53話 三階の王
魔法のエレベーターで三階に上がると、そこには大商人アントーニオが……
いないな。
扉の先にいたのは、一人の女性だ。
「この先がアントーニオ様の執務室です」
もうわかったから、その度に言うなよ。
「執務室には結界が張ってあります。攻撃魔法など、ご主人様に敵意のある魔法は全て妨害されますので、心置きを」
言いたいことはそっちか。
「強力な結界ですので、余程の方でも攻撃魔法の発動は困難かと」
入り口で剣を奪い、ここで魔法の使用に釘を刺す、か……
二連コンボの注意喚起をありがとう、ってね。
初見の客への対応は万全です、と言っているようなものだな。
だが逆に、俺が“余程の方”のはるか上なら攻撃できるわけだ。
……別に攻撃なんてしないけど。
「私はアントーニオ様にそのような事など――」
「貴方に言っているのではありませんよ、ジャコモ殿」
女の視線の先は、なぜかルーナと俺に向いている。
正確にはルーナだけかもしれない。
普通に考えたら、召喚魔を操っているのは契約者なのだからな。
「別に何もせん。買って貰いたいものがあるだけだ」
俺の言葉に、女は一瞬怪訝そうな顔を見せた。
俺が話せることに驚きはしていない。
ルーナではなく、俺がそう言ったことにいぶかしんでいる様子だ。
しかし女は、俺の言ったことには何も答えず、奥の扉へ向かっていった。
「アントーニオ様、ジャコモ殿がお連れ様といっしょにお見えです。お通ししてもよろしいでしょうか?」
女は扉に向かって話しかける。
扉がアントーニオ? ……ではないよな。
扉越しに聞こえるとは思えんが、魔法で中に伝わるようにでもなっているのだろう。
返事はないようだが、扉がゆっくりと開いていく。
「どうぞ、お入りください」
いちいち仰々しいのが結構ウザいな。
でも入るけどね。
アントーニオ様の執務室とやらは無駄に広く、高級であろう美術品があちこちに飾られていた。
その奥に、これまた高そうな机に向かい、高そうな椅子に腰掛けて、書類を書いている男がいる。
常識的に考えると、この男がアントーニオなのだろうな。
「久しぶりだな、ジャコモ」
「は……はい」
なんだ? こいつも猫系の召喚魔持ちか?
ジャコモの態度がおどおどしてるぞ。
「で、その美しい御客人達は私に何を売りたいというのだ?」
ここまでの仰々しさが嘘のように単刀直入だな、おい。
「はい、魔物の素材を売りたいと――」
「魔物の素材? 素材にもいろいろあるが、何の魔物の何の素材なのだ?」
「え、ええっとですね――」
「俺が変わろう!」
ジャコモに任せていては埒が明かん。
「召喚魔が説明とは、面白いな。私としては、そちらの女性陣に説明を求めようと思っていたのだが……まあいい、お主に任せよう」
何故かいまいち気に入らん奴だが、金のためだ。
我慢するか。
「売りたいのはカーバンクルの魔石が7個、大猩猩の毛皮が85枚、灰色大猿の毛皮が5枚、毒吐猿の毒袋が55個だ」
「なんと! 相当な量だな」
「ああ、あとジュエルドラゴンの鱗が大小合わせて9枚。それと……」
「何っ! ジュエルドラゴンの鱗だと!! それに? それに他に何がある?」
さて、どうしたものか?
しかし、こいつ以外に買い手も知らんしな……
仕方ない、言うとするか。
「獅子王蟻と金色大猩猩の、傷一つない、そのままの死骸だ」
「なっ! なん……だと? 今、何と言った?」
何度も言わせるなよ。
全く……
「獅子王蟻と金色大猩猩の、傷一つない死骸を結界魔法で保存している、と言ったのだ」
「獅子王蟻と金色大猩猩だと?」
だから、さっきからそう言ってるだろ。
「傷もない死骸……とな?」
だから、それもさっきから言ってるっての!
全部確認すんなよ。
お前は若そうに見えて、じじいなのか?
「ふむ……嘘でなければ、それら全てをここで出されても困るな」
「俺の契約者は、嘘をつきにズッカから出向くほど、暇ではないぞ」
暇だけど。
「いや、失礼した。そういう意味で言った訳ではない」
じゃあ、どういう意味だよ。
「アイナ、空いている倉庫はあるか?」
先程の女はアイナと言うらしい。
どうせモブキャラなんだから、名前なんていいのに……
「はい。執務室の隣がちょうど空いています」
「では隣へ行こう」
隣?
エレベーターからの扉はここしかなかったはずだ。
あのエレベーターはこの部屋直通という事で、別の階段もあるのか。
「こちらからどうぞ」
入った扉とは違う扉へとアイナに導かれる。
扉の先は廊下になっていて、複数の扉があり、その中の一つへと案内された。
中に入るとそこは、魔物を二体出すには充分すぎるほどの、広さも高さもあった。
「ここならよかろう。さあ、出してくれ」
アントーニオに促され、最初に毛皮と毒袋を出してみせた。
「おお! うむ……確かに相当な数だな」
次にカーバンクルの魔石とジェルドラゴンの鱗を出す。
「これは凄い! まさしくジュエルドラゴンの鱗だ。カーバンクルの魔石もかなり大きいな」
ここまででも充分に驚いてくれたようだが、所詮は普段も取り扱いのある品だろう。
この先二つがメインディッシュだからな。
存分に堪能してくれ!
最初は、獅子王蟻と行くか。
アントーニオだけに……
「こ、これは……」
よし!
獅子王蟻を出すと、アントーニオは上々の反応を見せた。
「流石の私も初めてだが…… 素晴らしい! 素晴らしいぞ!!」
大商人様でも獅子王蟻は初めてでらっしゃるようだな。
アントーニオなのに……
「しかも傷一つないとは!」
流石の大商人様も、神々しくも禍々しい姿の獅子王蟻に魅了されているようだ。
「さあ次も……金色大猩猩も見せてくれ!」
はいはい。
言われなくても見せますぜ、大商人様!
俺は獅子王蟻に続き、金色大猩猩を出した。
「な…………」
絶句とはこのことか。
しばしの間、アントーニオは言葉を失い、金色大猩猩から目を離すことが出来ないようだった。
タイトルは、二階の王/名梁 和泉 より拝借




