51話 馬車のから騒ぎ
朝だ。
今日は楽しい馬車遠足の日だ。
にも係わらず、お寝坊さんがここにいる。
「ルーナ、起きろ!」
「ムニャムニャ……それぇ、“イエ・デ・ハラペコダ”!!」
はいはい、お約束お約束。
“氷針散弾銃”ね。
大体にして、お前はいつも腹ペコだろう。
朝食にするから早く起きろ。
ルーナと食堂に行くと、すでにグラシアとラエルが朝食を終えて、お茶を飲んで待っていた。
「済まん、待ったか? ルーナが遅くてな」
「いえ、今朝食を取り終えたばかりですから。ねえ、ラエル」
「えっ? ……あ、はい」
結構待っていたようだな。
ラエルの対応でバレバレだ。
どうもこの子は、真面目すぎる。
昨夜もルグーザへの同行を持ちかけたら、初めは「ベンキョウガー」を連発し、断ろうとしていた
しかし、エフィルに「見聞を広げるのも勉強のうち」と言われ、同行することにしたようだ。
実際、勉強ばかりしていても、一流の魔道士になれるとは思えん。
特にこの子は、勉強以外のこともいろいろと学んだ方がいい気がする。
まあ、あまり色々学び過ぎて、ヴィオのようになられても困るがな。
「クロム! おかみさんが、これ持って行けってさ」
ルーナが朝食を取り終えた頃を見計らったかのように、レネットが包みを持ってきた。
どうやら昼の弁当のようだが、少し数が多いな。
「お弁当なのですか♪」
ルーナは今にも食いたそうな顔で見ている。
さっき朝飯を食ったばかりなのだが……
「ああ、そうだ。ジャコモとかいう奴の分と、馬車の御者の分もだそうだ」
さすがおかみさんだ。
多い分に越したことはないし、余ったらルーナが食うだろうからな。
「ありがとうと言っておいてくれ」
「ああ、だが金は貰うらしいぜ」
さすがおかみさんだ。
商売上手だな。
おかみさんの“愛情たっぷりの押し売り弁当”買わせていただきます。
「グラシアもラエルも、準備は大丈夫か?」
「はい、準備万端です」
「問題ありません」
待たせていたのはこちらだから、愚問だったな。
「では行こうか。大通りに馬車が待っているはずだ」
「あれでしょうか?」
大通りへ出ると、シンプルな馬車が1台停まっている。
「そのようだな」
馬車の横では、ジャコモがキョロキョロしながら立っていた。
「待たせたようだな」
「あっ! やっと来ましたか……来ないかと思いましたよ」
「来ない訳無かろう」
「あ、ああ……そうですよね……すいません」
やはりジャコモは、俺のことが相当苦手なようだ。
なぜか完全に上下関係が出来上がっている。
「ところで、そちらの美人二人がお連れの方ですか?」
「ああ、グラシアとラエルだ」
「私はグラシア、冒険者です」
「ラエルです。魔道士です。今日はよろしくお願いします」
「は、はい。こちらこそ」
女衒の真似事もするジャコモだが、グラシアやラエルのように真面目な女性は、あまり得意ではないようだ。
特にラエルは真面目を通り越して生真面目だからな。
しかし何だな。
よく考えると俺の周りには、何故か美人ばかりだ。
どうせなら、前世でこうであって欲しかったな。
え? 大鍋亭のおかみさん?
何言ってるんだ! おかみさんは美人だぞ。
ただちょっとだけふくよかなだけだぞ。
「あ、あの……ク、クロムさん? もうみんな馬車に乗りましたけど……」
む?
みんな薄情だな……
遅れて馬車に乗ると、中ではこれから行くルグーザの話で盛り上がっていた。
グラシアはルグーザに行ったことがあるようで、ルーナとラエルがいろいろ質問をしている。
まるで女子会のようだ。
仕方ない。
ぼっち同士、ジャコモと話でもしようか。
「おい、ジャコモ」
「なんでしょう?」
「お前は何でそんなに俺にビビっているんだ?」
「えっ? あ、ああ……何ででしょうね?」
どうも本人にも分からないようだ。
最初に脅した事は脅したが、そこまでビビるほどでもないと思うのだがな。
もしかして、猫とか虎とかに何かトラウマでもあるのか?
「もしかしたらですが……召喚魔のせいですかね」
ん? 召喚魔?
「どういうことだ?」
「自分の召喚魔は、……ネズミなんですよ」
なるほどね、ネズミか。
「そういえば一度、虎の高位召喚魔持ちと会った時も居心地悪かったような……」
そういうことか。
あくまで俺の想像だが……
こいつの召喚魔は、 普通の猫や、普通召喚魔程度なら問題ないが、猫系の高位召喚魔に委縮してしまうのだろう。
それがジャコモにシンクロされて、知らず知らずのうちにビビってしまっているのだ。
しかし……ネズミとはな。
俺にとっては幸いだったというべきか。
商都ルグーザの話に盛り上がる女子たち。
猫の高位召喚魔と、それにビビるネズミの召喚魔持ち。
馬車は様々な思いを乗せて、ルグーザへとひた走る。
タイトルは、バスのから騒ぎ/山本甲士 より拝借




