47話 帰って来たヨッパライども
その夜、大鍋亭の一角では、酒宴が繰り広げられていた。
「くわぁー! 美味い!! やっぱり大鍋亭で飲む黒炎酒は最高だぜ」
いや、ヴィオはどこで飲んでても美味そうだぞ。
「やはり活躍した後の酒は美味いな!」
活躍? ザンバって活躍したっけ?
「クロムの魔法も凄かったですよね」
グラシアに褒められると、お世辞でも照れるな。
「……そうだな」
だから、ドーリはもっと話せよ!
パーティーのメンバーは、思い思いに森での出来事を話している。
エフィルとラエルは羨ましそうにそれを聞いている。
ルーナ?
ルーナはもちろん食事に夢中だ。
こいつが食事中に、人の話など聞くわけないだろ。
「どうしたクロム? さすがに疲れたのか?」
レネットが料理を運びながら言葉を掛けてきた。
「俺がこの程度で疲れるはずはないな。少し考え事をしていただけだ」
この世界に召喚魔として転生し、そしてルーナの召喚魔として、今こうして生きている。
魔法を使い、魔物を倒す日々。
冒険者や魔道士、エルフにドワーフといった友人たち。
それは前世では考えられないような、ファンタジーでファンタスティックな毎日。
底辺層のフリーターだった前世とは大違いだ。
「なーにーを、やっている? 飲みが足りないんじゃないかぁ?」
ヴィオ……
お前らは俺に、感傷に浸る間も与えない気だな。
「お前が飲み過ぎなだけだろ!」
「オレの辞書に“飲み過ぎ”などと言う言葉はない。いいからお前も飲め!」
ヴィオの小脇に抱えられ、ザンバのテーブルへと連れて行かれる。
顔にでかい横乳が当たるから、その抱き方は止めてくれ!
「おお、クロム! 飲んでるか? おーいレネット、クロムにも酒だ!」
ザンバ、お前もか……
この酔っ払いどもは、どうにかならんか。
酔っ払いどもの酒宴は、まだまだ終わらない……
同じ夜。
クロムたちのいる大鍋亭から、大通りを挟んだ向こう側にあるアムール通り。
娼婦街とも言われるアムール通りだが、あるのは娼婦館だけではない。
美しい女性とお酒が飲める店も多数存在する。
もちろん店によって、そして金によってそのサービスは様々だ。
その中の一件の店に、彼らはいた。
その店は薄暗く、それぞれが個室になったいて密談にも持って来いと言える店の造りをしていた。
「――という事ですぜ、旦那」
「つまり……スライムもジャイアントアントも、冒険者のなり立ての少女が倒したというのだな」
「へい。仰る通りですぜ」
「それでは今回の件も、その少女がキーマンという事か」
「でしょうな。ザンバたちだけでそんな事が出来るわけがねぇ」
「兄貴の言うとおりだ。ザンバなんて大したことねぇしな!」
ザンバをボロクソに言っている二人は、冒険者のカラコーゾフ兄弟。
ザンバたちがスライム退治の時に仕方なく組んだ、ザンバ曰く“いけ好かない”兄弟どもだ。
「何でも、その娘の召喚魔は“喋る子猫”だそうですぜ」
「高位召喚魔か……当たり前と言えば当たり前か」
カラコーゾフ兄弟の相手は、魔道士風のマントのフードを被ったままで顔はよく分からない。
どうやらその男は、兄弟にルーナたちの事を聞いていたようだ。
「では……例えば、だが…… その少女を消してくれと言ったら……?」
その言葉に、兄弟は一瞬ギョットしたような表情を見せた後、二人で耳打ちをし始めた。
二人の様子を、フードの男は無言で見つめている。
その表情はフードによって隠され、男の心を計り知ることはできない。
「まあ、そこは金次第ということでさぁ」
彼らの夜も、短くはないようだ。
「だーかーらっ! 飲めって言ってんだろ!!」
ヴィオが俺の皿に黒炎酒を注ぎ込む。
……だから飲んでるって。
「俺の、俺の召喚魔が話しかけてくれたんだよーぅ!!」
ザンバよ……ルフォールと契約して何年だ?
喜んでる場合か?
たった一言だぞ。
「クロム、私そろそろ部屋に戻りたいんですけど」
そう言うなよグラシア……俺もだ。
「……そうだな」
だから、ドーリは(以下略)
エフィルとラエルはとっくに部屋に戻っている。
元気なのはヴィオとザンバだけだ。
え? ルーナ?
ルーナなんら隣にいるぞ。
隣で“ビスタチオ”を食いながら…………寝てるな。
「ムニャムニャ……ポリポリ……ムニャムニャ……」
器用だな。
寝ながら食うのは特技になるのかな?
ちなみにビスタチオが出てきたのは、ルーナが酔っぱらって俺の魔法を唱えたからだ。
確か「喰らえ! “ビスタチオ”!!」……だったな。
俺はお前に“閃光”を喰らわせたい気分だよ。
今喰らってるのはビスタチオだがな
それにしても、この世界にもあったんだな。
ビスタチオ……
ズッカの夜は更けていく。
タイトルは、、ザ・フォーク・クルセダーズ「帰って来たヨッパライ」より拝借




