46話 それでもルーナは夢を見る
俺が出した解体場を埋め尽くすほどの猿の山に、職人たちはざわめきたった。
「こりゃあ、多いわ!」
「猿だらけだな……」
「徹夜、か?」
解体職人たちは、みな職人長のレギンと同じくドワーフだ。
力仕事とともに魔法も使うので、ドワーフに向いている仕事なのだろう。
「まさか、この数を明日の朝までなんて、無理な事を言う気じゃないだろうな?」
レギンは俺とルーナに言っているようだが、顔はジェイクに向いている。
普段も無茶をさせている時があるようだ。
「特に急がせるほどの理由はない。遅過ぎじゃなければそれでいいぞ」
なるべく早くして欲しいが、別段急かす理由もない。
「明日の昼、いや夕方でどうだ?」
全く問題ないな、早いくらいだ。
「そんなに早くて大丈夫なのか? 明日でなくても構わんぞ」
「いや、それ以上待たせるのは俺たちの沽券にかかわる!」
魔物の解体職人と言えども、やはり職人だ。
職人気質なのは変わらないようだな。
それともドワーフは皆、こうなのだろうか?
ドーリは無口だからよくわからんな。
「そう言うのなら、明日の夕方ということにしよう」
俺との話が終わると、レギンはてきぱきと指示を与えると、職人たちは解体の準備に取り掛かった。
「ところで、肝心の白銀だか金色だかの大猩猩は……見せてもらえるのかな?」
さすがの解体職人長にも珍しいようで、レギンは金色大猩猩を見てみたいようだ。
どうせジェイクに見せるのだから、どこで見せても俺には同じことだ。
「構わん。……のだろ? ジェイク」
ジェイクは“問題ない”といった風に、頷いて見せた。
「では、出すぞ!」
金色大猩猩を異次元空間からこの場に出すと、職人たちは作業の手を止めた。
「こりゃあ、すげぇわ!」
「見たことないな……」
「マジ、か?」
レギンが見たことないのだから、彼らが見たことないのは当然のことだ。
そもそもそのレギンが一番、金色大猩猩に釘付けだがな。
「こ、これは……何という美しさだ!」
当たり前だ。
俺が作ったんだからな。
本当はもっとギリギリまで粘れば、もう少し金ピカになったはずだ。
だが、俺はあえてプラチナゴールドに留めておいた。
爆発されたら困るというのもあったが……
単に俺の好みだからだ。
どうもゴールドはあまり好きではない。
個人的には、プラチナゴールドくらいが無難だと思うのだがな。
「こ、これはどうするんだ? 解体はしないのか?」
「そうだな。これはこのままだ」
「そ……そうか……」
もしかして、レギンは金色大猩猩を自分で解体したかったのか?
別に解体自体は、普通の大猩猩と同じだと思うんだが……
「自分が、この手でやりたかったのに……」
うん。
マニアックな思考にはちょっと付いて行けないな。
今にもよだれが出そうなレギンを無視して、さっさと金色大猩猩をしまい込んだ。
「これでいいか? これで納得できないなら、ヴィオの召喚魔に映像を見せてもらうしかないぜ」
「いや、これで充分だ。大量の大猩猩とは金色大猩猩を見せられたら疑う余地はない」
ジェイクはそもそも疑う気もないようだ。
「それでだ……何度も言っているから分かっていると思うが、このズッカのギルドは資金が少ない――」
「知っている。買い取れないんだろ」
俺たちへの報酬を払うのが精いっぱいで、買い取りは無理なはずだ。
たぶん金色大猩猩どころか、大量の猿の素材さえ買う事は困難だろう。
「魔臓だけなら何とかなる。と言うより……」
言うより?
「私が代わりに説明します」
エフィルがジェイクの代わりに話し出した。
「今回のは毒吐猿、灰色大猿、大猩猩の解体料はすべて一体45レオネです」
意外とするもんだな。
「クロムさんの話では全部で146体という事なので、解体料は6570レオネになります」
た、高いな。
まあ、数が数だけに仕方がないな。
「魔臓の買取価格は、毒吐猿が20、灰色大猿が40、大猩猩が50レオネで全て合わせると……」
合わせると?
「5600レオネです。解体料には足りませんね」
「……カ、カーバンクルの魔臓も七体分あるぞ」
「カーバンクルは10レオネですから、それでも5670レオネですね」
……厳しいな。こういうとこはきっちりしている。
エフィルは実質、ギルドの金庫番なのだろう。
「他の素材の買取価格は幾らなのだ?」
「毒吐猿の毒袋と大猩猩の毛皮が1000、灰色大猿の鋼の毛皮が2000レオネです」
「だったら毒吐猿の毒袋か、大猩猩の毛皮を一つやろう。それでどうだ?」
「そうなると6670レオネになりますが……」
「100レオネくらい構わん。ギルドに寄付してやろう。いいよな? グラシア」
「えっ! え……ええ」
ん? どうした? 不味かったか?
エフィルの言った価格なら、他の素材を合わせれば15万レオネ、一人あたま3万レオネになる。
100レオネなんて、はした金だろ。
って……あれ? 3万レオネ?
3万レオネって、たしかルーナの借金も残り3万レオネだよな。
これを売り払えるなら借金はチャラだな。
依頼報酬の7000レオネもあるし、当分何もする必要がないな。
いや待て。
それ以外に、成功報酬もあるな。
加えて、柘榴猿の魔石にジュエルドラゴンの鱗、そして金色大猩猩もある。
そういえば獅子王蟻もあったな。
全て売り捌けば……
結構な金持ちじゃね?
と、俺が“取った魔物の皮算用”をしているとジェイクが邪魔をしてきた。
「成功報酬は明日に協議して決定する。今払えるのは依頼報酬の分だけだが……いいかな?」
いいかな?も何も決定事項なのだろ?
「構わん。それでいいよな? グラシア」
「え? あ……は、はい」
せっかく台詞を与えているのに、どうして“え”とか“はい”しか言いわないんだ。
そんな事では出番が減るぞ。
なあ、ルーナ。
……って、こいつまた寝てやがる。
立ったまま寝るというのは、特技に入るのか?
「むにゃむにゃ……えいっ! “ビスタチオ”!!」
はいはい、“悪魔の閃光”のことね。
俺はナッツの女王なんて魔法は使わんぞ!
寝言は特技に入るの……かね?
タイトルは、それでも僕は夢を見る/水野敬也 より拝借




