前の守護石は何なのだ?」
「白水晶です」
ふむ。
おあつらえ向きとはこの事だな。
まるで、グラシアの為に作られた剣のようだ。
これなら7000レオネでも安いかもしれないぞ。
「見たところ新品のようだが、どういった由来で作られた剣なのだ?」
「これは、前の聖騎士団長をイメージして作られた剣ですね。就任にあやかって作ったのでしょうが、売る相手が限定的過ぎたようで……」
まあそうだろうな。
氷雪系の召喚魔持ちで、この剣を買えるだけの金を持っている、女性の冒険者なんて、そういる訳もない。
「本来なら1万レオネはするはずですが、新品と言えど数年前の物ですから……」
つまり、売れ残りの在庫処分価格という訳か。
しかし売れ残りだろうが、在庫処分だろうが、グラシアにとってはこの上ない逸品だ。
安く買えるのに越したことはない。
「どうする気だ? グラシア」
「どうしたらいいでしょう?」
かなり欲しいようだが、値段に躊躇して踏ん切りがつかないようだな。
「金はあるんだろ? 買えばいいじゃないか」
「ええ、そうなんですけど……無駄遣いのような気がして……」
「何を言ってるんだ? 命に係わる大事な物だぞ。無駄なことがあるか!」
一度死んだ事がある俺が言うんだから、間違いはない。
「金は何の為にあるのだ? 使うためだぞ!」
これは、バイト先のアラフォーフリーターが言っていた名言だ。
いや……迷言かな。
確か、借金取りから逃げ回っていたような気も……
「それに、今夜にはまた金が入るんだ。今ある金を使おうと何の問題もないだろ?」
「えっ? でも、私たちの分は大した数じゃありませんし……」
「何の事だ? 獅子王蟻は別としても、残りは山分けだぞ」
「いや、でも……ほとんどクロムが倒した魔物ですよ」
「何だ? お前たちのパーティーでは倒した奴の総取りなのか?」
「いえ……きちんと3等分です」
「そうだろう、それが当たり前だ。だから俺たちも5等分だ」
「でも……」
「そもそも、その理論だとヴィオの取り分はゼロだぞ」
「いや、それは――」
「異論は認めん! 5等分だ!! だから悩んでいないで、その剣を買え」
「は……はい」
何をグラシアは四の五の言ってるんだ?
大体にして、何もしてないというのなら、ルーナこそ何もしてないだろ。
俺の働きが、ルーナの働きなのだから同じことだがな。
ああ、でも……
預けたものが売れるとは限らんな。
グラシアを焚きつけて、金が入らなかったら……
やばいな。
「買ってきました♪」
ああ、買ったんだ。
そうだよな。
俺が買えって言ったしな。
ま、まあ……
全く売れないってことはないだろうし……
何とかなるよな。
タイトルは、誰がために鐘は鳴る/アーネスト・ヘミングウェイ より拝借




