52話 商都ソング
ルグーザに着いたのは、すでに夕方に近い頃だった。
商都と呼ばれるだけあって、街の中心には豪華で立派な建物が多くみられる。
「屋台がいっぱいです♪」
ルーナは建物より、屋台の数を気にしてるようだ。
正確には屋台の中身だが。
「いろんな食べ物があるんですよ」
グラシアもいらない事を言うなよ。
全種類制覇とか言い出すぞ。
「エルフはあまり見かけないようですね」
ラエルはエルフが見当たらないのを気にしている。
商都だからな。
街の特性上、エルフは多くはなさそうだ。
「この少し先がアントーニオ様のお店です」
ジャコモが窓から街並みを確かめて、そう言った。
誰だ? アントーニオって……
ああ、今から行く大商人とやらの名前か。
そういえば、名前すら聞いてなかったな。
今初めて知ったよ。
「店の隣の建物が事務所ですので、そこにアントーニオ様がいるはずです」
店の他に事務所を構えているのか。
大商人と言うくらいだから、それくらい当然か。
「ちなみにアントーニオ様は、王都にも店を構えてます」
凄いな……
凄いがどうでもいい情報だな。
聞いていない情報まで教えてくれてありがとう。
市街に入ってからゆったりと走っていた馬車が、静かに停止する。
「着きました。ここです」
自分のボスに会うせいもあるのだろう。
ジャコモはいつにも増して、言葉遣いが丁寧になっている気がする。
馬車を降りると、そこには様々な店が並んでいた。
「お店がいっぱいなのです」
「なんだか高そうなお店が沢山ありますね」
ルーナとラエルは、店の多さに驚いている。
たしかにズッカとは比べ物にならない多さだからな。
「この辺は、高級店が立ち並ぶ一角ですよね」
「よく御存じで! ここは王都に匹敵するほどの高級店街ですからね!」
グラシアの言葉にジャコモが誇らしげに答えている。
店を出しているのはお前じゃないのだが……
しかし何だな。
王都イリオンと、ここ商都ルグーザの高級店街に店を持つとは、かなりやり手の商人だろうな。
いったいどんな奴なのだろう?
ジャコモのような輩を飼っているのだから、かなりの悪党かもしれんな。
「ここがアントーニオ様のお店です」
「おおきいのです」
「凄く立派な店ですね」
「こんな素晴らしい店は、王都でもなかなか見ないですよ」
大きさで言えば、ワルフランの店の5倍はあるであろうその店は、さらに三階建てである。
その店先のショーウインドウに並ぶ商品に、女性陣は目を輝かせている。
最新の流行……いや、俺には最新も流行かどうかも分からないな……
多分だが、流行の先端を行くファッションアイテムが並んでいる。
「こんなの買っても着る所なんてないですよね」
グラシアの言う通り、そこにあるものは、富裕層が着るような華美な物ばかりだ。
ルーナはもちろんのこと、グラシアやラエルも着る機会は無さそうだ。
「高そうなのです」
そうだな。
ルーナの飯代より高いのは確かだな。
いくらルーナでも、目の前にある服の代金分を食べるのは難しいだろ。
「で、隣にあるのが事務所です」
おいおい!
ラエルが何か言う前に、お前がいったら駄目だろ。
ジャコモも空気が読めない奴だな。
せっかく台詞を与えるために連れて来たのに、台無しじゃないか。
って言うか、えっ?……事務所?
これが、事務所?
これは事務所とは言わないな。
隣の店と同じ三階建ての建物は、店以上に豪華な作りに見える。
高級ホテルと言ってもいいほどだ。
入り口には門番のような奴らまでいやがる。
ここに、アントーニオとやらがいるらしい。
どんだけ金持ちなんだ?
「とりあえず、みなさんはここで待っていてください」
そう言うとジャコモは、俺たちを置いて事務所へ向かう。
ジャコモが門番に声を掛けると、門番の一人が中に入っていった。
しばらく待つと、門番は戻ってきてジャコモに頷きかけた。
どうやら、お目通りが叶うようだ。
貴族でもない、ただの商人のくせに仰々しいな。
ああ、ただの商人じゃなくて“大商人”だったか……
門番を横目に扉をくぐると、建物の中は、外にも増して贅沢な造りだった。
壁には絵画が飾ってあり、あちこちに彫刻などが置かれている。
一見すると、どこかの貴族の邸宅のようだが、奥の方では忙しそうに人々が動き回ってる。
あるものは高そうな洋服をたくさん抱え、あるものは帳簿の束を持ち、部屋から出てどこかへと歩いていく。
「旦那様は、三階の執務室です。あちらからどうぞ」
年老いた執事のような男がこちらにやってきて、そう声を掛けた。
執事の手の先には、豪華な扉がある。
その先に三階へと繋がる階段でもあるのだろう。
「その前に、そちらの女性のお持ちの物をお預かりしてもよろしいでしょうか」
そちらの女性とは、グラシアのことで、お持ちの物とはおそらく、彼女の剣の事だろう。
どうやらここの主人と会うには、帯刀は許されないようだ。
グラシアはそう言われ、俺を見る。
「言われた通りにしておけばいい、所詮形式的なものだ。」
そう、所詮は形式的なものでしかない。
この世界は、いわゆる“剣と魔法”の世界なのだ。
剣などなくても人を殺める事はたやすい。
相手より、魔法の威力さえ強ければな。
「では、改めて。あちらの扉から、どうぞ」
グラシアが剣を預けると、執事は再び扉を指してそう言った。
装飾が施された扉は、俺たちがその前に行くと自動で開いた。
魔法を使って自動で開くようにしているようだ。
しかし開いた扉の向こうには、数人が入れるほどの小さな部屋があるだけだ。
なんだか前世で見たことあるが、もしかしてこれは……
エレベーター?
「そちらにお入りいただくと、魔法により自動で三階まで参ります。それではごゆっくり」
ふむ。
こういう魔法の使い方があるとはな。
物騒なこと以外にも、魔法の用途はいろいろあるという事か。
やはり“剣と魔法の世界”はあなどれんな!
タイトルは、ショートソング/枡野 浩一 より拝借




