54話 倉庫場にて
しばし言葉を失っていたアントーニオが、唐突に口を開いた。
「なんという美しい毛色だ。このブラチナゴールドの加減がまさに絶品だ!」
分かってるじゃないか。
なにせこの色に仕上げたのは、この俺だからな!
「このまま剥製に……いや、毛皮にして貴族へ……」
さすが商魂たくましい大商人様である。
すでにどうやって高く売るかを計算しているようだ。
しかしまだ、お前に売ると決めたわけではないぞ。
「で、買いとるのか? 買い取るならいくらなのだ?」
俺の問いに、ようやくアントーニオは我に返ったようだ。
「失礼した。すべて買い取らせてもらいたい……が」
が? どうした。
「この数をすべて確認するのは、すぐには無理だ」
なるほど。
確かにそうだな。
「さらにこの二体に至っては、適正価格を付けるのは簡単ではない」
ふむ。
それも分からなくはない。
分からなくはないが……
「結局、何か言いたいのだ?」
「つまり、これを預からせて欲しい」
「魔物二体も、か?」
「そうだ。全てお願いしたい」
「今日会ったばかりの奴を信用しろ……と?」
ジャコモには何様かもしれないが、俺にはただの一商人だ。
会ったばかりの男を信用して、すべてを預ける馬鹿がどこにいるんだ?
「さすがにそんな無茶な話はせん。商業ギルドの正式な預かり証を発行する。それでどうだ?」
「商業ギルドの……預かり証?」
ギルドの正式な預かり証と言うからには、それなりの効力があるのだろう。
しかし、どこまでの効力かが問題だ。
「私が説明いたします」
アイナが誰に言われるまでもなく説明を始めた。
「商業ギルドの預かり証とは、ギルドが全て保障する正式な証文です。例えば今回のように――」
相変わらずこの手の説明は、誰も彼も長い。
簡単に言うと、預けた物に対して金を支払わない、破談したのに品物を返さないなどの場合、ギルドが適正価格の倍額を支払うというものだ。
もちろんその代金は、ギルドによって徹底的に回収される。
そして故意であることが明らかな場合は、その商人は二度と米粒一つ売ることも出来なくなる。
大商人と言われる者たちは、その為の保証金もギルドに預けているのだそうだ。
うん。簡単になってないな……
この辺は、少しルーナを見習うべきか。
「それならいいだろう。で、いつまでだ? こちらも暇ではないのだ」
全く持って暇だがな。
「そうだな……明日の夕刻まででどうだ?」
「まあ、それ位ならいいことにしておこう」
せっかくだ。
明日は一日、ルグーザ観光と決め込むか。
「では、預かり証を作成させよう」
「すぐに手配します」
アイナが即座に反応する。
「ところで、宿泊先は決めておるのかな?」
さて? 知らんな。
俺たちは一斉にジャコモを見る。
そもそもルグーザの宿など、俺たちが知る訳もない。
「あ、いや……まだ特には……」
相変わらずジャコモは落ち着かない様子で答える。
「ならばこちらで手配致そう。今晩と、そうだな明日の分でいいだろう」
「かしこまりました。早速手配させます」
アイナは秘書に近い存在のようだ。
特に指示しなくても、アントーニオの言ったことに即座に反応して行動に移している。
モブキャラ呼ばわりは間違いだったようだな。
少なくとも、台詞を与えるために連れてきたグラシアとラエルより台詞が多いぞ。
アイナが部屋を後にすると、アントーニオはまた獅子王蟻と金色大猩猩の値踏みを始めた。
ここも対攻撃魔法の結界を張っているのだろうな。
そうでなければ、大事な主人を置いて消えたりはしないはずだ。
しかし、俺なら攻撃できそうな気もしないではない……かな?
しないけど。
そうこうしているうちに、アイナが書類を持って戻ってきた。
「アントーニオ様、こちらにサインを」
「ん? ああ」
アントーニオがサインをすると、書類が軽く光を帯びた。
どうやら証文自体に、何らかの魔法がかかっているようだ。
「ではこれを。ご確認のうえサインをお願いします」
さすがに俺にはサインは出来んな。
出来ない事もないが、召喚魔のサインなど効力もないだろう。
ルーナに書いてもらうか。
「ルーナがサインしてくれ」
「りょーかいなのです!」
返事はよいが、どうやら文字を書くのが苦手だったようだ。
字は上手くないな。
あとで誰かに教えてもらうか。
ルーナがサインをすると、アントーニオの時と同じように証文が光り、そして二つに増えた。
「これで証文が出来上がりました。片方をお持ちください」
アイナは片方の証文をルーナに手渡す。
「宿の方は、ローズガーデンを手配しておきました。ジャコモ殿、案内をよろしくお願いしますよ」
アイナに促され、元来た通りに部屋を後にする。
エレベーターを降り、玄関を出るとグラシアがぽつりと言った。
「私たちって、来た意味があったのかしら?」
心配するな。
出番はこれからだぞ! ……多分だけどな。
タイトルは、池田聡「倉庫BARにて」より拝借




