48話 ズッカの黒猫使い
空が青いな。
窓の外は雲一つない晴天だ。
すでに日も高くなってきた。
「いい加減に、起こすか」
こいつは、起こさなければいつまでも寝ているようだ。
「おい、ルーナ! 起きろ」
「ムニャムニャ……行け!“オサール・ガハ・イル・ロテンブロ”!!」
猿が入る露天風呂か……懐かしいな。
ネットでしか見たことないけど。
すでに原形を留めていない気もするが、きっと“喫煙の悪魔”の事だろう。
いい加減に朝のお約束はどうなのかな?
「ワンパターンすぎるとブクマを外されるぞ」
ん? ブクマ?
やはり多少疲れているのか? 妙な事を口走ってしまった。
ルーナと食堂へ行くと、レネットが掃除をしていた。
「よう! お寝坊さん。一応、飯は取っておいたがどうする?」
「食べるのです」
即答だな。
食う、寝る以外に何か楽しみはあるのだろうか?
「みんなはどうした?」
「グラシアとドーリは普通に起きて、どこかに行ったぜ。ザンバはさっき起きて、これまたどこかに行ったな」
依頼報酬が入ったから、買い物にでも行ったのか?
俺たちも夕方まで特にすることもないし、どこかに出かけるか。
「あたいもヴィオんトコに行こうと思ってたんだが、お前らが起きて来ないんで待ってたんだぜ」
これは済まない事をした。
寝坊したのは俺じゃないが……
「昨日の飲みっぷりじゃ、どうせヴィオも寝てるだろうけどな」
確かにそうだ。
ヴィオの寝坊っぷりは、ルーナより酷いからな。
遅い朝食を取り終わり、俺たちも出かけることにした。
……と言っても行くところも特にない。
とりあえず冒険者通りをぶらぶらと歩き出した。
「どこに行こう? ルーナは行きたいところはないか?」
「屋台! 屋台はどうなのです?」
別に屋台でも食堂でも構わないが、今さっき飯食ったばかりだぞ。
ルーナの腹はどうなってんだ?
「ほら、これで好きなものを買え!」
銀貨を数枚に渡すと、ルーナは早速、手近な屋台へと駆けていった。
「ちょっとクロム! これ美味しそうなのですー!!」
叫ぶな。
猫に向かって叫んでいると、変な子に見られるぞ。
近寄ってい見ると、どうやらドーナツ屋のようだ。
女の子は甘いものに目がないからな。
ルーナは食い物全般に目がないが……
「お嬢ちゃん。もしかして冒険者なのかい?」
ドーナツを選んでいるルーナに、屋台のおばちゃんがそう声を掛けてきた。
不思議だ。
どこからどう見たら冒険者に見えるのだろう?
俺にはどこをどう見ても、ただの食いしん坊の娘にしか見えんが……
「そうなのです。冒険者なのです!」
冒険者らしい事など何一つしていないのに、何を偉そうに言っているのだろう?
「もしかしてクロムと言うのは、その猫の名前かい?」
「そうなのです。クロムって言うのです」
「もしかしてその黒い子猫は、お嬢ちゃんの召喚魔かい?」
「そうなのです」
「もしかしてお嬢ちゃんの名前は、ルーナって言うのかい?」
「そ、そうなのです。ルーナ……なのです」
何だ? なぜルーナの名前を知っている?
まさか、どこかの誰かがルーナを……
いや、どう見てもただのおばちゃんだな。
というか、自分で言っていて何だが、“どこかの誰か”って……誰だよ!
おばちゃんはルーナが選んだドーナツを手渡しながら、さらにもう一つ質問をしてきた。
「もしかしてお嬢ちゃん、“黒猫使いのルーナ”なのかい?」
「そうなので………… えっ? 黒猫使いの???」
なんだそれ。
いつの間にかルーナは有名人なのか?
しかも“二つ名”付とか……
「おや、違うのかい? スライムやジャイアントアントの大群を倒した娘じゃないのかい?」
「倒したのです」
倒したのは俺だがな。
「ならそうだよ。あんた“黒猫使いのルーナ”って呼ばれてるよ。この子猫も喋れるんだろ?」
「そ、そ……そうなの、です」
ふむ。
何もかにもバレバレだな。
「何日か前から噂になってるよ。さっきも、確かザンバって男が吹いて回ってたわね。今度は猿の大群を倒したって!」
ザンバの野郎か……
あとで懲らしめないとな。
「ちょっと抱いてみてもいいかい?」
へっ? えっ、あ……
いや、いいんだけどね別に。
いいんだけど、まだ許可は出してなかったぞ。
屋台のおばちゃんは、“ヴィオ級の爆乳”を押し付けながら、俺をモフモフし始める。
まあ、胸も爆乳だが体全体も“爆乳級”なのだが……
モフモフ、モフモフ――
「ふわふわだねぇ。何か喋らないのかい?」
何かと言われてもな……
「もうそろそろ、いいかな?」
ルーナはドーナツ食いながら見てるだけで、止めてくれそうにない。
仕方がないので自分で止めさせた。
「あらあら、済まなかったね! 触り心地がよくってね」
しかし、なぜおばちゃんは「あらあら」と言うのだ?
前の世界でもそうだったが、ここでも同じだな。
さて、それはともかく……
ずっと俺たちの様子をうかがっている輩がいる。
こいつらは大鍋亭を出てから、ずっと付いて来ているんだが、どうしたものかな。
タイトルは、オズの魔法使い/ライマン・フランク・ボーム より拝借




