45話 舟を漕ぐ
森から転移し、もはや見慣れたヴィオの店に戻ってきた。
「やっぱり我が家が一番だぜ!」
店に転移した途端、ヴィオがそう言った。
それは数日家を空けていた奴の台詞だ。
毎晩家に帰っていたお前の台詞ではないな。
「ベッドでゆっくり寝てぇな!」
「……同じく」
ザンバとドーリだけはテントで野営だったからな。
それは確かに否定しないが、ザンバは“ゆっくり”寝てたような気もするぞ。
「その前に、ギルドに報告に行かないといけませんよね」
グラシアの言う通りギルドに報告しなければ、貰うものも貰えない。
「そうだな。どうする? 全員で行くこともないとは思うが……」
「あっ! オレはパスだな」
知っている。ヴィオが行くとは最初から思っていない。
「すまん。俺は少し休みたい」
「同じく……だな」
ザンバとドーリもパスか。
こういう時にザンバが行かないと言うのも珍しい。
さすがに疲れたようだな。
「私は大丈夫です」
「わたしも大丈夫なのです」
グラシアはともかく、ルーナは大丈夫に決まってるだろ。
ただ見てただけなんだから。
「では俺とルーナ、グラシアで行って来よう。ザンバとドーリは、宿に帰ってゆっくりしてくれ」
「今晩は大鍋亭で祝宴だな。帰りに寄ってくれよ!」
「おお、それだ! そのためにも少し寝ておくか」
ヴィオとザンバの行動原理は、ひたすら“酒”だけだな。
俺とルーナそしてグラシアは、酒の話で盛り上がるヴィオとザンバ、その傍で呆れ顔のドーリを残しギルドへと向かった。
ギルドの扉を開けると、エフィルが真っ先に気が付き、俺たちに駆け寄っていた。
冒険者たちが帰ってくる時間にはまだ早く、ギルド内はあいかわらず閑散としていた
「あれ? クロムさん。森の調査はもう終わったんですか?」
どうしたもこうしたも、昨日までの事は妹のラエルから聞いているはずだ。
知っている側からすると、芝居がかった台詞にも聞こえてしまう。
「ああ、思ったより簡単だったぞ」
「簡単なのです♪」
そりゃ簡単だったろうな。
ルーナは見ているだけなんだから……
「クロムやルーナには簡単でいつも通りかも知れませんが、私にはあんな事は初めてでしたよ」
「あんな事とはどんな事だ、詳しく聞かせてもらおう!」
話を聞きつけ、奥からギルド長のジェイクが出張って来た。
こっちからお願いするぜ。
詳しく話さないと、異変の排除分の報酬が上がらないからな。
「エフィル、奥の部屋に通してくれ」
例のギルド長室というか応接室というか、ともかく奥の部屋に通された。
「――という事なんです」
面倒なのでジェイクへの説明はグラシアにしてもらったが、正解だったようだ。
グラシアにとって魔物の群れは、新鮮極まりない初めての経験であり、説明も興奮気味だった。
俺なら淡々と説明していただろう。
それに、状況描写の説明が上手い。
どこかの素人小説家とは大違いだ。
あれ? なせだろう……意味も無く、急に悲しくなってきた。
「それで、その大猩猩どもと、白銀だか金色だかは見せてもらえるのかな?」
当たり前だ。
見せなければ納得しない、納得しなければ報酬だって貰えん。
「見せるのは構わないが、ここに出してもいいのか? 大猩猩だけでも86匹あるぞ」
「何っ? そんなにあるのか! 部屋が大猩猩で埋まってしまうぞ!」
埋まるどころか全部出したら入りきらんな。
「倉庫……いや解体場か」
「そうだ、解体も頼みたい。あと、ついでに狩った灰色大猿が5匹、毒吐猿が55匹あるぞ」
「な、なっ…………解体場でもようやくだな……。 エフィル、職人長のレギンを呼んでくれ」
職人長の職人とは解体職人の事だろう。
エフィルに呼ばれ部屋にやって来たのは、白髭の屈強なドワーフだった。
「レギン、解体場に空きはあるか?」
「ここ数日、大した量の魔物は来とらんぞ。最近大量に来たのはジャイアントアントのケツぐらいだ」
ああ、俺のか。
「どうせ今日も大した量は来ないだろうと思って、ワシ以外は帰らせようとしていたところだ」
「それは不味い。今から大量の魔物を解体場に出すところだ。早引けどころか徹夜だぞ!」
「大量って、何が何匹でそんな話をしてるんだ?」
ジェイクの慌てぶりを気にも留めず、レギンはのんびりと言ってのけた。
「ここにいるルーナとクロムが、また魔物を狩って来たんだ。……クロム、教えてやってくれ」
「大猩猩が86匹、灰色大猿が5匹、毒吐猿が55匹だ」
なんで俺が言わなきゃないんだ?
さっき言っただろ、ジェイクが言えよ!
「な、なんだと? ……って、お前らか? 例の、猫の召喚魔とその契約者の少女ってのは」
“例の”というのが多少引っ掛かるが、たぶんそうだな。
「大量の蟻の次は大量の猿か。随分と肝の座ったお嬢ちゃんだな……この状況で寝れるくらいだし」
気が付くと、俺の隣でルーナは舟を漕いでいる。
「ムニャムニャ……うりゃ! “アセガ・デル・ムシブロ”!」
……蒸し風呂は汗が出るのが普通だぞ。
そして、お前が言いたいのは“レガロ・デル・ディアブロ”、悪魔の贈り物だ。
タイトルは、舟を編む/三浦しをん より拝借




